第21話 飛蝶無能化作戦承認
それまで無言でララ、リリ、ルルの顔を順番に見ていた早津馬が布に姿を変え舞い上がっていく子供達を見上げながら「凄いなー」と言った後、「さすが飛蝶の子供達、顔が綺麗、いやもう単なる綺麗を超越してる」と言うと求美が悲しそうな目をした。華菜が早津馬の背中をつついて振り向かせ、早津馬に怒った顔をした。それで気づいた早津馬が慌てて「求美ちゃんは別格、唯一無二、誰も挑戦者にもなれない。本当に綺麗、大好きな顔」と本音なのに、嘘ととられかねないほど過剰にほめ言葉を並べ立てた。にもかかわらず求美は「早津馬さんの言葉なので信じます」と照れた笑顔で言った。華菜が早津馬に「うちのボス、私にだけ言うんです。殺生石に閉じ込められるまでもの凄くモテてたのに、自分をブスだって。まあ実際は閉じ込められてただけなんですけど表向き殺生石に変えられたことになっていたのでそれを聞いた、たくさんいた求婚者のうち殺生石まで逢いに来てくれたのがごくわずかな人数だけだったので、それですっかり自信をなくしてしまったんです。石になってしまったら逢いに来ないの当然なんですけどね。まして僅かな人数でもわざわざ来てくれたのって凄い愛されてたんだと思うんですけどね」と言うと早津馬が「求美ちゃんがブス?宇宙一可愛いのに…。俺の好みは多数派だから…、今まで生きてきてずっと多数派だったから。その俺がめちゃくちゃ可愛いって思うんだからみんなが可愛いって思ってるよ、間違いなく」と求美に言うと、早津馬の言うことを素直に信じられる求美が「早津馬さんは本気でそう思ってくれている。早津馬さんさえそう思ってくれてるならそれで十分」と本当に本当に嬉しそうな顔をした。その求美を見ていた華菜が「分かりやすーい」と小さな声でつぶやいた。そしてその後、「ちゃんと責任とれよ、早津馬」と心の中でつぶやいた。求美の笑顔が戻りほっとした早津馬がララ、リリ、ルルを見送った時に感じた疑問を思いだした。そして求美に聞いた。「飛蝶も妖怪なんだからエレベーターなんか使わず、なんか飛べるものに姿を変えて部屋まで行けるんじゃない。なんでわざわざエレベーターを使うんだろう」と。すると求美が「見栄っ張りだからですよ、きっと。飛蝶も飛ぶ蝶と書くくらいなので飛べるんです。あいつの性格どおり派手な蝶になって。でもそれじゃ見栄っ張りな性格のあいつの心を満たせないじゃないですか。今は深夜だからめったに人と出会うことはないですけど、もし出会ったら、わざと咳払いをするとかして自分に注目させてから、最上階のボタンを押して優越感を味わうんです、楽しむんです。きっと」と答えた。早津馬が「ああなるほど」と言い納得の表情をした。早津馬に褒められ、そして早津馬と話したことですっかり気分を良くした求美が「それじゃ作戦会議始めようか。名付けて飛蝶無能化作戦」と言うと華菜が「初めて聞くけど」と言い、求美が「初めて言ったからね。今、思いついた」と言った。華菜が「無能化って、あいつ有能だったっけ?どういうこと?」と聞いたのに対し求美が「ララ、リリ、ルルを見たら、飛蝶を私達と入れ代わりに殺生石に閉じ込めて、あの子達を身無し子にするなんて絶対できないと思った。だから飛蝶の妖怪としての能力を全て奪って、何の能力も持たないただの6本足の狸にする。そして野生の狸として自然界に放てばいい。何か危険なことがあってもあの子供達が、あの凄い子供達が守るから何の心配もいらないし。」と言った後、少し間をおいて「もともと飛蝶の命を奪うなんて私にはできないから、飛蝶の悪事を封じ込める何かいい方法がないかなってずっと考えてたんだ」と答えた。華菜が「そんなこと言ったって、命を奪わず能力だけ奪うなんてことボスにだってできないよね」と言うと求美が「確かに能力だけ奪うなんて真似、私にはできない、でもいるよね。それができる…」と言いかけたとき華菜が「ああ…丸顔かー」と言った。そして続けて「確かにあいつなら可能なはずだね、普段あんなだけど神様だもんね」と言った。
その頃、新宿のとある闇営業キャバクラに居続ける丸顔神はまあまあ好みの女の子を見つけて指名したところ、思いのほか会話が盛り上がり、楽しすぎて神から普通のスケベ男になっていた。まさしく何も聞こえない壊れたラジオ状態で、華菜が自分のことを丸顔とかあいつと言ったことに気づくことはなかった。
☆壊れたラジオで、壊れかけのレディオではありません。あしからずご了承ください。
「でも、このまま早津馬さんのタクシーで作戦会議すると、早津馬さんが仕事にいけない。どうしよう」と求美が華菜に言うと華菜が「アーチのこと忘れてない?作戦会議にはアーチも入れるよね。酔いつぶれてたけど醒めたかな、様子見てみる」と言い特殊能力を持った竹刀がその能力で化けた、バッグの中を覗くとぐったりした鼠が横たわっていた。華菜が「アーチ、酔いつぶれたままだ」と言うのを聞いた求美が「じゃあ、アーチ抜きで二人で作戦会議か…」と言いながら視線を感じ、ふと早津馬を見ると何か言いたそうな顔で自分を見ていた。その理由が分かり更にその信念の強さを早津馬から受け取った求美が妥協案を思いついた。それでまず最初に「早津馬さんも作戦会議のメンバーです。だけど仕事をしてもらわないと…、後は分かりますよね」とふり、渋々うなずく早津馬に「アーチが酔いつぶれていて、アーチを入れての作戦会議ができないし、家まで連れて行ってあげないといけないので…」と続けた。早津馬が「アーチの家って?」聞いた。華菜が「鼠の巣ですよ」と答えると早津馬が「ああ」と納得した。そこで求美が「アーチの巣、いや家があるのが中野なので中野に着くまで早津馬さんも作戦会議に参加してください。これでどうですか?」と提案すると早津馬が「それなら」と納得した。早津馬のタクシーに全員乗車して中野に向かった。「あれ、作戦会議が始まらない」不思議に思った早津馬がルームミラーで後席を見ると求美と華菜が二人肩を寄せ合って寝ていた。「やっぱりこうなるかー」と思った早津馬だったが「けっこう飲んだみたいだからしょうがないか」とどこまでも優しい早津馬だった。中野に近づいたとき早津馬が「もうすぐ着くよ」と後席の求美と華菜に声をかけるとゆっくりと眠りから覚めるのがルームミラー越しにも分かった。その様子が姿は人間なのに何か違和感があった。「やっぱり人間ではない」と思う早津馬だったが、恐怖感は全く感じなくなっていた。完全に目覚めた求美が「すみません、寝てしまって」と言った。早津馬が「求美ちゃんの寝顔を見られて良かったよ」と言うと求美が「見たんですか」と言い、恥ずかしそうにした。華菜が心の中で「少しはやるじゃないか、早津馬」とつぶやいた。そしてわざと早津馬に「私は、華菜の寝顔は可愛いかった?」と聞いた。すると華菜に大分慣れた早津馬が「うん、可愛いかった。求美ちゃんの次にね」と答えた。「ちぇっ」と言いながらも華菜の顔は笑っていた。「ボス、作戦会議は?」と華菜が求美に聞くと「そうだね、とにかく丸顔神に飛蝶の見た目じゃない本当の姿を見せないと、そして悪事をはたらくところを現認させないとね」と言った。もうすぐアーチの巣、いや家の近くというところに達していた。それに気がついた求美が「もうすぐ着くんですけど、作戦会議を続けたいのでここで一旦車を停めてもらっていいですか?」と言うと早津馬が「当然OKだよ」と言ってすぐタクシーを道端に寄せて停車させた。求美が「早津馬さんすみません。仕事のじゃまをして」と気づかいみせているのに、華菜は寝てしまったことなどなかったかのように直接本題に入り「この作戦の一番の問題は丸顔が呼んでもすぐ来ないことだよね」と言った。早津馬が「呼んでもすぐ来ないって、神様って時間も距離も超越した存在なんじゃない?呼べばいつでもすぐ来てくれるんじゃないの?」と言うと求美が「そうなんですけどあの神はねー」と言い、続けて華菜が「尋常じゃない女好きなんでそっちが優先するんで」と言った。それを聞いた早津馬が「神様なのにー、認識変わるなー」と言った。そして続けてその対応策として「例えば来てほしい時間の1時間前とか2時間前に呼べばいいんじゃない?」と言うと求美が「私は親戚のおじさん相手みたいに話をしてますけど神様なんですよね、神様。だから嘘はすぐバレます」と言った。「そりゃそうだよな、人間じゃないんだよな。馬鹿なこと言ってしまった」と早津馬が自分の愚かな発言を反省した。求美が「飛蝶のやつ明日もまたやるだろうから、被害者をできるだけ増やさないためにも、明日また泥酔した人間をあの部屋に集めたその時、作戦を決行しようと思うんだけど」と言うと華菜と早津馬から同時に拍手がおきた。華菜が「具体的にはどうやるの?」と聞くと求美が「室内にいる飛蝶を拘束するんだから…、まず最初に私の尻尾4体で鼠のホステスとお客の人間を部屋から出し、中にいるのが飛蝶だけにする。残りの尻尾4体で部屋の四隅を押さえ飛蝶の動きを封じる。そして最後に私の妖力で飛蝶に幻覚を見せて感覚をマヒさせる。完全に動けなくなったところで丸顔神を呼ぶ。丸顔神が来るまで何時間でもその状態を維持させる。耐える」と答えた。華菜が「私の出番は?」と聞くと求美が「華菜は非常事態に備えての待機。不測の事態って起きるもんだから」と答え、そして続けて「それでもの時にはあの妖刀がある、それで万全!」と言った。「分かった」と華菜が了承した。その時、早津馬が「九尾結界」と大きな声で言った。華菜が早津馬の顔を見ながら冷静な声のトーンで「テレビの見すぎ」と言い、更に「4尾結界だし」と言った。早津馬は「ちょっとふざけただけなのに、確かにテレビはよく見てるけどテレビしか楽しみないんだから」と年齢に似合わないいじけ方をした。求美にはその早津馬が可愛いらしく見えた。華菜が「誰かこっちを見てるよ」と言った。早津馬が気がついていながら黙っているようだったので求美が「お客さんみたいですよ。私達のせいで売り上げが伸びなくてごめんなさい。これからもう少しだけ頑張ってくださいね」と言ってタクシーを降りようとするとその客は別のタクシーを止めていた。それを見た華菜が「もう少し先まで送ってもらっていいですか?」と言うと早津馬が「どこまでも」と答えた。再び早津馬のタクシーに乗車し直した求美が「この先の中野駅のガードの手前、左に曲がれますか?」と聞くと早津馬が「曲がれるよ、じゃ左に曲がればいいんだね」と言ってタクシーを発車させようとした。その時、華菜が「ちょっと待って」と言った。華菜が特殊能力を持った竹刀がその能力で化けたバッグに異変を感じたようで、バッグを開けると中から鼠が顔を出した。その顔はなんとなく苦しそうに見えた。その時バッグが鼠を吐き出した。特殊能力を持った竹刀には未来を予知する能力もあるようだった。マットの上に落ちた鼠が両前足で口を押さえていた。早津馬がその様子から察知し素早くドアを開けた。鼠は自ら身をのりだし一気に吐き出した。吐出物は鼠の口から出ると何倍もの大きさになりそこそこの量になった。求美が鼠を再び人間の姿に、アーチに変身させた。アーチに戻った鼠はぐったりしながらも「これでまた飲めそうです」と言った。求美があきれた顔をした。華菜が吐出物が気になり「早く車出しましょ」と早津馬に言った。言われた早津馬は反射的にタクシーを発車させた。直後、早津馬は吐出物を片付けなかったことを後悔したが「後で戻って片付ければいいか」と思い、そしていつの間にか忘れしまった。
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