第11話 早津馬と再会
アーチは最初何が起こったか分からないようだったが、いつもは四本足の姿勢なのにいつの間にか自分が二本足で立っているのに気がついた。手足を見ると人間と同じだった。その意味を理解したアーチは驚きそして喜んだ。「本物の人間になってみたかったんです」と言いながら跳ね回るアーチを見て求美が「本物」の意味に気付かないまま「良かった」とつぶやいた。飛蝶の居場所の捜査のため路上への出口へ向かった三匹…、面倒くさいので三人は出口に着くと、出口から三人並んで目から上だけを出して辺りを見回し人目がなくなるのを待って路上に出た後、求美の妖力でサイズアップした。求美と華菜は元の大きさに、アーチは人間の女の子の標準的な大きさになっていた。アーチが「私も普通の女の子のサイズになった」と言って喜んだ。それを見た求美が「極小の人間だと大騒ぎになるからね」と言って笑った後「じゃあ行くよ」と言って先頭にたち三人で中野駅に向かって歩きだした。駅に近づいた頃、商店の窓ガラスに映る自分の姿に気がついたアーチが、人間になっていることを確認して喜んだ。元が鼠でもやっぱり顔が気になるのか、更に窓ガラスに近づいてじっくり自分の顔を見た後、がっかりな表情をした。鼠も美の基準が人間と同じなのか「求美さんも華菜さんも凄く可愛いのに私は可愛くない」と一緒に立ち止まっていた二人に言い、目で可愛くしてアピールをしてきた。求美が申し訳なさそうに「人間に変えることはできるけど顔立ちを選ぶことはできないんだ」と言うとアーチが「求美さん、選ばなくてその顔ですか?凄く可愛いじゃないですか?」と返した。求美が「ちょっと言いにくいんだけど土台がいいみたい私…昔、玉藻の前と呼ばれてたんだけど、凄い美人がいるって日本中に噂がたってたらしいからね」と言うとアーチが「私の人間としての顔は、このレベルってことですね」と悲しそうに言った。が、すぐ笑顔になり「私、鼠界では可愛いで通ってますから。これで十分」と言った。アーチは根っからポジティブな性格のようだった。求美とアーチが顔を見合わせにっこりしていると、前から来たタクシーが三人の横で止まった。そして乗務員が降りてきた。
早津馬だった。そして「やっぱりいた。勘が当たった。黙って出ていかないで俺の意見も聞いてくれよ」と思いの丈をぶつけるように求美に話しかけた。「探してくれてたんですね。うれしい」と言って求美が早津馬に抱きついた。うぶなはずの求美のその行動を見ていた華菜があ然としていた。求美自身もそれに気づき慌てて早津馬から離れた。でもそれで求美と早津馬のわだかまりが全て解消し、互いが信頼できる相手であることを確信した。早津馬が一緒にいるアーチを見て「その人は?」と聞くと求美が「この娘とは今日の朝知り合ったの、名前はアーチ、鼠なんだ」と答えると、人間なら当然驚くほど非常識なことに慣れてしまった早津馬は普通に「へー、鼠なんだ」と言い、続けて「こんばんは」とアーチに声をかけた。かけられたアーチが「こんばんはー、アーチでーす、鼠でーす」と言った後、歩いている途中華菜に自分の名前の由来を聞かされていたので「名前は求美さんがつけてくれました。安易に」と言った。「ちゃんと考えたよ、アーチいい名前だと思ったんだけどな」と求美が言うと早津馬が「可愛い名前、うらやましいな」と続けた。狐と人間なのに阿吽の呼吸だった。アーチが笑顔になった。求美が「こちら早津馬さん」と紹介すると「美味しそうな名前ですね」とアーチが言った。言われなれているのか早津馬が普通のトーンで「字が違うんだけどね」と返した。そんな時、タクシーをのぞき込む人がいた。お客さんだ。無視すると求美に怒られるのが分かっている早津馬は求美に「仕事してくる。用がある時はこれで呼んで、使い方はこれに書いといたから。絶対だよ!」と言ってスマホとメモを渡した。正に後ろ髪をひかれるとはこのことという見本のような顔をしてタクシーに乗り込んだ早津馬は、客を乗せて走り去った。早津馬のタクシーを見送った後、求美が中野駅の方を見ると、見える範囲が自分達が歩いてきたガード脇の狭い道幅の間だけなのに、中野通りの歩道を南から北へ、後ろを振り返りながら歩く数人の男達が見えた。その後からブランド物で身を包んだスタイルのいい女性が現れた。
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