第23話 いざ、大社へ
『次は終点、出雲大社前、出雲大社前。お忘れ物の無い様ご注意下さい』
乗車して来たのは、”ばたでん”の愛称で親しまれている
「んんん~っ!ようやく着いた、かぁ」
「着いた着いたぁ♪たまにはローカル線の旅も良いよね?」
終着である出雲大社前駅に到着し、降車した小次郎と美由紀は大きく伸びをする。
「まぁ、たまには・・・ね。
本音を言えば俺的にはバイクで動けたほうが楽で良いんだよねぇ」
「ぶぅ~、せめてソコは
「・・・マテ、家じゃねぇやん・・・・」
「いいの!そういう細かいことは気にしないの!」
「「にぃに、オンナゴコロを理解しないとダメだよ!」」
「ハイハイ・・・ったく、調子狂うなぁもぉ・・・JCJK怖い・・・・」
美由紀・暮葉・柚葉の3人から集中砲火を浴び、
苦笑いしつつ首をコキコキ鳴らしながら改札を出て、駅舎を背に周囲を見渡す。
左手には宇迦橋大鳥居(一の鳥居)、右手には遥か先に勢溜の大鳥居(二の鳥居)が
抜群の存在感で鎮座しており、駅前の神門通りは車道と歩道の段差が少ない。
歩道には多くの松の木が植えられており、その多くには松ヤニ採取の跡がある。
太平洋戦争末期。
石油資源枯渇に伴い、日本軍は松の油で戦闘機を飛ばそうと計画。
代替燃料として使うため、小学生たちに採取させたのだ。
採取跡は全て小学生の目の高さ。
当時の子どもたちが戦争に関わらざるを得なかった事実がこうして残っている。
結局、この計画は失敗を隠したまま終戦まで続けられ、何の役にも立たなかった。
無茶苦茶で、場当たりで無計画・・・日本の戦争を象徴する出来事の一つだ。
年配者の話や資料館で戦争の悲惨さ、愚かさを学ぶ機会はあった。
これも忘れられた戦争の一つである事を直に感じ、小次郎は目頭が熱くなった。
小次郎が集中砲火を浴びている一方、その後ろで父親達も会話をしていた。
「そういえば、今回祥吾は連れて来られなかったのか?」
祥吾は美由紀の兄で、伊勢神宮の後継者筆頭。
両親達と同じく、跡を継ぐべく國學院大學に在学中だ。
「ええ。新嘗祭の準備もひと段落したので連れて来たかったんですが、
たまたま学祭と被ったようで。実行委員だし、仕方ないんですけどね」
「あ~、あの子マジメだもんなぁ」
「でも、ココだけの話、珍しく最後の最後までゴネてました。
『美由紀だけズルい!俺だって兄さんと出雲行きたい!』って。」
「だっはははは、祥吾といい美由紀といい、小次郎の奴ぁ相当慕われてんなぁ。
ゆくゆくは祥吾も連れて、改めて皆で来たいもんだ。『裏』関係なく、な」
「ええ、たまには一観光者として来るのも悪くないですね」
「よし、それでは早速向かうとしようか。小次郎のことも紹介せんとな」
そう言って、隆一郎は右手の大社方面に歩き出す。
伊勢神宮からは大宮司である近衛宗重・妻の彩羽・娘の美由紀(祥吾はお留守番)
鳴見神社からは如月隆一郎・妻の環菜・息子で現当主の小次郎・娘の暮葉と柚葉。
家族ぐるみの旅行とも解釈できるような『太陽と月』の御一行様は、
こうして出雲の地に降り立った。
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