第83話
次も重要な工程だ。
「火精霊よ、頼む」
『はい……。地精霊……手伝え……』
『はぁぁ』
湧く水を湯にするのも、先ほどと同じく今あるものを温めるだけでは駄目だ。そのため、火精霊は高圧的に地精霊へと助力を頼み、地精霊は嫌味たっぷりに溜め息を吐くような動作をしてみせる。それでそれ以上は何も言わずに手伝うのであるから、この二体は実は仲が良いのか?
吾輩から出ていった魔力が一旦火精霊に取り込まれ、そこから地中へと浸透していくのを感じる。吾輩は魔力の流れなど基本的には見えんが……、自身から出たばかりのものであればさすがに感じられるようだ。巨樹魔獣と戦った際には気付かなかったが、先ほどから何度も大量の魔力を抜き取られたことで今気づいた。
『む……むむ……』
と考えている間に火精霊が操作する魔力が感じられなくなってきて、代わりに作ったばかりの泉から熱気が漂ってくる。煮えるような温度ではなく、湯気の立ち昇る良い塩梅だ。
「えぇぇ……し、師匠……?」
「あと少しだから、良い子で待っているがいい」
話しかけてくるアイラを大人しくさせる。まったく、今にも湯につかりたくなってくるのはわかるが、仕上げが大事なのだ。顔を青ざめさせているようにも見えるが……ふむ? 確かに今日は風が少し涼し過ぎるかもしれんな。
そしてあと必要なのはまさにその風だ。湯につかって温まる体、出ている顔のヒゲを優しく撫でる涼しい風。環境全てが調和してこその温泉といえる。
「――という仕上げを頼む」
『はい! 僕に任せてください』
自分に出番はないと思っていたらしい風精霊に説明すると、嬉しそうに吾輩から魔力を抜き取りながら浮き上がる。
…………巨樹魔獣との戦いの時よりも疲労しつつあるような気がする。いや、ここまで来たら引き下がることも手を抜くこともありえん。
そう思いなおして、吾輩は一層と気合を込めて魔力を送り出していくのだった。
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