第二章

第68話 包青side

 並べられた品々はどれも華やかで一目で高級品だとわかるものばかり。



「女はこぇ~ぜ」


「包長官、お言葉が過ぎますぞ」


「いや……だってよ。見ろよ、これ!茶葉には微量の毒が紛れ込んでいやがるし、菓子には堕胎薬が入っているんだぜ……色合わせの豪勢な花束だってそうだ。これ……妊婦にはきつすぎる香りだろ?」


 ここにある物全てが淑妃宛ての贈り物だ。手の込んだ品々は、皇帝の子を身籠った淑妃を害そうとするものばかりだった。

 一見、妊婦にいいとされる精油や香にも全て何かしらの仕掛けが施されているようだ。丁子ちょうじは出産時にはその効果を発揮するが、妊娠中に使用するには危険すぎる。それを精油に混ぜ込むとは……考えたもんだな。

 それに、あの髪飾り……一見して普通のものだが……あれは細工師の特注品か?あの大きさの髪飾りの中に毒を仕込んであるとはな……男のオレじゃ見分けがつかなかったぜ。高力が贈り物の仕分けに女官を呼び寄せた訳だ。髪飾りだけじゃねぇ。指輪も耳飾りも腕輪も……なんらかの細工が施されていやがった。それも直ぐに効く即効性の物じゃねぇ。どれも“ある程度言い訳が可能な代物”だ。毒は毒でも使用方法によっては薬にもなるからな……安産祈願のためとか言われたらそれまでだ。知らなかったで済む程度のをわざわざ使用してやがる。一体何人の職人の手を使って作り上げたんだろうなぁ……。こんな事を考えてるだけで寒気がしてくるぜ……。

 

「確かに恐ろしいものです。しかし……この程度ならまだまだ可愛いものですよ」

 

「まだあるってのか!?」

 

 思わず声を荒げちまったが無理もない。これほどあるのに、まだあるとぬかすんだからな。しかも、そんなオレの反応を見ても高力は表情一つ変えずに平然とした態度のままだ。

 

「はい、寧ろこれからです。この後が本当に大変なんですよ」

 

 は?どういう意味だよ。これ以上何があるっていうんだ。そう思った矢先の事だった。今度は別の方向からもの凄く嫌な気配を感じた。そっちの方へ視線を移すと……なんと!部屋の扉付近にいたはずの奴らが忽然と姿を消していたのだ!!

 おいおい……マジかよ……。これはもう偶然じゃねぇーだろ……まさか……まさかだが、こいつらはわざとここにいる全員の意識を集めたって事なのか……?

 

「お気づきになりましたか。さすがですね、包長官」


 冗談じゃないぜ……なんて連中だよ……。

 

「おっ、オレは知らねぇーからな!」


 こんなの俺の管轄外だぜ!いくら上の意向だからといって限度ってもんがあるってもんだろ!オレはすぐさま踵を返して出て行こうとしたのだが、遅かった。目の前には既に数人の女官達が立ち塞がっていたからだ。それもかなりの数がいる。どうみても三十人は下らないだろう。おまけに全員が帯剣までしているときてる。この動きからして素人じゃねぇな。まったく……後宮ってのは厄介極まりない連中の集まりだぜ!!






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