第54話 記録作成 その二

【皇帝、震隆基しんりゅうきの命を受け、後宮に新たな宮殿が設置される。心身共に疲労した妃達の療養のために宮殿、「静養殿」が造られた。建物は湖に見立てた池の中に建てられ、出入りのために一つの橋が設けられている。「静養殿」の四方には季節折々の美しい花が咲き乱れ、鳥や虫の声が響き渡る場所であった。訪れた者は皆一様に、この世のものとは思えないほど美しく、心休まる場所であると語ったと言う。俗世から隔離されて特別に造られた楽園は、いつしか「安らぎの園」と呼ばれるようになった――】


 現在、十五名の妃が暮らす静養殿。そこに住まう妃達は二度と表舞台には出られないかもしれない。彼女達の中には病を偽っている者も何人かいたけれど、私も青も気付かないフリをした。その方が都合が良いから。彼女達も恐らく限界だったのだろう。家族からの催促に。後宮という場所で暮らしている以上、陛下の怒りを被って冷宮送りにされるよりは贅沢な幽閉を選んだ。それは賢いやり方とも言える。……少なくとも狂っていると思われている間は身の安全は確保したようなもの。例え、家族が失脚したとしても彼女達の暮らしは成り立つのだから。


【「静養殿」で長期の療養に入った妃の子供達の養育にも皇帝陛下は大きな決断をなさった。生母が我が子を育てられない環境にある場合、他の妃が養母となり養育するのが常のなか、慣例を破り、子供達を一か所にまとめて育てる事を提案される。その宮殿は「養護殿」と名付けられた。皇族に必要な教育を与え、成人後は皇室の一員として迎え入れる仕組みである。また、外戚からの圧力が及ばないための処置でもあった。同じ建物で暮らす皇子と皇女。そこには皇帝陛下をはじめとする多くの者達に見守られながら皇子達は健やかに成長していくこととなったのである――】



 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る