第42話 記録作成 その一
【炎永国、皇帝。
この法令により多くの者が救われる一方で不正を行う者は減り、また多くの者にとって出世の機会を失ったのも事実。陛下を恨む者が増えている気がする。けれど、コレは必要な処置である事は間違いない。
私は再び筆を執った。
【また旧来の国家試験に際し、多額の金銭を寄付していた事実が発覚する。それは受験者の家族や知人のみならず親戚までがこぞって行う行為であり、その総額たるや一介の官使が一生かかって払えるかどいかの額であった――】
晴れて役人となれても借金で身を崩す者が多いのも問題だわ。それも、試験に合格するための不正金。借金をしてまで合格した処で、出世街道に乗らなければ借金で首が回らない有り様だなんて……これでは一体何のために官使になったのか分からないわ。本末転倒もいいところ……。
【これもまた改革にメスを入れざる負えなかった理由の一つであろう。金銭での売買。なかには受験問題を事前に購入していたという報告書まである。貴族に限らず、庶民までもが金を積むようになっていた。隆基陛下は、それにより試験そのものの質が低下することを憂いたのだろう。何故なら、不正の横行が極めて悪質かつ大規模なものであったからだ。これは王朝としても看過できるものではなかった――】
真面目に試験を受けている者もいるでしょうが、それ以上に不正をする者が多い。
これは何も今の陛下の御代だけの問題ではなく、歴史的に繰り返されてきた問題でもあった。その度に歴代の皇帝や王朝は頭を抱えながら問題解決を模索してきた。どれだけ厳しく取り締まってもなくならない不正。
【再試験者の多くが脱落する結果となったのだ。また国家試験に際し、賄賂を渡すことを禁じ、発覚した場合には死刑とすることが決まったことも大きな変化の一つである。】
「ふぅ……」
書き終わると溜息がでた。
公文書と共に書き始めた記録作成。
これが意外と大変だった。
ありのままを書いたら陛下から大層褒められた。
なぜ!?
驚きを隠せなかった私に、陛下は仰った。
『巽才人は
その言葉に顎が外れるかと思った。
記録に忖度するとは何!?
そもそも、記録係がする忖度とは一体……。
私には陛下の仰った意味が理解できなかった。
そんな私を見た陛下は面白そうに笑うだけで詳しく教えてくれなかった。
まぁ、私も詳しくは知りたくない。きっと、禄でもない事だろうから。それは記録係の少なさが既に物語っている。だからこそ私に仕事がまわってきた。……それにしても、何もかも陛下の掌で転がされている気分になるのはどうしてかしら? でも仕方がない。私は命じられた通りに書いただけ。それを陛下がお気に召されたに過ぎない。それだけの事なのに何故か釈然としなかった。
そして現在に至り――
私の手元には出来上がったばかりの書類がある。それを眺めつつお茶を飲み、ひと段落つく。これで一段落ね。後は明日の分をまとめて提出すればいいだけ……。喉元から込み上げてくる吐き気に耐えつつも最後の一口を飲んでホッとする。あ~……憂鬱。この案件は揉めるわ。間違いない。陛下自ら朝儀で説明すると仰ってくれていても……気が重い。事は後宮の妃たちのもの。正直、この件についてはどうにもならない気がする。だって陛下が頑固なのだから……。そうなる理由も分かるけれど……荒れるでしょうね。
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