第1話 碧色の流れ星
《終点『レグルス』に到着です。ご乗車ありがとうございました》
まだ幼さが抜けきらないアナウンスと共に客車から駅のホームへと人が次々と流れて行く。
そんな光景を先頭車両から眺めながら1人の少年が「ふう…」と一息ついた。
少年の名前は『アクア』
白い体毛とちょこんと折れた耳、そして大きめのもふもふとした尻尾に、深い海のように碧い瞳を持つ猫のような容姿をした男の子。
その綺麗な瞳に浮かび上がった星形のマークと水色のジャケットがアクアのトレードマークだ。
そんなアクアはまだ10歳の見習いの機関士。
ただ、見習いと言ってもひと通りの仕事はしっかりと覚えており、本来ならもう見習いという肩書きは取れていてもおかしくないレベルだ。
「お疲れ、アクア!車内アナウンスもすっかり慣れたな」
「ありがとう、リゲルさん」
アクアの横にいるのは『リゲル』
黒と灰色の縞々の体毛とエメラルドのような色の瞳を持つ猫のような姿をした男の子。
リゲルはアクアよりちょっと年上の15歳。
アクアの良き先輩であり、一人前の機関士だ。
アクアとは色違いの緑色のジャケットを羽織っており、どうやら色違いの制服のようだ。
ここは、人間が住む世界とは別次元の世界。
この世界には、『星獣(せいじゅう)』と呼ばれる獣人達が住んでいる。
そして、ここは特殊な技術が発達した星『レグルス』
レグルス周辺の地域の宇宙は『ミラ銀河』と呼ばれている。
このミラ銀河には、石油や石炭などのエネルギーの代わりに『星の技術』が使われており、レグルスはこの技術で発展した。
星の技術とは『スターダスト』や『流れ星のカケラ』といった通称『星の雫』と呼ばれる資源を使った技術の事。
星の雫は、この宇宙の空気中や宇宙空間などに多く含まれている細かい結晶や粒子の事。
ミラ銀河の獣人達はこれを集めてエネルギー源とする事で列車を動かしたり、発電したりしている。
つまり、2人が運行している銀河鉄道『星空トレイン』もこの技術で運行されているという訳だ。
ミラ銀河は、宇宙船の代わりに銀河鉄道が発達した地域。
しかし、鉄道といっても線路は自動生成される為、使い勝手などは宇宙船と変わらないようだ。
そして、レグルスに住む獣人達は『星天獣』と呼ばれている。
星天獣は、決して身体能力が低い訳ではないが、魔力は持たず、戦いも好まない種族。
その温厚な性格からか『天使に近い種族』と言われている。
また、様々な加工技術を用いての物作りを得意とする種族でもあり、中でも物へと星の力を宿して性能をあげる事ができる『星の技術』は星天獣特有の技術だ。
「それじゃあ、オレは車両点検をしておくから、アクアは明日の為の星の雫を取って来てくれないか?」
「らじゃーっ!」
元気よく返事をしたアクアは袋を持って走り出す。
向かったのは山を切り拓いて出来たような崖。
崖には人がすれ違い出来る程の細い足場が崖上へと伸びており、何人かの大人達がアクアと同じように袋を持って登っていた。
アクアもその足場を元気よく駆け上がる。
すると、登っていた人達がそっと足場の端へ寄り、アクアに道を譲っていた。
頂上に着くと「おー、アクア!星の雫の収集か?」と係員に声をかけられた。
「うん!取ってもいいよね?」
「気をつけろよ?何度も言うが自由に飛べるのはお前だけなんだぞ。何かあっても助けられないんだからな」
「らじゃっ!」
ニコッと笑いながら返事をするとそこから昇降機、いわゆるエレベーターで更に上へ向かう。
最上階には大きな足場が広がっており、一面にキラキラとした結晶が宙に漂っていた。
この結晶が『星の雫』
細かい結晶が宙に漂ってはいるが、体の中に入っても悪影響は無い物だ。
アクアの他にも何人か人がおり、袋を広げて結晶を採取している。
しかし、アクアはそこでは結晶の採取はせずに、足場の端へと勢いよく走り出す。
そして、そのまま足場の外へと飛び出していった。
アクアは「それっ!」と前へ向かって手を振る。
すると星形の足場が現れ、その上に片足で着地した。
そして次々と足場を出し、それを乗り継ぎながら宙を舞っていく。
時たま空中で縦にクルンと回ってみたり、フィギュアスケートのように横に2回転、3回転してみたりとご機嫌に空を舞うアクア。
袋を広げて結晶化した星の雫を集めつつ、星形の足場を作って宙を舞うその姿はまるで宙を舞う天使のようだった。
星の雫を集めに来た人達もそんなアクアの姿に思わず目を奪われてしまう。
実は、道を譲ってくれた人達はアクアが空を舞うのを見るのを楽しみにしている人達が殆どだったりするとか。
袋がいっぱいになると、袋の口を閉め、さっきまで出していた足場よりちょっと大きめの星を出してその上に乗る。
さっきまでの足場と違い、アクアが乗ると小さな星の粒子を出しながらゆっくり地上へと向かって行く…。
実は、この星を出したりしているのは魔法の力。
本来、星天獣は魔法が使えない種族のはずなのだが、アクアは生まれながらに何故か魔法が使えた。
しかも、この魔法は調べても前例が無い魔法でもあり周りからは『星の魔法』と呼ばれていた。
大きく膨れた袋を背負い、星に乗りながら列車の整備をしているリゲルの元へと戻って来た。
そして地面に着地すると、乗っていた星はパチンッ!と弾けて消えた。
「リゲルさん、持ってきたよー!」
「おー!ご苦労さん!悪いんだけど、中へ持って来てくれるかー?」
リゲルの声が先頭車両内から返ってくる。
アクアは「はーい!」と応えると、リゲルがいる先頭車両へと入って行った。
だがその時…
「あれが天使の子…。なるほど、興味深い子ですね」
何やら怪しい影がアクア達の周りで動き始めていた。
その後、1時間程車両整備や点検を行なった2人は、揃って自宅へと向かう。
『自宅』とは言っても2人が帰るのは『施設』
実は、アクアとリゲルは孤児。
アクアは赤ん坊の頃に拾われ、リゲルは5歳の頃に唯一の家族だった父親を失った事で施設に引き取られた。
なので、2人は仕事の先輩後輩というよりは兄弟の様な関係だ。
帰る途中、2人は列車の整備場近くで何やら追い返されている集団を目にした。
「何度言ったら分かるんだ!オレ達、星天獣に武器を作る事は禁止されているんだ」
「帰ってくれ!」とシャッターを閉める整備場のおじさん。
追い返されているのは『冥天獣』という種族。
星天獣と見た目の違いは殆どなく、強いて言えば『少々つり目で眼光が鋭い』位だろう。
冥天獣は、レグルスからは少し遠い所にある『アンカア銀河』と呼ばれる銀河の軍事惑星『プレアデス』に住んでいる。
好戦的で魔法も使える、所謂『戦闘種族』
血の気が多い人が多く、戦いでしか生きる意味を見出せない者もいるらしい。
その好戦的な性格から『悪魔に近い種族』だといわれている。
プレアデスの科学技術は、石油や石炭を使用するなど、現代技術がメイン。
その為、レグルス側の技術力を欲しがっていると噂になっていた。
「あれ、プレアデスの軍人さん達だよね?」
「あぁ、何年か前まで交流は絶ってたみたいだけど、最近はよく来るようになってるみたいだな」
2人は頭を抱えながらシャッターの前で立ち尽くす軍人達を横目に、その場を通り過ぎる。
「そもそもオレ達星天獣が武器や兵器を作る事は、レグルスで禁止されてるからなぁ…。あの人達には悪いけど…」
そう、レグルスでは『武器や兵器を作る事』を禁止している。
星天獣が争いを好まない種族故に『自らが争いの火種になってはならない』という教えが古くから浸透している事もあり、レグルスの星内で武器の生産をする事は禁止されている。
その為、幾ら軍人達から頼まれてもそれを作る事は出来なかった。
「でも何で交流を絶ってたのかな?星空トレインでプレアデスの人達とお話した事あるけど、みんな優しそうな人達だったのに」
「さぁなー…。オレも気にはなってるんだけど、周りの大人達は誰も話したがらないしな…。ただ…」
そう言いながらリゲルは突然歩くのをやめて空を見上げる。
そこには、遥か遠くの空に浮かぶ崩れた建造物の姿があった。
「オレはアレが原因じゃないかと思ってるんだ」
「コスミックゲートのプロトタイプ…。でも、アレはプレアデスの人達と交流する為に作られたんじゃ…」
「…やっぱり10年前の事故が原因だろうな。確かプレアデスはレグルスに全ての責任を押し付けたとか」
リゲルは、再びゆっくりと歩き出す。
アクアもその後に続いて歩き始めた。
「でも、実際被害者が出たのは星天獣だけなんだよな。単なる偶然かもしれないけど…」
「リゲルさん…」
今、星空トレインを運行するにあたって別の銀河同士を短い距離で結ぶ『コスミックゲート』は欠かせない存在になっている。
しかし、コスミックゲートは10年前のテスト運行中に事故を起こしていた。
そして、リゲルが少し納得が行かないのには訳があった。
実は、リゲルの父親はコスミックゲートの開発、設計に関わる技術者だった。
事故が起きた時も自ら施設へと飛び込んで行き、それ以降2度とリゲルの前に姿を現す事はなかった。
その事を知っているアクアはキュッと胸を締め付けられる様な感覚に襲われ、表情が曇る。
それに気がついたリゲルは「悪い悪い…!ちょっと空気が重くなっちまったな!」とニコッと笑いながら振り返った。
「さ、早いとこ帰って、おばちゃんの夕飯食べようぜー!」
そう言いながら走り出すリゲル。
アクアも「あっ…!待ってよぉー!」と言いながら後を追いかけるのであった。
孤児院へと帰ってくるなり、揃って夕飯を食べ始める2人。
そんな昔から変わらない光景に思わず微笑む女性。
この人は、みんなから『おばちゃん』という愛称で呼ばれており、孤児院を運営している人物。
つまり、リゲルやアクアの育ての親だ。
「美味しかったぁ!ご馳走様でした!」
「ふぅ、今日も美味しかったよ!おばちゃん」
お腹いっぱい食べて満足の2人は、満面の笑みでおばちゃんにお礼を言った。
「明日は特別な日だからねー。おばちゃん、気合い入れて沢山作っちゃったよ」
何やら嬉しそうなおばちゃん。
実は、明日はアクアが正式に機関士として認められる日なのだ。
とは言っても当分は今までと同じようにリゲルのお手伝いが続く事が決まっている。
しかし、アクアが正式に機関士として働く事がおばちゃんには嬉しいようだ。
嬉しそうに微笑むおばちゃんの姿に恥ずかしくなってモジモジするアクア。
そんなアクアの様子に、リゲルとおばちゃんはクスクスと笑ってしまうのだった。
「さ、片付けはおばちゃんがやっておくから、2人は『星の降る丘』へ行って安全祈願をしてきなさい。明日はあの事故から丁度10年でもあるからね」
『星の降る丘』とは、コスミックゲートのプロトタイプがよく見える丘の事。
元々流れ星のカケラがよく落ちているという場所だった為に付いた名前だったが、プロトタイプの事故後は、よく部品の残骸が落ちてきた場所でもあった為、事故で犠牲になった人達への追悼や安全祈願の場所として使われる事が多くなった。
「分かったよ、おばちゃん。行こうぜ、アクア」
リゲルは椅子から降りると玄関へ向かう。
アクアもそれに続こうとするが、おばちゃんに呼び止められた。
「ちょっとアクア!ほら、忘れ物だよ!」
そう言うとおばちゃんは、アクアの首に小さな袋を掛けた。
「アナタ今日忘れて行ったでしょ?ダメだよ?これはアナタの御守りみたいな物なんだから」
「今朝は急いでたからうっかり…。ありがとう、おばちゃん!」
アクアはニコッと笑うと急いでリゲルを追いかけて行った。
そんなアクアの姿に「やれやれ…」とおばちゃんも台所へ戻りお皿を洗い始める。
そして、ポツリとこう呟いた。
「…あの子が宇宙(そら)から降りてきてもう10年か」
食器を洗いながらふと窓の外を見る。
その視線の先にはプロトタイプの残骸が浮かんでいた。
その頃、リゲルとアクアは星の降る丘に着いていた。
そして、丘の頂上付近に座り込むとプロトタイプの残骸を見上げた。
辺りはすっかり陽が落ち、月明かりに照らされて青白く染まっていた。
「アクアは…あの事故の日におばちゃんに拾われたんだっけか」
「赤ん坊だったから分からないけど、そうみたい。救命カプセルの中に入った状態でここに降りてきたんだって」
実は、アクアもプロトタイプ事故の被害者の1人だった。
しかし、アクアの場合は被害者というよりは『遭難者』という事らしい。
事故の最後、辺りは激しい爆発と閃光に包まれた。
その後、アクアの入ったカプセルが不思議な力を纏いながらゆっくりと星の降る丘へと降りてきたという。
そしてその時、アクアの手には小さな袋が握りしめられており、中には非常に純度の高い『流れ星の結晶』が入っていたらしい。
「その首から下げてる袋と星の結晶がアクアの身内を探す唯一の手がかりって訳か」
「おばちゃんは御守りじゃないかとも言ってたよ。カプセルが『落ちてきた』じゃなくて『降りてきた』のもこれの力じゃないかって…」
アクアは、小袋から星の結晶を出してリゲルに渡した。
「流れ星がよく降るこの辺りでもここまで純度の高い結晶は見た事ないな…。どこで採った物なんだろうな?」
アクアに渡された星の結晶をまじまじと見るリゲル。
結晶は非常に透明度が高く透き通っており、角度によっては虹色に輝いていた…。
「あそこに行けば何か分かるかもしれないんだけど…。ずっと立ち入り禁止だから…」
「オレもあそこにはいつか行きたいよ。父さんに関係する物もあるだろうし…」
リゲルは、そう言いながらアクアに結晶を返す。
受け取ったアクアも大切に袋にしまった。
「また湿っぽくなっちゃったな…!あんまり遅くなるとおばちゃんが心配するから、安全祈願をして帰ろうか」
「…うん」
2人は並んで石碑の前で手を合わせ、目を閉じる…。
少しの時間のハズだったが、アクアには凄く長い時間に感じた。
目を開け、ふと横を見るアクア。
すると、横にいるはずのリゲルの姿が消えていた。
「あ、あれっ!?リゲルさん!?」
キョロキョロしながらあたふたしていると、後ろからリゲルさんの笑い声が聞こえてきた。
「家まで競争〜!」
「ち、ちょっと…!ずる〜い!」
「あはは!」と2人の笑い声が辺りに響く。
そんな2人に釣られたのか。
夜空に一筋の流れ星が流れて行った。
翌日…。
アクアとリゲルの2人は、出発前の車両点検をしていた。
銀河鉄道というと、『汽車』のタイプを思い浮かべる事が多いと思うが、2人が乗る列車は見た目が『電車』のタイプ。
オートパイロットも付いていたりと、機能面も結構充実している。
「あーあ…最初のお客さん、おばちゃんにしてあげたかったなー…」
ブスッとしながら出発準備をしているアクア。
リゲルは明らかにご機嫌斜めのアクアを宥める。
「ま、まぁそう言うなって…。レグルス政府からの依頼なんだから」
当初、アクア達は乗客を乗せてからレグルスを『プレアデス行き』で出発する予定だった。
ところが、今朝になって突然『プレアデスへ荷物を運んで欲しい』と依頼があったのだ。
そして、それが『レグルスの政府から』という事だったので断るに断れなかったようだ。
「さ、出発しようぜ!アクアの正式なデビューは折り返しの便からだな!」
「はーい…」
仕方なく返事をするアクア。
アクアはホームに立つと首から下げていた小袋からハーモニカを出す。
そして、曲のワンフレーズを軽快に演奏した。
これは星空トレインの発車メロディ。
星空トレインでは、機関士がこれを演奏するのがお決まりになっていた。
《間もなく、星空トレインの車両が発車致します。危ないですから近づきすぎないようご注意ください》
リゲルのアナウンスが流れると、車両に乗り込むアクア。
すると、先頭車両の前に空へと伸びる線路が現れた。
そして、ゆっくり動き始めると、車両は少しずつ地上から離れて行った。
銀河鉄道の車両内には、重力発生装置が付いている為、無重力にはならない。
星獣は、宇宙服などは着なくても宇宙空間で活動出来るらしいが、空気だけはどうにもできない為、頭だけはメットを被る必要があるようだ。
宇宙空間に出た車両はそのままコスミックゲートへと向かった。
「よし、コスミックゲート突入!」
リゲルの指差し呼称と共に列車はゲートへと入って行った。
コスミックゲートは一言で言ってしまえば宇宙のトンネルのようなもの。
正五角形に形成された空洞内部に星の雫を圧縮、高濃度化させたエネルギーを展開させる事によって星型状のリングゲートを形成。
形成されたリング内は、濃度の高いエネルギーで空間が歪んでおり、そのリングへ入る事によって不思議な空間『異次元空間』へと入る事が出来る。
リングゲート内に広がる異次元空間はとても広く、無数の出口があり、その出口を選ぶ事によって抜ける場所を変えることが出来る。
抜ける場所にもよるが、ゲートを抜けるのには約10分位の時間がかかる。
本来なら数日、数ヶ月かかる様な距離を僅か数分で繋いでいるのだから驚きだ。
アクア達は、プレアデス付近の出口を選択し、無事にゲートを抜けた。
「コスミックゲート、通過完了!」
「よし、それじゃプレアデスに進路を取ってっと…」
だが、その時だった。
依頼された荷物がある貨物車両から突然、大きな音が聞こえてきたのだ。
まるで、誰かが凄い力で壁を叩く様な大きな音が…。
「な、何だ今の音…!?」
2人は、今までにない異変に表情を曇らせながら顔を見合わせる。
「に、荷物が崩れたとか…かな?僕見てくるよ」
操縦桿を握っているリゲルに代わって様子を見に行こうと車両を出ようとするアクア。
「わ、分かった!気をつけろよ!とりあえず近くの星へ進路を取っておくから、何かあったら大声ですぐ知らせてくれ!」
「らじゃっ!」
先頭車両を後にし、客室車両の後ろにある貨物車両へと足速に向かうアクア。
中へ入り、積まれている荷物を確認するが特に変わった所はないようだ。
「何だったんだろう…?特に変わった所はないや…」
不思議に思いながらも貨物車両を後にする。
貨物車両の鍵を閉め、客室車両を通り、先頭車両との境の扉に手を伸ばした時だった。
突然、中からドタバタと大きな音が聞こえてきた。
「リゲルさん!?」
物音に驚き、急いで扉を開ける。
「く、来るな、アクア!!」
「えっ…!?」
リゲルの大きな声が響き渡る。
しかし、既にアクアは扉を開けてしまった後…。
アクアの目に飛び込んで来たのは、リゲルを拘束する2人の冥天獣の姿だった。
「おやおや、貴方が『天使の子』アクア君ですね?」
「天使の子にコスミックゲート開発設計者の息子様…。一度に捕らえられるとは我々も運が良いです」
声的に1人は女性、もう1人は男性の様だ。
リゲルは逃げようと抵抗してみるも、背後から首に腕をかけられ動くことが出来ない。
リゲルの首にグッと力を加えながらジリジリとアクアへ近寄ってくる2人組…。
よく見ると、服にプレアデスの部隊章が付いていた。
「あなた達は…プレアデスの軍人さん…!?」
「その通り。今日はお2人にお話があって来ました」
「オ、オレたちに話だって…!?」
「えぇ、手短にお話しましょう。コスミックゲートの設計図の提供とプレアデスの軍人達に武器の開発と提供をして欲しいのです」
女性隊員の口から出た言葉に固まる2人。
「ぼ、僕たちは星天獣だ。武器を作る事は出来ないよ!」
アクアは少し強い口調で拒否する。
それを見た女性隊員はクスッと笑い「ほぅ、そうですか…」とリゲルの首筋に刃物を突きつける。
「もっとも…拒否権はありませんけどね」
ジリジリと迫ってくる2人から逃げる様に後退りするアクア。
恐怖からか、アクアの目には涙が浮かび、体が小刻みに震えていた。
「勿論、武器の開発だけじゃなく、星の技術の提供もして頂きますよ?そして、アクア君…。君の不思議な魔法の解明も目的の一つ…」
「さぁ、大人しくこちらへいらっしゃい?」
リゲルの首をさらにグッと締め上げながらアクアに手を差し出す女性隊員。
更に苦しそうな表情をするリゲルを見たアクアは、涙を浮かべながらふらふらと歩き出す。
しかし、その時だった。
突然、車両に大きな衝撃が走ったのだ。
何かにぶつかったような衝撃にアクアは勿論、軍人の2人もバランスを崩してしまう。
チャンス!とリゲルは女性隊員の拘束から抜け出した。
そして、すぐにアクアをの手を引くとそのまま客室車両へと逃げ込んだ。
「リ、リゲルさんどうするの…!?」
「とにかく逃げるしかない!行くぞ!」
リゲルはアクアを抱き抱えると、パリン!と大きな音をたてながら窓を突き破り、外へと飛び出した!
幸いすぐに近くの星へと進路を取っていた事もあり、列車は大気のある所を走行していた。
しかし、そうは言っても2人がいるのは空中だ。
2人は、そのまま落下し始めてしまう。
「逃がしませんよ?」
プレアデスの軍人2人も列車から飛び出し、空中へダイブする。
「リ…ゲルさん…!」
リゲルに抱えられていたアクアは、ようやくリゲルの腕の中から脱し、声をかける。
しかし、リゲルからは応答がない。
どうやら窓を突き破った時に当たりどころが悪かったらしく、気を失ってしまったようだ。
「(何とかしなきゃ…!)」
今度はアクアがリゲルの体を抱える。
そして、落下しながら手を構えて勢いよく振った。
すると、2人が乗れる程の大きさの星が現れ、2人と並ぶように落ちていく…。
アクアはその星を何とか手繰り寄せ、体を乗せると、落下速度を緩めようと制御を試みた。
「と、止まってっ…!」
地面が迫ってくる中、グッと星を持ち上げて止めようと必死に抵抗する。
その甲斐あってか、地面に衝突する寸前に2人を乗せた星はふわっと浮き上がる。
しかし、その瞬間に星がパチッ!と砕け散った。
何とプレアデスの軍人が銃で星を撃ち抜いてしまったのだ。
「うわぁっ…!?」
地面との衝突は避けられたアクア達だったが、落下時のスピードを完全に落とす事は出来ず、アクアはリゲルを抱えたまま地面を転がった。
「うわあぁぁっ…!!」
全身を擦り、そして打ち付けながら転がって行く2人…。
するとその先には大きな岩が…!
それに気がついたアクアは自らを犠牲にするかのように、リゲルの頭を守るように抱きついた。
しかし、岩に当たる直前、ボフッと柔らかい物に直撃し、止まった…。
「流れ星かと思って来てみれば…。全く、無茶する子達だ」
聞こえて来たのは女性の声。
2人は、見知らぬ女性に抱えられていた。
しかし、アクアも迫る岩の恐怖から寸前で気を失ってしまったようだ。
女性は2人を抱えたまま直ぐに岩陰に身を隠し、耳を澄ませる…。
しばらく経って聞こえてきたのは、プレアデスの軍人2人の声だった。
どうやら2人はパラシュートを使って着地したようだ。
「おかしい…。確かにこの辺りに落ちたはず」
「砂煙も確認出来ました。着地に失敗しているはずですので、怪我などを考えれば遠くへは行けないはずです」
辺りをキョロキョロと見回す2人を岩陰から覗く謎の女性…。
「(なるほど、あの2人に襲われた訳か。よりによってプレアデスの軍人とは…)」
謎の女性はリゲルを背負うと近くに落ちていた石を拾う。
そして、自分達から離れた方角へと投げた。
辺りの岩に当たり、カツカツと音を出す。
それを聞いた軍人2人は、音がした方角を確認しに行った。
「…上手くいったか。さて、早い所手当てしないと…。特にこの小さな子は傷が多い…。手遅れになる前に手当てをしないとな」
女性は、アクアも抱き上げると、奥の岩場を探す軍人2人に気づかれないようにそっとその場を離れて行くのだった。
突然、プレアデスの軍人に襲われたアクアとリゲル。
要求されたのは、武器の生産とコスミックゲートの設計図の提供…。
武器の生産はともかく、コスミックゲートの設計図を欲しがる理由とは…?
そして、そんな2人を助けた女性とは一体…?
2人は何も分からないまま、平和な日々とは遠く離れた世界へと引きずり込まれるのだった。
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