第52話
大図書館に通うようになってしばらく経つ。
この世界のことも本の上では知れてきたと思う。
はらりとページを捲る手つきにも慣れたものだ。
「なかなかどの本が『これだ!』って感じがしないねぇ」
隣で本を読んでいたノイシュくんに声を掛けると、ノイシュくんも本から顔を上げて頷いた。
「そうですね。ガナッシュ様は僕達の知りたいものはここにあると仰っていましたが、どれも普通の歴史書や文献ばかり。どれも貴重には貴重ですが、特に特別だと思える本は見当たりませんね」
「とは言っても、まだまだ置いてある本の半数も読んでないんだよなぁ」
「そうなんですよね。まだ読んでいない本の中に何かがあるのかも知れません」
上を見上げるとどこまでも本が壁を覆い尽くしていた。
「道のりは長いなぁ」
「行っている暇があったら読みましょう」
そう言うと無駄話は終わりだとばかりにノイシュくんは本に目線を戻した。
俺も凝り固まった肩を鳴らして手元の本に意識を戻した。
それでも遅々として進まないまま数日。
「もうガナッシュ様に直接聞いた方がいいんじゃね?」
「…そうですね」
あんなに意気込んでいたノイシュくんも挫折したらしい。
俺達は再びガナッシュ様に謁見を求めることにした。
フロランタンの城に向かう前に手土産としてガナッシュ様が自らの名前にする程お好きだと言うショコラを数種類選んでフロランタンへと向かっていった。
前回と変わらない手順で謁見の間に通され、ガナッシュ様にお会いすることを許された。
「お久し振りです、ガナッシュ様」
「お会い出来て光栄です。こちら手土産です。お納めください」
「ありがとう、王子」
相変わらずの微笑みで椅子に座るガナッシュ様にノイシュくんが手渡すと、近くのテーブルに置かれた。
「あとでいただきますね」
にこりと美しい笑みだ。
「実は、大図書館に行って教えられた館内の部屋の本を調べているのですが、どの本が我々が求めている本か分からずガナッシュ様にお教えいただければと思いまして」
「お恥ずかしい話で申し訳ありません」
ノイシュくんと二人で頭を下げる。
「そうですわね…。あの本はどこに仕舞われていたかしら?」
ガナッシュ様は考え込んだ。
ガナッシュ様も把握していないとなるとまたあの本の山に向かわなくてはいけない。
頼む、思い出してください!
「そうですわね、あの本は鐘が導いてくれると思いますわ」
にこりと微笑むと同時に大きな鐘の音が聞こえてきた。
「ああ…やはり鳴ってしまいましたね」
ガナッシュ様が一瞬悲しそうな顔をする。
大鐘は澄み切った音なのにどこか悲しげだ。
「ガナッシュ様、これは」
「もう一度大図書館へお向かいください。鐘が導いてくださいます」
どういうことだろうか?
そもそも、俺達は随分と本を探していた。
それが鐘が導くと言われてその直後に鐘が鳴る。
タイミングが良過ぎないか?
ガナッシュ様をちらりと見る。
大鐘を悲しそうに見詰めていた。
「とにかく、大図書館に行ってみましょう。サハラさん」
「そうだな」
俺達がガナッシュ様に礼をして立ち去ろうとすると呼び止められた。
「あなた方、お目当ての本を読み終わったらどうなさるおつもり?」
「まだ旅を続けて世界を知り、勇者の意味を知りたいと思います」
俺が言うと、ガナッシュ様は変わらぬ微笑みで告げた。
「でしたら宗教国家へ行くといいですわ。あちらの教祖が異世界から人を喚び寄せた最初の一人なのですもの」
俺とノイシュくんは顔を見合わせた。
やっぱり神聖教団が絡んでいるのか。
それはそれとして。
「教祖様っておいくつなんですか?」
「さぁ?人ではないのでご長寿なのよねぇ」
エルフであるガナッシュ様もご長命だと思うけれど、ごまかされたか?
とにかく目的は決まった。
フロランタンの大鐘が導くという本を確認して宗教国家へ行く。
「情報ありがとうございました」
「失礼致します」
俺達はガナッシュ様へ礼をして扉を閉めると、まだ鳴り響く大鐘がある大図書館へ急いで向かった。
大鐘が導く本ってファンタジーだよなぁ、なんてノイシュくんに知られたら重要なことですよ!と怒られそうなことを思いながらこれから何が知れるのか歩を進めた。
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