第38話
新しい勇者が来たことで武具の発光も収まるかと思いきや全然そんなことなかった。
もう家中の衣類を掻き集めても止められない光で俺は翌日大家さんに大変怒られた。
翌日、ノイシュくんとアルベルトさんと共にした昼食時にアルベルトさんにも訊ねられた。
「あの光ってなんなんですか?こちらの世界特有の何かですか?」
「特有って言えば特有なんだけど…伝説の剣と大昔の勇者が使っていた防具が光ってて大変なんだ」
俺が迷惑を掛けたお詫びに弁当を作って渡したら大層喜んでくれた。
夜中に安眠妨害したにも関わらずこんなもんで許してくれるアルベルトさん、いい人だ。
弁当の風呂敷を広げながらアルベルトさんが驚いた。
「えっ!?武具って光るんですか!?」
「まだ光るんですか?」
ノイシュくんは何かを考えながら玉子焼きを食べている。
「そうなるよねー。俺も実際に光るまで知らなかった。それでさ、何かの異変の前触れかもしれないから国内外へ出て調査するお許しが出たところで他の世界で勇者をしているアルベルトさんがこっちへ来たわけ」
勇者が来る前触れかと思ったけど違ったなー。
「へー。でもそれじゃあ問題の解決になっていませんよね?僕が来てからも光るんですよね?」
「そうなんだよねぇ。大家さんに追い出されないうちに原因を突き止めないと」
焼きそばを食べながら考えていると、アルベルトさんの世界にはソースというものがないらしく感動していた。
「そもそも過去の勇者の防具を魔王から貰ったって事にも突っ込みたいんですが、伝説の剣ってどこが出自なんですか?」
「あー。あれは確かギルドに顔を出していた時にどっかに伝説の武器があるらしいって聞いて、その後トルトリンに行ったら偶然見付けたんだ」
「あの時も大変でしたね…」
ノイシュくんが黄昏れる。
「では、そのトルトリンに行ってみるのはいかがでしょう?あった所に行けば由来等も分かるかもしれませんし」
アルベルトさんの提案に何も考えていなかった俺は目から鱗だった。
「僕は行こうと思っていましたけれどね」
ノイシュくんがアピールしてくる。
でもあれなんだよな。
トルトリンってドラゴンが出たんだよな。
その後の出現報告はないけど、どうなんだろう?
むむむ、と考え込んだ俺にアルベルトさんが訝しげに訊ねる。
「トルトリンになにかあるんですか?」
「いや、前にトルトリンにドラゴンが出たことがあってさ、そいやってやってみたら倒れちゃったんだよ。でもドラゴンが出たこともないらしいしその後の出現報告もないから勇者のなんかでドラゴンを惹きつけてたらどうしようかと思って」
さすがにドラゴンを倒せた時はレベル999の勇者ってすげーって思ったね、あの時は。
普段は役に立ってないけど。
「ドラゴンをですか!?」
アルベルトさんが驚愕の声を上げる。
「それが普通の反応ですよね」
ノイシュくんが驚いて溢したアルベルトさんのお茶を拭く。
「でもまあ、行ってみますか。トルトリン。ドラゴンの有無はともかくとして伝説の剣があった場所に行けば何か分かるかもしれませんし」
というアルベルトさんとノイシュくんの提案により、週末はトルトリンで剣を見付けた洞窟探検になった。
「久々に来たなー。トルトリン」
剣のあった洞窟前で伸びをして軽く準備運動をした。
トルトリンでは移住の原因の鉱石を食べるドラゴンを退治したり崩落事故で人助けをしたせいか英雄視されていて居心地が庶民にはよろしくないので見付からないうちにささっと調査して帰りたい。
「とりあえず行きましょう」
長年勇者として故郷の世界でもパーティーのリーダーをしていただけあって統率力があるアルベルトさんに俺とノイシュくんは黙って着いて行った。
後ろから道案内をしつつ当時のことを訊ねられた。
「あの時は風の流れが違うなって感じてなんとなくそっちの方へ行ってみたら岩に刺さった剣が光ってたんだよね。抜いたら光らなくなったんだけどさ」
「……勇者を待っていた、とか?」
ノイシュくんが真面目な顔をする。
「どうだろう?でも結局俺はリリィを倒すための武器をリリィを倒したくない一心で使わないことに決めた。今回持ってきたのは剣を持ってきたら何か分かるかと思ったからだ」
そう。持ってきたのだ。剣を。
今は光っていない。防具もトルトリンへ行くと決めて帰宅したら光っていなかった。
やっぱりトルトリンになにかあるんだろうか?
勇者を呼ぶような事態があって知らせるために光ったんだろうか?
考えても答えは出ない。
とりあえず先へと進んでいくと、ようやく剣を見つけた場所までやってきた。
「へぇ、思っていたよりそこそこ広い場所ですね」
「なにか神々しさも感じる気もしますが…どう思いますか、サハラさん」
「いや、俺にはまったくわからん」
アルベルトさんは勇者オーラでなにかを感じたのかも知れなかったが俺にはまったく分からなかった。
そこで見覚えのある岩を見付けた。
「これこれ。この岩にこう、ぐさって刺さってたんだよ」
実演するためにまた穴に剣を入れて引っこ抜いてみせる。
すると背後からとんでもない威圧感が感じられた。
「サハラさん!」
ノイシュくんの声と共に背後からの攻撃をなんとか避ける。
「ドラゴン!?」
謎の威圧感の正体はドラゴンだった。
ドラゴンは問答無用で襲ってきたが、以前のドラゴンより確実に強くなっている。
「伝説の武器、持ってきておいて良かったかもな」
独り言つ。
正直、俺一人で勝てるかどうか…なんて心配はしていない。
ノイシュくんは背後で援護魔法を掛けているしアルベルトさんも善戦してくれている。
三人もいればなんとかなるだろう。多分。
そう思うだけ二人は頼もしかった。
特にノイシュくんは腕には自信があると言っていただけあって後方支援だけじゃなくて接近戦でも活躍してくれている。
「結構手強いね」
「結構どころじゃないですよ!勇者が二人もいるんだからさっさとなんとかしてください!」
ノイシュくんからお怒りの声が飛び出るが、本当に強いのだ。
以前のあっさりさは欠片も無く、これが物語で読んだドラゴンの強さかと実感する。
傷付けては傷付けられて、何故勇者は戦わなくてはいけないんだろう?
俺は少し前まで地球のサラリーマンだったのにな。
鋭い爪で抉られた箇所が熱を持って熱くて痛い。
何故ドラゴンは現れたんだろう?
勇者が本当に呼んだのか?
考えてもわからない。
とりあえず目の前の敵をやっつけるしかない。
「みんな!頑張ろう!」
「はい!」
「もちろん!」
一丸となってドラゴンに向かっていく。
切り裂かれた箇所から血が出ていても戦わなくては、勝たなくてはこちらが殺される。
死にたくない。
その執念だけでなんとか勇者として長年務めてきたアルベルトさんに食い付いていく。
こんなことならもっとレベルに頼らず基礎能力を上げれば良かった。
いや、レベル999より強いドラゴンなんてそう出ないだろう?
俺が弱くなっているとか?
ああ、もう!さっきから雑念が生まれてばかりだ!
その時、また剣が光った。
その光を見ていたらまた「いける」って気持ちになってドラゴンに突っ込んでいった。
「サハラさん!?」
「……くっ、援護します!」
二人には無謀に思えただろう。
でも剣が言ってるんだ。
「今ならいける」って。
「いっせーの、せっ!」
吐かれた炎もギリギリ躱してドラゴンの側に近寄ると思いっきりジャンプしてそのまま落下の力も加えて首を切り落とした。
ドラゴンの断末魔は洞窟中に響いた。
結局、洞窟内に他にいた冒険者や採掘のために来ていた地元民にバレてドラゴンをまた倒した勇者一行としてめちゃくちゃ歓迎された。
……でも、あのドラゴンは俺が剣を入れて抜くまでまったく存在を感じなかった。
あれがスイッチになっているんだろうか?
考えることは山程あるが、とりあえず怪我の治療をして出されたご馳走にありついた。美味い!
前に教えた霧子細工の器に入れられた酒を飲むと、生きていて良かったと実感した。
アルベルトさんもノイシュくんも周囲からやいのやいのと絡まれてほろ酔い気分だった。
考えるのは帰ってからでいいか。
とりあえず今は生きていることを喜ぼう。
その後、帰宅した俺はバルロットさんの執務室を訪れて感じた事を報告した。
「もう一人、勇者が必要な理由がこの世界に出来たのかもしれません」
それは直感だったが、この世界からの確かなメッセージとも感じられた。
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