第35話 


翌日が休みの居酒屋は混んでいる。

そして新たな出会いもあったりする。

たまたま隣の席になった男性が元の世界から来たってこともたまにはあるだろう。多分。

「俺の名はフィン。こっちじゃ異世界人仲間同士よろしくしようぜ」

差し出された手を握り握手して、そのままお互いへべれけになるまで飲み明かした。

翌朝フィンが同じベッドで寝てた時驚きのあまり変な声が出たし、俺の声で起きたフィンも変な声出してたのは酔っぱらいあるあるだ。


「いやぁ、びっくりしたよなぁ。すまないな、世話になったみたいで。飲んでる途中でまったく覚えていなくて申し訳ない」

「俺もあんまり記憶がないから気にしないでください。朝食はパンとコーヒーでいいですか?」

いい大人は記憶がなくなるまでお酒を飲んじゃ駄目だぞ!

心の中で全世界の酒飲みに注意しつつ朝食の準備をしようとするとフィンから待ったが掛かった。

「泊めてもらった礼に俺に作らせてくれよ。台所に他人を入れても平気なタイプか?」

「別に平気だけど…いいのか?」

「もちろんだ!」

ニカッとフィンは笑って俺をテーブルに向かわせると手際良く調理を始めた。

椅子に座りながら見事なもんだなと呆けて見ていると、あっという間に出来上がりテーブルに並べられた。

用意してあった食材は俺と同じはずなのに、俺が作ろうとしていたのとはまったくの別物でまるで店で出されるような朝食だった。

「めちゃくちゃ美味い!」

「そりゃあよかった。これでも料理人の端くれだからな。まずいって言われたらさすがにショックを受けるところだった」

「本職か。でもこの美味さはすごいな」

もりもり食べながら話をして今度は俺が片付けをしてまた談笑をしているとあっという間に昼前になった。

こっちの世界に来てから元の世界の住人に会ったことがないからつい異世界あるあるを話し込んでしまった。

さすがに昼食まで一緒にいたら迷惑を掛けると思い名残惜しいが連絡先を交換して別れようかと考えているとフィンから提案があった。

「俺は料理屋を経営している。もしよかったら今からでも昼食を食べに来いよ。今なら開店前だし仕込みながら昨日の話の続きでもしようぜ」

「おう!いいな!」

と、いう訳で二人で連れ立ってフィンの店へ来た。

フィンという名前から外国風…こっちの世界のような外観の店かと思ったら日本風だったのは意外だ。

「日本が好きでさ。こっちに飛ばされる前に結婚していた妻も日本人だったんだ」

「奥さんいたのか……」

そんな人を置いて異世界に飛ばされるなんて辛いよな…。

「まあ、昔のことだよ」

寂しそうに言う姿は年月が経っても忘れられないからだろう。

フィンが区切りを付けているなら俺から掛けられる言葉はない。

連れられて店の中に入ると和風ファミレスって感じの店だった。

「料理を仕込んじまうからカウンターにでも座ってくれ」

厨房に入りながら言われたので適当な席に着く。

エプロンをしながら華麗に調理をこなしていくフィンを見て圧倒される。

「すげーな。俺もここまで出来たらなぁ。もっと自炊が楽しくなるんだろうけど」

料理教室に通ってみて失恋したことが思い出される。

「なんだ、そんなの。いつでも教えてやるよ」

「いいのか!?」

「まあ、今日のところは見て技術を盗め!だ」

ウィンクをしながら調理の説明をしだしてくれた。俺はポケットに入っていた手帳でメモを取りながらフィンの調理講座を聴き入っていた。


やがてフィンが氷がたくさん入った箱から形容し難い物体を取り出してきた。

「なんだこの色?」

「ふっふっふっ、騙されたと思って食べてみな」

自信満々なフィンに、俺は覚悟を決めた。

ええい、ままよ!俺は差し出された皿から形容し難い物体を食べた。

「…………うにだ!!」

「そうだ!こっちじゃ捨てちまう食材の残り物がうにの味をしているんだ!!」

フィンはキラキラした瞳でこの大発見を披露した。

「すげぇ…。普通ならこんな怪しげな物体食べないぞ…。よく食べたな」

いや、うにもよくよく考えたらよくあんなん食べようと思ったよな、人間すげーなとは思うけど。

「昔は金が無さすぎてな…残飯漁りみたいなことをしてお溢れで貰ったのを勢いで食べてみたらうにの味だったんだ…」

「フィン……苦労したんだな……」

カシワギさんも異世界に来てやってきたところは異世界人に厳しいところだったと聞く。

勇者ということで手厚く保護された俺はラッキーなんだろう。 

「さて、そろそろ開店だ。どうする?ここで昼食食べていくか?今回だけは奢るぞ」

「それじゃあお言葉に甘えようかな」

フィンが看板を出している間、新しい友人と店を知れて良かったなと思った。


その後、時折開店前にやって来ては調理方法を教えてもらって俺の自炊の腕は上がっていったことも大きな進歩だ。

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