第33話

休日の昼下がり。

最近見つけた安価ながらも早くて美味い定食屋の帰り道だった。

今日の唐揚げ定食も最高だったな、なんて思いながら自宅への帰路を歩んでいると前方からとんでもない速さで何かがやって来た。

何か、じゃなかった。

何度も注意をしてようやく街の道をへり込ませないよう着地させることに成功していたリリィが興奮のあまり街路を勢い良くへこませて土埃を立てながら現れた。

遅れて来たカシワギさんがへこませた街路を魔法で直している。

「リツ!今日はリツに凄いものをあげるのだわ!」

ドドン!!と背後に効果音が付きそうな感じでリリィがなんかゴッテゴテの防具を押し付けてきた。

気持ち的にリボンでラッピングされているのが微笑ましい。

「ありがとう?」

正直武具貰っても嬉しくはないけどプレゼントを貰ったからにはお礼を言わなくてはいけない。

俺が防具を抱え込んでいるとリリィが満足そうに頷いた。

「実はこれには秘密があるのだわ」

「へー…どんな?」

リリィがそう言う時はしょうもない時かとんでもない時だ。

俺が覚悟しながらリリィの言葉を待つと、リリィは溜めに溜めてプレゼントの武具の逸話を明かした。

「実はこれは過去の勇者が使っていた武具なのだわ!」

「へー…、えっ!?」

それは重要なものじゃないか!?というか、なんでリリィが勇者の物を持っているんだ!?

「ふっふっふっ、混乱しているようなのだわ。リツ!これは大昔に私様に何度も挑戦してきた勇者がいい加減うざくて追い剥ぎして追い出した時のものなのだわ!」

「思ったよりろくでもない理由だった!」

魔王に追い剥ぎに合う勇者もいたのか…。

醤油や味噌を広めた勇者もいるし、勇者って様々だなぁ。

リリィはなおも得意気に続けた。

「この武具の凄さは防御力だけじゃないのだわ」

「まじか。一体どんな能力があるんだ?」

「その防具を身に付けると暑さ寒さを感じなくなり適温で過ごせるのだわ!」

「…………へー。それはすごいなー」

冷暖房要らずだ。

最近寒くなってきたからちょうどいいな。

いやでもこれ着るの難儀しそうだぞ。

あといかにも偉そうで着ていると多分恥ずかしい。

「リツも勇者だからこれくらいは持っておかなきゃ箔がつかないのだわ!私様の友人を名乗るならそれなりの装備を持っていなきゃいけないのだわ」

「そうかなぁ?」

今までも装備もなんもなく適当に戦ってこれたしリリィの治世で対魔王用の剣や防具が必要とは思えないし思いたくない。

「剣はもう持っているのでしょう?」

リリィの言葉に肝が冷えた。

「なんで知って……」

「ふっふっふっ!私様はなんでもお見通しなのだわ!」

俺が驚いているとリリィは得意気だ。

でも、この態度を見ると俺がリリィを傷つけるために剣を手に入れたと思われていないようで安心した。

リリィの後方でカシワギさんも頷いている。

「そう!ノイシュに勧められたイカ焼きよりたこ焼きよりリンゴ飴の方が美味しかったことも私様は知っているのだわ!」

リリィは居丈高に言い放つ。

「それで精々人間共を守ってやるといいのだわ!」

そう言って来た時と同じように急に飛び立って帰って行った。

カシワギさんも一礼してリリィの後を追って行った。

少しだけ見えたリリィの頬は赤かった。

……これ、前のミカさんとの戦いで守りたいって言ってたのバレてるな。

イカ焼きもたこ焼きもリンゴ飴も食べたのか。ギャラリーにいたのか?民衆に溶け込む魔王…。でも、それでいいんだよな。

とりあえず、帰宅後にリリィから貰った武具を自室に飾ってみたら違和感ありまくりのインテリアとしてまったく溶け込まない置き物になった。

……デザインはいいと思うんだよ。

俺の部屋が庶民的なだけで。豪邸にあったら違和感なさそう。…言ってて悲しくなってきた。

歴代の勇者って金持ちなのかなぁ。

剣も武具も宝の持ち腐れだけど、そんな世界を俺もリリィも望んでいるからそれでいいんだろう。


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