第23話
「サハラさん!これから忙しくなりますよ!」
「あれこれ既視感ある」
「音楽祭です!」
収穫祭の次は音楽祭があるらしい。
現在俺達はその準備に追われている。
「ノイシュくん!パンフレットのページ綴り全部終わったよー!」
なんでこの世界にホッチキスがないんだ!!
ホッチキス開発した人、偉大すぎるだろ!!
パンフレットの文字ももちろん判子で押しまくった。腱鞘炎になる。勇者でもこれはなる。
「たくさんパンフレット作るねぇ」
「キクノクスでの音楽祭は王都イグニクスでの前哨戦のようなものですからね。どのチームも力が入っているし盛り上がるんです。当日には露店もたくさん出てとても楽しい雰囲気ですよ」
「へえ、それは楽しみだ」
露店か……どんな美味いもんがあるんだろうかと考えていたらノイシュくんに見抜かれたように注意される。
「言っておきますけど、僕達は運営側ですからね。露店全部を周っている暇なんてありませんよ」
「はーい」
そんな会話をしていたらあっという間に音楽祭の日になった。
バルロットさんも領主として本当に忙しくしていたらしく準備が始まってから一回も飲み会が行われていない。
終わったらお疲れ様会を開こうと思った。
当日は快晴で、本当に賑やかでお祭りムード一色だった。
そしてめちゃくちゃ忙しかった。
舞台進行の確認からパンフレット配りから露店のチェック、観客の整理などすべてをやって、疲れ果てた時に美味しそうな匂いが漂ってきたら本能に負けるのは仕方がない。
「あ、これめっちゃ美味い」
「だから!露店で買い食いしないでください!」
「いやいや、ノイシュくんも疲れて腹減っただろう。ノイシュくんの分も買ってあるから」
そう言って差し出せば、プリプリ怒りながらも手渡された料理を食べ始める。
「あ、美味しい」
「だろう」
「なんでサハラさんがドヤ顔なんですか。食べたらまた仕事ですよ」
「はいはい」
本当はまだ露店巡りしたかったけどなぁ。
仕事なら仕方がないよな。これで給料貰ってるんだし。
音楽祭はもう始まっていて、舞台からは次から次へと様々な音楽が流れてくる。
ジャンルは多種多様。よく分からないのも混じっているが、それはそれで面白い。
俺はノイシュくん達と共に舞台袖に立ち、次のチームの楽器運びの手伝いをすることになっている。
前の演奏者が終わって大きな楽器の移動をしていると次のチームの女性からお礼を言われた。
「いえいえ、仕事なので」
「それでも、音楽祭が出来るのは運営側が頑張ってくださってるからです。ありがとうございます。精一杯演奏しますね」
と、微笑まれた。美人の女性に微笑まれて悪い気はしない。
ただ、本心だと信じたいけどこれが忖度のリップサービスなら悲しいから軽く受け取っておく。リーシャ先生の傷は思ったより深かった。
そしてその人達のチームの演奏が始まり、俺達は舞台袖に引っ込んだ。
俺には音楽の事なんてさっぱり分からんけど、このチームの曲はどこまでも透き通っていてとても綺麗だと感じる。
「綺麗だねぇ」
「今大会の優勝候補で昨年の王都での音楽祭にも優勝したんです。昨年も聞いていたのですが、相変わらず素晴らしい演奏ですね」
ノイシュくんと話しながら演奏者を見渡していると、先程の女性と目が合った。
微笑まれ彼女の吹く笛の音がより澄み切ったのは気のせいだろうか。
すべてのステージが終わり、表彰式が行われた。
優勝はやはり前年度優勝チームだった。
他のチームも素晴らしかったが群を抜いていたもんな。納得納得。
みんなの拍手に合わせて俺も拍手をした。
舞台にはすべてのチームが揃っていて、勝っても負けても自分達の演奏に満足したのか拍手喝采を受ける人々はどこか輝いて見えた。
「さて、すべてのチームが壇上から降りてしばらくしたら片付けですよ」
「ノイシュくんには情緒がない」
「ありますよ、情緒くらい」
なんて言い合っているうちにすべてのチームが舞台上から降りて行った。
さて、今度は片付けだ。
飾り付けの方が楽しかったな。
せっかく付けた祭りの飾りを外していくのは少し寂しい。
順に片付けをして周っていくと露店も片付けの準備を始めていた。
ああ!まだ全店舗周って買い食いしてないのに!
いやでもキクノクス以外から来た露店はチェックしてちゃんと食べておいた。
残りの気になってた店舗は後日お店に行ってみよう。
ちょっとだけしょんぼりしながら飾りを外していくと、酔っ払いが先程の優勝候補のチームに居た女性に絡んでいた。
どこからどう見ても嫌がっているが、周囲の人々は厄介事に関わりたくないのか酔っ払いのガタイが良くて手出し出来ないのか遠巻きに見守っている。
「すみません、そちらの方は嫌がっているようですが」
これも人として、運営側としては見過ごせないよな。
上機嫌で女性に絡んでいた酔っ払いは水を差されたので途端に不機嫌になり今度は俺に喧嘩を売ってきた。
聞くに耐えない暴言を散々言われて、殴られそうになったところを相手の腕を掴み逆に背負い投げで投げ飛ばした。
よし、これで正当防衛成立。
俺は女性に近寄って声を掛けた。
「お怪我はありませんか?」
「は、はい!大丈夫です!」
「それは良かった。あんな美しい演奏をされるお身体に何かあったら事ですからね」
そっと手を触って怪我がないか軽く確認する。
「一応、念のために医務室へ行きましょうか。こちらへどうぞ」
女性は緊張のためか顔を赤らめている。
「ありがとうございます」
医務室へ連れて行くと、まだ飾りを取り終わってないのでさっさと離れた。
後ろで女性が名残惜しそうにしていたのなんて全く気が付かなかった。
「サハラさんって、サハラさんですよねぇ」
何故かノイシュくんに呆れられた。なんでだよ。
「一部始終みていたんですけど、僕、サハラさんがなんでモテないか分かった気がします」
「えっ!?なんで!?なんで俺モテないの!?」
ノイシュくんは訳知り顔で言った。
「サハラさんだからですかねぇ」
「意味分からん」
なんで俺が俺だとモテないんだ?
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