第18話

「サハラさん!これから忙しくなりますよ!」

「えっ、なんで?」

「収穫祭です!」

そんなやりとりで始まった収穫祭の準備。

場所はサンダルソンで行われるそうだ。

あの時はチーズに夢中になってしまっていたが、そういえば農作物もたくさんあった。

葡萄も作られていてワインが美味かったっけ。

「チーズとワイン…定番だからこそ最強…」

「食べることばかり言ってないで、収穫祭は僕達も収穫のお手伝いをするんですからね!」

そんなノイシュくんのお小言もチーズとワインで晩酌することに頭がいっぱいな俺はワインはどれがいいか悩ませていて聞いていないのが丸分かりだったのかノイシュくんに怒られた。

でも俺にはチーズとワインが待っている!!

収穫祭はどうやらサンダルソンで行われるお祭りで役所の人間も数人監視と手伝いで毎年数名参加しているらしい。

また相乗り馬車でガタゴト揺られてサンダルソンに訪れた。

久々のサンダルソン。相変わらずのんびりしたところだと思いきやみんな忙しなく動いている。

俺達も馬車から降りた瞬間からあちらこちら手伝いに向かわされて土だらけになりながらも作業に明け暮れた。

「収穫祭って普通収穫した後に行われない?」

「そうですよ、だから今日から数日中にすべてを収穫して終わりの夕方から祭りが始まるんです」

「へー」

なんて喋っていたら恰幅の良いおばちゃんに「口を動かす前に手を動かす!祭りに間に合わないよ!」と怒鳴られた。

そこからは黙々と芋を掘った。

農作物の収穫から動物の餌やりまで数日間なんでもやった。

合間にチーズ作りでお世話になった親父さんと話をしたりして今後のチーズ作りについて話をしたりした。

土だらけになりながらサンダルソンの人達と協力してなにかをなしとげていくと連帯感みたいなものが生まれていった。

夜は念願のチーズとワインでサンダルソンの人と飲み食いして親睦をより深めた。

サンダルソンはワインも作っているからか酒豪が多い。めちゃくちゃ飲まされる。

チーズとワイン。単純な組み合わせだけどなんでこんなに合うんだろうな。

そんなこんなで数日間が過ぎた。

特に動物は習った通り餌をやって毛並みを整えると段々と愛着が湧いてくる。

牛、牛肉の姿ばかり見てきたけど見慣れると牛もかわいいな。

なんて思っていたら最終日にノイシュくんが信じられないことを言い出した。

「さあ、牛の解体現場まで連れていきましょうか」

ノイシュくんの言葉に耳を疑った。

「えっ!?こんなに可愛がって育てた牛を!?解体!?食べる!?いや!俺も牛肉好きだけど!!」

それでも今日まで面倒を見た牛を解体に見送って食すのは罪悪感やらなんやらがある。

狼狽え牛を守るように背に庇う俺にノイシュくんがため息を吐いた。

「だって収穫祭ですよ?」

「それでもさぁ……」

ノイシュくん、そういうところある。

俺の抵抗虚しく牛は食べられるために連れて行かれた。

これから解体されて焼かれて美味しく食べられるんだ。

俺もせめて美味しく食べて供養しよう。牛。短い間だったけど今までありがとうな。


祭りの時間帯になると観光で来る人で広場がごった返していた。

いつの間にか様々な露店も出店されていてとても賑やかだ。

出されるものはもちろんこの日までに収穫された料理の数々。

知らない間にリリィとカシワギさんも来ていて収穫物を食べていた。

魔王がナチュラルにいる国になってしまったな。

子供達にサインを強請られ得意気にリリィが得意気に色紙にサインを書いている。

「リリィ、カシワギさん。楽しんでますか?」

「リツ!この牛肉とチーズという品が美味しいのだわ!チーズなんて前の祭りにはなかったのに、人間の進歩は素晴らしいわ!」

その言葉に俺とカシワギさんは苦笑する。

「あー、そのチーズは俺のいた地球の食べ物なんだ。ここの人に作り方を教えて作ってもらったんだ」

「そうでしたか。チーズがこの地に急に出来て不思議でしたがあなたが教えたのですか」

「はい、まあ……チーズが食べたくて」

「分かります。チーズとワイン、合いますよね」

「カシワギさんも分かります!?そうですよね!チーズとワインって単純な組み合わせなのにめちゃくちゃ合いますよね!」

カシワギさんとはリリィの相手をしていてこんなに話をしたことはなかったけれど同志だったとは!もっと早く話したかった!

いや、そもそも同じ地球人だもんな!俺のいた時代より未来から来たらしいけど!そこら辺ももっとよく聞きたい!

俺とカシワギさんが談笑していると置いてけぼりにされたと思ったのかリリィが拗ねた。

「二人とも、リリィを放ったらかして酷いのだわ」

「ごめんごめん」

「申し訳ありません」

二人してリリィに頭を下げると満足したのか葡萄ジュースを飲んでまた食べ始めた。

そして収穫祭の名に相応しく様々な食べ物がいろんなテーブルに並んだ。

俺はリリィとカシワギさんと別れてノイシュくんの元へ戻った。

「なにこれ!めっちゃ美味しい!!」

「僕達が育てた牛ですよ」

あまりに美味しい牛肉に感嘆の声をあげたらノイシュくんがもりもり食べながら平然と言った。

ノイシュくん、そういうところある。

俺は心の中で合掌しながら食べた。


でも、こうしてみんなでわいわいしながら食べるの楽しいな。

祭りはやっぱりこうでなきゃ。

リリィとカシワギさんは夜のうちに帰って行ったが、俺達は一泊してキクノクスへ戻った。

お土産だけじゃなく自分用にも色々買い込んだからしばらく酒とつまみに困らないぞ!

楽しみだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る