第15話
サカラハ国とナタハリ国からの輸入物資が大量に入り出回るようになった頃、俺は我が目を疑った。
めっっっちゃ地球の食糧あるじゃん!!
いや、サカラハ国は米もあったし中華系料理もあったけどナタハリ国までこんなにあったのか!?
物資の入出荷記録を確認していてびっくりした。
えっ!?サカラハ国だけじゃなくてナタハリ国まで過去に地球人来てたの!?
むしろもしかして今現在も住んでいるのでは!?
俺はノイシュくんが居たら「普段からそのくらいの熱量と速さで仕事してください」と言われるだろう史上最速かと思うスピードで仕事を終わらせて荷物を持って来た業者に話を聞きに行った。
「すみません!このミソとかショウユとか他にも色々、考案した方ってまだ国内にいらっしゃいますか?」
「何か不手際でもありましたでしょうか?」
文官の俺がいきなり話し掛けたのでミスがあったと思われたらしい。
「あー、違うんです!俺の好物でして、もしいらしたらお話をお聞きしてみたいなぁと思いまして」
「なるほど、そうでしたか。ですが、残念ながらそれらの品々は大昔にやってきた異世界人が試行錯誤したのを我々が受け継いで商品にした物。もう考案者は数百年前に亡くなっております」
「そうですか……分かりました。お話ありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をして業者と別れたがガッカリ感が半端じゃない。
数百年前かー。いやでもその志を引き継いでくれたおかげで地球の調味料や食材が増えたんだよな。ありがたいことだ。
ていうか、醤油や味噌とかの作り方なんて普通知らんだろ。知識チートの方か?材料どうしたんだろうな?
俺も勇者チートじゃなくて食べ物チートが良かった。
今の所全然使い道ないしな……。
それにしてもこの分じゃ俺が知らないだけで地球の食べ物がまだまだ埋もれていそうだな。
……世界を旅したら見つかるんだろうか?
いや、俺は一応勇者として異世界人としてイグニクスに保護されてキクノクスに住まわせてもらっている身。
有事の際には役に立つと約束もしている。
地球の食材を探したいなんて理由で出て行く訳にもいかないよな。
今はキクノクスに来てくれた食材で楽しむだけにしよう。
これだけ来たらレパートリーも増えるしな。
こっちの世界の食事もまだまだ味わい尽くしていないし。
なんて、ここまで考えると食べることにしか興味がないみたいだな。
他に趣味とかつくろうかなー。
今も職場と自宅かバルロットさんのところか居酒屋や飲食店しか行ってる場所がない。
この世界をもっと知るために図書館とかたまには行ってみようかな。
と、殊勝なことを考えた翌日、土鍋が出来たと連絡が届いた。
「土鍋!!鍋!!冬の醍醐味!!まだ冬じゃないけど!!」
結局のところ俺は食い物から逃れられないらしい。人間の三代欲求の一つだしな。
俺は喜んで土鍋を引き取りに行った。
「ほらよ。これでいいのかい?」
「おお!理想的な土鍋!ありがとうございました!」
土鍋を掲げて喜ぶ俺に工房主の親父さんが訊ねてくる。
「それは料理を煮込む物なんだろう?普通の鍋じゃいけないのか?」
「これで煮込むとまた違うんですよ。土鍋自体にも味が染み込んでいくとか。使って食べる毎に旨みが出るらしいです」
「ふぅん。そういうものかねぇ」
親父さんは自身の作品をしげしげと眺めて見た。
「とにかくありがとうございました。こちら代金になります」
「あいよ!毎度!」
お礼を言って代金を支払って気持ちよく工房を出た。
冬には近いようでまだ遠い。
この世界はひとつの季節が地球より長い、というより一年の月日が長い。
冬が待ち遠しいが、秋の訪れを感じる今なら焼き芋かな……。
芋って焼いても揚げても蒸しても何をしても美味いのなんでだろうな?
向こうじゃ手軽なファストフードって感じだったがこちらの世界でも何種類もの芋料理が露店で売られている。
食べたいな、芋。買い食いして帰るか。
この世界の芋は地球のものと変わっていて形状はじゃがいもやさつまいもなのに中身が緑色をしている。
俺も最初は驚いて食べるのに半信半疑で食べたが中身は地球の芋とまったく変わらなかった。
そのことをバルロットさんやノイシュくんに言ったら笑いながらも少し寂しそうな顔をしていた。
そういう時は時々ある。
俺が地球の話をする時だ。
三十二年生まれ育った地球が恋しくないと言ったら嘘になる。
それに家族や友人、同僚がどうしているか俺がいなくなって悲しんでいるだろうか、職場では無断欠勤でクビになっていないかどうか、家賃滞納や光熱費や諸々の支払いで残高はとっくに尽きただろうとか気になることは山程ある。
考えると元の世界に戻れても苦労しそうだ。
他の地球や異世界から来た人はどうなったんだろうか。
港で業者から聞いた人はこの地で亡くなったらしいし、帰れない人もいる。
もしかしたら帰れた人もいるのかもしれない。
今までこちらの世界での生活でいっぱいいっぱいだったけど生活リズムも落ち着いてきたし、そこら辺の情報も探していきたいよな。
そういや図書館に行ってみたいと思っていたんだった。
なにか分かるだろうか?
だが、これは帰りたいから調べるんじゃない。
もっとこの世界を知って好きになるためだ。
バルロットさんやノイシュくんに寂しそうな顔をさせないくらい、もっともっとこの地に来て良かったと分かってもらいたい。
帰れると言われても悩んでしまうくらい三十二年の地球での生活とこの数ヶ月の異世界での生活は天秤に掛けられない。
早く土鍋に味が染み込むくらい、バルロットさんやノイシュくん、リリィやカシワギさんと鍋パーティーやりまくろう!
俺は、地球も好きだがこの世界も大好きだと伝えよう。
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