第29話 王女の力を借りよう
「わたくしが言えば、レオ君たちをお城の中に招くことが出来ますわ。先日の恩返しをさせてください!」
目に力を込めて、アデライドが言う。
現状、俺たちが王城に行って「入れてください」と言っても門前払いされるだけだ。
しかしここで王族──アデライドを通じてなら?
正式な手順で王城に足を踏み入れることが出来るだろう。
「ほ、本当にいいんですか……?」
ジルヴィアが恐る恐る聞く。
アデライドは「はい!」と元気よく返事をし、自分の胸を力強く叩いてこう続けた。
「魔神復活を阻止するために、王城に入る必要があるんですよね? わたくしには、これくらいしか出来ませんから……」
「聞いていたんですか?」
「ええ、途中から。なんとかしてレオ君たちに恩返ししようと隠し聞きみたいな真似をしてしまい、申し訳ございませんでした」
ぺこりと頭を下げるアデライド。
国王陛下から寵愛を受けている第三王女だと思えないくらい、謙虚な振る舞いだ。
こういうとことがアデライドの美点だったりする。
「隠し聞きについては、どうでもいい。王女様の力を借りれるなら、俺も助かる」
「王女様だなんて他人行儀な言い方嫌ですわ。『アデライド』と気さくにお呼びください」
「うむ、分かった。なら、アデライドのためにもどうして王城に入る必要があるのか──ちゃんと説明しておく必要があるな」
「いくらアデライド王女から言われたとはいえ……どうして、そう簡単に切り替えられるのよ」
イリーナがツッコミを入れるが、俺はそれを意に介さず説明を始める。
「細かい説明は省く。
魔神というのは魔界に住んでいる。そして、この世界と魔界を繋ぐ門があるんだ。しかしその門は固く閉じられており、簡単に行き来することは出来ない。
先日のオリエンテーションでは、その魔界の扉が少しだけ開いてしまったわけだな。まあ、それが少しだけだったために下位の魔神しか、こっちに来られなかったんだろう」
「ということは……その魔界の扉を見つけ、開けさせないようにする必要がある、ということでしょうか」
「その通りだ」
エヴァンの言葉に、俺は首を縦に振る。
「そしてその魔界の扉は、王城内にある教会の地下に隠されている。だから俺は王城に入ろうとしているわけだ」
「どうして、あんたにそんなことが分かるのよ。アデライド王女は知ってた?」
「いえ……聞いたことがありません。なのでレオ君から話を聞いて、わたくしもビックリです」
イリーナとアデライドがそんな反応になるのは仕方がない。
これも、俺が『ラブラブ』をプレイしたから分かることだったからだ。
ゲーム内でも、王城内の教会の地下に扉があることが示唆されていた。
そしてその扉が開き、街中に魔神が溢れかえってしまったことも。
「根拠はレオ様の勘でしょうか?」
「そんなところだ」
「ならば、レオ様の言っていることは正しいでしょう。レオ様の言っていることは、いつも正しいんですから」
エヴァンが全面的に俺の意見を支持してくれた。
こいつは何故か俺のイエスマンと化しているので、そういう反応になるのは予想出来ていたんだが。
「……はあ。そんなところにあるとは思えないけど……エヴァンがそう言うなら、あたしも信じてあげる。それいいくら言っても、レオは行くつもりなのよよね」
「無論だ」
「まあ魔神が復活する前に、魔界の扉を完全に閉じようとするのは良い考えかもしれないわね。それが可能かどうかはともかく」
「………」
「? どうかしたの? あたしの言ってること、なにか間違ってた?」
「ん……いや、すまん。お前の言うことはなにも間違っていない」
曖昧な返事で誤魔化す。
イリーナの言っていることは部分的に正解だが──そもそも俺は、魔界の扉を
「アデライド、すぐに王城の中に入ることは可能か?」
「すみません……今すぐにというのは、さすがに無理そうです。いくら王女であるわたくしとて、手続きを踏まなければいけませんので」
「問題ない。どちらにせよ、色々と準備をしようと思っていたところだ。そのためには、アデライドの力を再度借りることになるかもしれない」
「……? 分かりました。なんでもご用命くださいませ!」
方針は決まった。
一番良いパターンがここまで上手くはまってくれて、さすがの俺とて内心でほくそ笑むのであった。
「じゃあ、話し合いはこれで終わりってこと?」
「待ってくれ」
席を立とうとするイリーナを呼び止めてから、俺はみんなに向かって手をかざす。
「
続けざまに魔法を発動。みんなの周りに淡い青色の光が現れ、体に魔力が浸透していく。
「急にどうしたんですか?」
「なに、先日のオリエンテーションの疲れがあると思ってな。みんなに
「そうだったんですね……さすがレオ様です! 僕たちの体調を気遣ってくれるとは!」
「エヴァン! あんたはさっきから、レオに尻尾を振りすぎよ! なにするつもり──って思ってたけど、エヴァンとジルヴィア、アデライド王女にもかけているなら問題ないか……」
瞳を輝かせているエヴァンとは対照的に、不満気にぶつぶつと呟くイリーナ。
「まあ、オリエンテーションから日にちも経っているし、気休めみたいなものだがな。それから……」
と俺はあらかじめ用意していたネックレスを胸元から取り出す。
「レオ君、これはなんでしょうか?」
「今回のことを考えるにあたって、作らせてもらった。これには魔神の魔力を
「レオ様からのプレゼント……! はいっ! 一生の宝物にします!」
俺からネックレスを受け取っていの一番に首にかけたのはエヴァン。
「プレゼント……なるほど、そういう考え方も出来ますね。お風呂に入ってる時も、ちゃんとかけておきますね!」
ジルヴィアもネックレスを身につける。
お風呂に入っている時も……と彼女が言って、一瞬
「わたくしも……です! 大事にしますね!」
「…………」
アデライドもエヴァンとジルヴィアと同様の反応。
一方、イリーナは訝しむような視線でネックレスを見て、結局首にかけようとはしなかった。
それを俺は気付かないふりをして、こう口を動かす。
「よし……っ。やるべきことは決まった。魔界の扉を
「承知しましたわ!」
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