第25話 戦いを終えて
「レ、レオ様! ご無事ですか!」
戦いを終えて魔力の発動を止めると、真っ先にエヴァンが駆け寄ってきた。
「無事だ。あの程度の雑魚に勝ったくらいで、はしゃぐ気にもなれん。だからそう泣きそうな顔をするな」
「あ、相手は魔神なのよ!? 魔神は世界を一度、滅ぼしそうになった災厄。それをあんたがたった一人で倒したんだから、エヴァンがこうなるのも仕方ないでしょ!」
続けてイリーナも来て、俺に言葉を浴びせる。気が動転しているだけだろうが、どうしてそんなに喧嘩腰なのだ。
それに。
「世界を一度、滅ぼしそうになった災厄……か。確かにそうだが、あいつ自体はそんな大層なものじゃないぞ」
「え?」
「あれは魔神の中でも
俺がそう告げると、エヴァンとイリーナが息を呑む音が聞こえた。
ゲームでの魔神について振り返ろう。
『ラブラブ』のラスボスが混沌の力に囚われたレオであることは、何度か説明したと思う。
間違いなく、
しかし他のゲームにもある通り、『ラブラブ』にはクリア後のお楽しみ要素というものがある。
その中の一つが裏ボス『魔神』。
『アデライド王女の悲劇』を回避すると、街中で復活を果たしてしまう裏ボス。
ゲームの中での魔神はあまりに強く、レベル引き継ぎをしても勝つことは至難の技だった。
特に最強の魔神は負けイベントで、通常のやり方だと歯が立たないしな。
高いHP。
出鱈目な攻撃力。
鉄壁の防御力。
その全てがラスボスであるレオを上回っていた。
だが、噂によるとバグ技やチートを利用することによって、魔神を撃破する者が現れたそうだが──あまりその詳細を知らないまま、俺はこの世界に転生してしまった。
そう、すなわち。
俺は魔神の倒し方を
「魔神というのは、一体だけではない。魔界にも数体の魔神が住んでいる。今日出てきた魔神は、その中でも下っ端だったんだろう。だから俺でも勝てた」
「そ、そんな……」
エヴァンが言葉を失う。
実際ゲームでも、雑魚敵として何体か魔神が配置されていたからな。まあ一体一体が強力で、油断すればすぐに全滅してしまうほどの強さだったが。
「どうして、魔神についてそんなに詳しいのよ」
イリーナが疑いの視線で俺を見る。
戦いの興奮が冷めやらないのか、敬語が崩れてしまっている。
「俺は常に強さを追い求めている。ゆえに子どもの頃から、魔神伝承について調べていた。いずれこういう時が来るかと思っていたが……まさかそれが今日だったとは」
「レオ様はなんでもお見通しなんですね。さすがです」
「なに、未然に魔神復活を防げなかったのだ。威張れるものでもないさ」
と瞳をキラキラと輝かせているエヴァンに対して、俺は肩をすくめた。
「で、ですが、どちらにせよ目の前の脅威は去りました」
「そうね。どうして魔神が出現したのか分からないけど……今は勝利を喜びましょ」
「イリーナ、魔神のことだけじゃないよ。どうしてオークやデスイーターみたいな魔物が森の中に現れたのか──原因を突き止めないと」
「それは、わたくしたちだけでは分かりませんわ。学園の教師……いや、国に任せましょう」
エヴァンやジルヴィア、アデライドのみんなが議論を交わしている。
俺はそれに口を挟まず、少し離れたところから眺めていた。
アデライド死亡を防げたとはいえ、謎はまだまだ多い。
【夜の帷】を張った男に話を聞こうとしたが、あいつはなにも語らないまま死んでしまった。
「魔神か……」
「……? どうかされましたか、レオ様」
暗い顔をしていたんだろうか、エヴァンが俺に声をかけてくれる。
俺はそれに対して「なんでもない」と返事をした。
これで事件は解決したのかもしれない。
しかし……魔神が現れたとなっては、二つの懸念が出てくる。
一つはアデライド。
『アデライド王女の悲劇』を回避したとしても、街中で魔神が復活してしまう。そこで俺とアデライド……ってか、人類が全滅してしまう。
それが隠しヒロインでもあるアデライドのルート。
魔神はアデライドルートで鍵となる敵だ。まだまだ彼女への危険は完全に去っていないと見るべきだろう。
そしてもう一つは──。
「あっ! レオ君にみんな! いたいた。やっと見つけましたよー!」
考え込んでいると、森の奥からジルヴィアが手を振りながら、こちらに駆け寄ってきた。
「ジルヴィアさんも無事だったんだね」
「はい!」
ジルヴィアは俺たちのところへ辿り着くなり、両膝に手を突いてこう続けた。
「レオ君、いきなり走り出すもんだから……ようやく追いつけましたよ」
「悪い、悪い。一秒でも早く、エヴァンたちと合流する必要があった。だからジルヴィアを置いていく形となってしまった」
「それは分かってるんですけどねー……でも、他に魔物が出てくるかもしれないと思って、ちょっと怖かったりです」
ジト目で俺を見るジルヴィア。
魔神以外の脅威がないことは、魔力探知で分かっていたし……と説明するのも言い訳がましいので、俺は彼女からの批難の目線を甘んじて受け止めた。
「…………」
「どうしたんですか、レオ君? さっきから私の顔をじーっと見つめてますけど」
ジルヴィアがそう首を傾げる。
「いや……なんでもない。走って髪が乱れてるなと思っただけだ」
「わ、わわわ! 恥ずかしいですっ。お見苦しいところを見せてしまって、すみません!」
「そ、そういうわけじゃないんだ。なんというか……ちょっと髪型が崩れていたとしても、ジルヴィアはか、可愛いと思っただけだ」
「ほ、本当ですか!?」
ぐいっと顔を近付けてくるジルヴィア。
むむむ、変に落ち込ませてしまうのも申し訳ないので、フォローの言葉を入れたが……噛み噛みになってしまった。
ゲームのレオらしい言動をものにしたとはいえ、やはり女の子関係だと上手く舌が回らない俺であった。
それに俺が先ほど、ジルヴィアの顔を見ていたのは理由がある。
魔神イベントにおいて、彼女はアデライドに匹敵するほどの重要人物となってしまうからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます