第21話 本当のライバル
「ふう、なんとかなったな」
デスイーターの魔力が消滅したのを感じて、俺はほっと安堵の息を吐いた。
エヴァン!
お前、やっぱすげえよ!
俺の補助があったとはいえ、この時点で聖魔法を使いこなすことが出来たのは脅威の一言である。
本来、これはエヴァンの覚醒を促してしまうことだったかもしれない。
将来的にエヴァンは最強の敵として、俺の前に立ち塞がってくる可能性もあるだろう。
だが。
「たとえ、そうであっても俺が叩き潰せばいいだけだ」
ニヤリと笑う。
それに気付いたのだ。
「俺の大好きなレオは、エヴァンの
俺は俺のまま生きて死ぬ。
エヴァンを成長を恐れるなど、レオらしい行動とは思えなかったのだから。
「な、なにをぶつぶつ呟いているんだあああああ! もしかして、またなにか企んでいるつもりか!?」
「おっと」
今は俺の戦闘に集中しよう。
まだ【夜の帷】を張った結界男との戦いが終わっていない。
結界魔法で押し潰されそうになったので、俺は身を翻して華麗に回避する。
「エヴァンはあんなにカッコいいっていうのに……貴様は全然違うな。それだけの力を持っているのに、どうしてそんなに怯えているんだ?」
「うるさいうるさいうるさい!」
まただ、ヒステリックを起こした。
滅茶苦茶に結界魔法を攻撃として放ってくる。本来、結界魔法は防御でしか使えない。それなのにこのような使い方をするのは……相手の器用さに舌を巻いた。
「当たらないなら……せめて、お前のお仲間だけでもおおおおお!」
男は攻撃の矛先をジルヴィアに向ける。
相手の超速度に反応出来ないジルヴィア。
俺は彼女を抱え、その場から退避した。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしましてだ。それよりも、お前はどうしてここにいる? 逃げていいんだぞ。わざわざ戦いを観戦する必要はない」
「レ、レオ君を放って、私だけ逃げられないですよ! それに森の中は魔物で溢れているんでしょ? だったら、レオ君の近くが一番安全なんですから」
「違いない」
苦笑する。
感情が先走っていると思っていたが……彼女は彼女なりに冷静に状況を判断している。
これなら過剰に心配する必要もないだろう。
「ひ、ひ、ひいいいぃっ! どうして今の攻撃が避けられるんだ!?」
「貴様の攻撃など、俺には止まって見える」
「う、嘘を吐くな! で、でも、そっちから攻撃してこないってことは、そう出来ないってことだろ? ボクの結界魔法を前に、攻撃する術を持たないんだあああああ!」
「それは間違いだな」
確かに、相手の猛攻は激しい。こちらから攻撃を仕掛けることは自殺行為だ。
だからといって無理やり攻撃しても、相手の結界に阻まれる。普通なら絶望的な状況だろう。
「だが……それは俺以外の時の話だ!」
五本の指を広げ、手の平を男に向ける。
「い、一体、なにをするつもりだ!?」
「貴様の敗因は結界魔法を連発してしまったことだ。感謝するぞ。おかげで
「なにを訳の分からないことを……」
相手からの言葉を待たず、俺はぎゅっと拳を握り込む。
──【夜の帷】破壊。
空を覆っていた夜の常闇が消滅する。
異質な空気も消え去って、頭上には快晴の青空が広がった。
「け、け、結界を壊したのか!? バカな。【夜の帷】を消すためには、術者であるボクが解除する以外の方法はなかったはず……」
「普通は、な。しかし貴様が相手にしているのは、この俺だぞ? これだけ時間の猶予を与えてもらえれば、結界の分析は済む。貴様の手の内は、俺によって丸裸にされた」
彼は強い。
しかし俺はそれ以上に強い。彼を殺すことは容易だった。
とはいえ、【夜の帷】を壊すのを待たずに彼を殺してしまうと、この結界が解除出来なくなる。
一生、この結界の中で過ごすことになるなんて、考えただけでぞっとする話だ。
まあ、俺なら長い時間をかければ力づくで結界を壊すことも可能だったが、リスクは取りたくなかった。
ゆえに戦いなら相手の魔法を分析し、【夜の帷】の発動を乗っ取り、俺の手で解除したわけだ。
「う、嘘だ嘘だ嘘だ! そんなこと出来るはずがない!」
「本当だ。その証拠に……」
「く、来るな!」
一歩踏み出した俺に、再び男は結界魔法を放つ。
俺の前方と後方、さらには頭上と足元に結界魔法を出現させ、圧迫死させようとする。
「軽率な判断だな」
俺がまたもや拳を握ると、男の結界魔法が解除される。
結界魔法を結界魔法で相殺したわけではない。相手の魔法発動を途中で止めたのだ。
こうすれば魔力も消費しない。
「そ、そんな……ば、化け物……」
「化け物とは失礼な物言いだな。俺はそんなカッコ悪いものではなく……」
男を真っ直ぐ見据える。
俺の眼光にビビったのか、男は即座に結界魔法を張った。しかしそれを俺は一瞬で解除する。
そして男を囲むように結界魔法を設置。そのまま結界魔法で彼を押し潰した。
男の結界魔法は分析し終わっている。
ゆえに彼と同じようなことをするのは容易かった。
猿真似は嫌だったが……まあ、この結界魔法も後々役に立ちそうだ。試運転といったところだろう。
「ただの悪役貴族だ」
そう告げると、彼は断末魔を上げたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます