6、
「はぁ、はぁ、はぁ」
山頂まで後数メートル地点まできた。でも、当然の如く平地と山道の数メートルには雲泥の差がある。
徐々にカーヤの息が荒くなる。
「が、頑張って」
「は、はい」
そうは言っているものの、しんどそうに肩で息をするカーヤ。
足が重い。上がらなくなってきた。
最近体が馴染んできたが、こうやって疲れたり、しんどかったりするとどんどんカーヤの意識から橘柚月の体が離れていく感覚があった。
足を動かすという命令をしてから、実際に動かすまでのラグが長くなる。大きくなる。
「はぁ、はぁ、く〜」
思わず歯を噛み、俯く。ダラリと髪が下に下がる。こんなに寒いのに大粒の汗が彼女の額から地面に落ちる。
情けない。
ロボットの時はこんな山、二人を担いでも登ることができたというのに。
明らかにペースが落ちているカーヤ。それでも彼女は足を動かすのをやめなかった。
俯きながら、全神経を足を動かすためだけに使う。小さな歩幅で、ほぼ足を引き摺るような足取りで前に進む。
それでも一向に前に進んでいる気がしない。頂上が遥か遠方に見える気がした。
今、何時だろ?
もし、自分のせいで朝日に間に合わなかったら。
自分の目的は達成されない。それどころか、舞香の願いも反故にしてしまう。そこまでして、自分の願いを突き通すほど、舞香は無遠慮ではない。
「わ、私を置いて、二人は先に」
そう言って、足を緩めた瞬間だった。
「頑張れ、橘さん!」
舞香がその背中を押し。
「ほら、もう少しだ」
宏太が右手を取り、引っ張る。
「‥‥‥‥‥」
舞香の力を背に感じ、宏太の体温が右手から伝わってくる。
それだけで、カーヤの顔は自然と前を向いた。ラグが小さくなった気がした。前に進む活力に変わる。
緩んでいた足が再び本来の役割を取り戻す。
「ご、ごめん」
「こういう時、人間はありがとうっていうんだ」
「へぇ?」
宏太の一言にカーヤは目を丸くする。
「勘違いするな。お前はやたら自分が人間っぽくないって言ってたから」
「そ、そんなことないよ!橘さんはとても可愛い人間の女の子だよ。
だから、頑張って」
得体の知れないものが体の中から込み上げてくる。あれだけ冷え切った体が、ポカポカと温まっていく。
「はい、ありがとうございます!」
その返事に舞香と宏太は満足そうに微笑んだ。
それから約三十分。今まで木々に覆われていた道が一気に視界を広げた。先ほどまでの坂道が急に滑らかになった。
「よし、到着。ほら、あれだ」
立ち止まると同時に膝に手をついて、肩で息を吐いていたカーヤと舞香が顔を上げると同時に、一陣の風が二人の髪を靡く。
言葉を失った。
山の頂上付近に広がる高原。
決して大きくないのだが、駐車場のスペースと今までずっと木々に囲まれていた解放感もあり、とても広く感じる。
あちこちに朽ちた建物や壁があり、それぞれは入り口はロープやフェンスに囲まれていて、すぐ側には、
『関係者以外立ち入り禁止。水瀬市』
立て看板が掲げられた。
そしてその高原の中心に風車があった。写真と比べて真っ白な羽は黒ずみ、外壁もひび割れしているが、間違いなくあの風車だった。
自然と二人は向き合って、自然と二人は笑顔を浮かべた。
「「やった!!!!」」
抱き合い、飛び跳ねる二人を見ながら、宏太も微笑みながら拍手をした。
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