第61話 白い点の正体
巨大熊の調査から6日後――
昼を挟んで数時間経ったところで、ついに丸太橋が完成した。
橋の幅は1メートルほどだろうか。川の中央に作った小島を経由して、両岸から6本の丸太が架かっている。
まあ、橋といってもアレだ。手すりは当然ついておらず、多少の歪みもある。丸太同士の隙間に砂利を詰めてあるが、足場も真っ平らとはいかなかった。
とはいえ、対岸との往復は楽になるし、農地での作業も捗るだろう。橋の定義はよくわからないが、『渡る』という観点で見ればじゅうぶんに機能している。
「おいアキフミ! こっちは全部おわったぞ!」
「了解だ! 一度みんなで渡ってみよう!」
向こう岸で手を振るジエンに向けて、俺も大声を張り上げる。
まずは耐久テストを兼ねて、大人だけで渡ってみるつもりだ。大丈夫だとは思うが、いきなり崩壊なんてことは避けたい。
――と、対岸のみんなが渡ろうとしたところで、小春が先陣をきって駆け出してくる。
橋を渡る直前には地図を見ていたし、彼女の表情はすこぶる明るい。となれば必然、進化値に変化があったのだろう。
自分も地図を取り出そうかと思ったが……せっかくなので彼女の報告を待つことにした。
「先輩! 進化値、上がりましたよ!」
案の定、彼女はそう言いながら地図を広げだす。とりあえずのところ、地図の大きさは以前と同じみたいだ。
「狙っていたとはいえ、やっぱうれしいもんだな」
「なにせ2か月ぶりですもん! やっと来たかって感じですよ!」
少し興奮気味の小春と地図をのぞき込む。
まずは進化値が5に上がっているのを確認。ほかの項目に変化はないようだが、点の種類が1つ増えている。相当な数の『白い点』が満遍なく点在していた。
「……これって、たぶんモドキだよな?」
「んー、どうでしょうね。動物って可能性もありますけど」
周囲10キロの範囲には、何百という点が表示されている。どれも少しずつ移動しており、集団でいる個体が多い印象だ。
この近くにもソコソコいるみたいだし――動物、もしくはその両方って可能性も捨てきれない。
「まあ、どっちだとしても危険はなさそうだ」
「ですね。狩猟班の人たちの報告を待ちましょう」
夏歩や健吾たちにも、何度か橋の建設を手伝わせていた。俺たち同様、地図は進化しているはず。まさかとは思うが、『完成に立ち会わないと無効』なんてことはないだろう。
「一応、近場の点だけ確認しておこうか。それで問題なければ、あとは夏歩たちに任せよう」
「りょうかいです。すぐに準備しますね」
ジエンと一緒に橋の強度を確認した後、小春とふたりで現地調査に向かった。
◇◇◇
その日の夕方――
夕食を済ませた俺たちは、自分の住居に戻って報告会の真っ最中。俺たち4人のほかに、健吾や美鈴たち4人も参加している。
今は橋の状況を伝えおわり、例の白い点について話しているところだ。
「それで、健吾たちのところはどうだった?」
「秋文たちと同じだ。白はモドキで間違いない。動物が対象外なのも確認済みだぞ。あとはそうだな――」
健吾の話によると、大猿や巨大熊も、ほかのモドキと同様に白い点で表示されていたらしい。点のサイズはすべて同じで、種類を見分けることはできないみたいだ。
「とはいっても、ヤツらは単体で移動してるからな。移動ルートは割れてるし、かなり見つけやすくなったぞ」
「なるほど、それは朗報だ。ようやく強化の目が出てきた」
ボス級のモドキはもちろんのこと、新種やハイエナも探しやすくなった。「明日からはそっちを狙う」と、健吾たちは息巻いている。
農業による進化にも期待しつつ、そのあとも話し合いは続いていった。
それからしばらく――
ひととおりの話題が出尽くしたころ。小春からとある議題、というか疑問を投げかけられた。
『この地図は誰が用意して、なんのために配ったのか』
彼女の話を要約すると、おおむねそんな感じの内容だった。
それに対する反応は似たようなもの。「神様的な人がくれた」「自分たちを守るために配ってくれた」と、みんなは当たり前のように答えた。
俺にしたってそうだ。気にしても仕方がないと、都合のいいように解釈をしていた。
「本当にそうでしょうか。わたしには善意で配ったように思えなくて」
「そうか? 地図にはじゅうぶん助けられたと思うけど……」
「それにはわたしも同意してます。だけど――」
どうやら彼女、地図の内容に疑念を抱いているらしい。とくに『帰還条件』の項目が気になっているようだ。
『事故による死亡回避をエサに、みんなの異世界行きを選択させた』
『自分たちを利用して、ツノ族やモドキを減らすように仕向けた』
と、こんな感じの疑いを持ちはじめている。
「そもそもの話、異世界転移を実行できるんです。この世界にいる生物程度、自ら減らすこともできますよね」
「まあそうだな。なんでもできそうな気はするよ」
「今回はなんらかの事情でソレができなかった。だからわたしたちを送りこんだのでは?」
これはあくまで想像であり、善意であればありがたいこと。感謝の気持ちは持っていると付け加えていた。
「……なるほど、小春が言うこともわかるよ。『世界の理には直接関与できない』なんて設定はよくあるもんな」
「もちろん、進化値を上げることには大賛成ですよ。ここで死んだら意味がありませんしね」
『超常的な存在は味方なのか』
『ツノ族やモドキが減ると困るのは誰か』
『自分たちに何をさせたいのか』
考えたところで結論は出ないし、今後もやることは変わらないが……地図を授けてくれた存在を盲信するべきではないだろう。
小春の話をキッカケにして、この世界に来た意味を模索していった。
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