第3話 闇堕ち

「あっ、あ!」


 違う、違うんだ、聞いてくれ!

 と虚しく心の中で叫んだが、時すでに遅し。


 いきなり大事なイベントフラグをへし折ってしまった、俺の馬鹿!

 すると途端に頭の中で、最初に話したシステムさんとは違う声が鳴り響いた。


《警戒と嫌悪、経験値マイナス3》


 同時に、視界の端に小さく半透明の文字がポップし、《マイナス3》と表示されすぐに消えた。


 なにこれ? まさか!


「ステータスオープン!」


 急いで自分のステータス画面の経験値を確認する。

 そこには白文字だったはずの経験値が赤文字表示となっており、

 経験値 -3/10 属性 微陽 ※ 

 となっていた。


 さらに「※」が不安げに点滅しているので指でタップすると、説明が現れた。


《※注意 経験値がマイナス10になった場合、ペナルティによりレベルがダウンします》


 えっ! ちょっと待て!


 俺はレベル1なんですけど、レベルが下がるって0になるの? いや、それはないですよね、つまり、もしかして死んじゃうとかですか!


 急ぎHPを確認すると、なんと3から2に減っていた。

 これ、確実に死ぬ奴だろ!


 マズい!


 慌てて追加情報を得ようとレベルの文字をタップするが、何も説明は現れない。

 どんなに心の中で訴えてみても、システムさんは無情にも無言を貫く、だんまりかよ!


 いやいやいや、これはないでしよう!


 あとマイナス7を加算されたら生命の危機じゃないか!

 なんでこうなった! あっ、俺がヘタレなせいか……、仕方ないよな、いつもの事だしドンマイ俺、ってそんな反省をしている場合ではない!


 すると、この楕円形の広場の端で準備をしつつ、騒ぎを遠目にしていた冒険者らしき女子達が、俺を指差してひそひそと囁いている。


「……、ちょ、離れよう、やばくない?」


「うわぁ、変態? 死ねばいいのに」


「やばいって、見たら駄目だって!」


 この手の女子的な集団意識と言うか、何かあると速攻で始まる中傷誹謗ってどうにかならない? 判断が早いよな、いい鬼狩りに、はもういいか。


 途端、再びシステムさんの声が響く。


《蔑みと陰口、経験値マイナス2》


 俺が睨んでいたステータス画面が即座に変化し、さらに経験値がマイナス5となり、HPが1になった。


 うそぉぉぉぉ! これ死にますよ、もう死にますから! 


 なに、この問答無用の無情システム! こんなんで経験値とHPが変動するなんて厳し過ぎる! 


 どう考えても反応がナーバスというかナイーブだ、お前は被害妄想がピーキー過ぎるこじらせた乙女か!


 とにかくリカバリーしないと! もう俺の命が風前の灯、バッテリー残量1パーセントで地下鉄に乗ってしまい、降りる時の決済までに切れちゃうじゃんかよぉという気分だ。


 リア充システムめ、どれだけ優しくない査定してるんだ。やっぱ最悪だ、この世界。


 そこで俺は生き残る為に覚悟を決めた。


 覚悟、それは苦手中の苦手である「会話」を行なう事だ。

 持てる限りのコミュ力を結集し、今こそ発揮する時だと俺は決意を固めた。


 このナーバスなシステム査定なら、会話イベントを起こせば必ず何らかの変化が生まれる。


 俺は普通に笑顔で語りかけ、悪印象を少しでも好転させればいい。そうすればきっと軽くプラスに持って行けるはず! 


 とにかく、こんなわけのわからない状況で死んでたまるか!


 俺は嫌悪を露わに、そそくさと移動しようとしている女の子達を確認し、急いで立ち上がると、恥ずかしさを堪え、あらん限りの勇気を振り絞って叫んだ。


「あ、あの、誤解です! ただ緊張していただけなんです、僕は皆さんと仲良くなりたいんです!」


 両手を広げて懸命に、そして切実に、俺は近くにいた女の子の冒険者達に向かって叫んだ。


 俺には高度な会話スキルなどない。気の利いた冗談も言えない。

 それでも、人が必死の想いを込めて素直な心で叫べば、どんな相手にでもきっと何かが伝わるはずだ!


「「「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!」」」」


 絶叫がこの洞窟内に鳴り響いた。

 冒険者の女の子達が俺を見てパニックを起こしている。


 そう、あまりの焦りで急いで立ち上がった俺は、ズボンを引っかけてしまい、パンイチで叫んでしまっていた。


「「「「へ、変態ぃぃぃぃぃ!」」」」


 凄まじい悲鳴が幾重にも洞窟内に響き渡り、蜘蛛の子を散らす様に女の子達は広場から居なくなってしまった。


「まっ……、待って」 

 

 虚しく伸びた俺の手が虚空を掴もうとした瞬間、視界の端に再び文字がポップした。


《変態行為 経験値マイナス25》


「あっ、終わた」


 途端、さらにシステムメッセージが頭の中に響いた。


《経験値マイナス10オーバー、レベルダウン執行。現行レベル1からレベル消失を確認。さらにHP0も確認、属性反転『微陽』から『陰』へ闇堕ち確定。属性反転によるレベル再構築。本人適正によるステータス再評価を開始》


 えっ、属性反転? 闇堕ち? 


《スキル『陰キャ』『コミュ障』『出ない杭』獲得。適正判断によりボーナスSPポイント20000獲得、ポイントを使用しますか? 5,4,3,》


 なんか自虐的なスキルばかり獲得してますけど!


《2,1、無回答の為、SPポイント強制使用、スキル統合、『裏方気質』に昇華。称号『どっちみちアウト』獲得》


 なんで強制使用?


《属性反転 適性判断 『陰』が進化して『暗』へ、『暗』が進化して『闇』へ、『闇』が進化して『黒影』へ、『黒影』が進化して『暗黒』へ、『暗黒』が進化して最上位『冥府』へ。異常適性確認、『冥府』からイレギュラー進化『漆黒』に変わりました》


 何を言っているの!


《非リア化ペナルティにより、今後服装、武器、装備、全て黒色化します》


 瞬間、服も鞄も靴も全て真っ黒になった。

 なんか怖いんですけど!


 とにかく俺は急いで再びステータスを開き、状況を確かめる。

 すると綺麗だった半透明のブルーな画面が、ドス黒く異様なエフェクトで揺らいでいる。


 もう不安しかない!


 トウノ Lv851

 職業 剣邪

 経験値 0/100000 属性 漆黒

 HP 50(封×××××)

 MP 50(封×××××)

 STR(筋力)32(封×××××)

 VIT(耐久力)38(封×××××)

 INT(知力)4

 AGI(敏捷性)35(封×××××)

 DEX(器用度)65(封×××××)

 LUK(運) 1

 SP 0

 スキル 裏方気質 装備 ナイフ 称号 どっちみちアウト


《属性反転によりコミュニケーション破棄を確認。システム不適合者認定。適正によるレベル851を獲得。経験値不足によりステータスを一部開放し残りは封印。属性反転を終了します》


 そこで、システムさんの声は途絶えた。


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