闇堕ちしても陰キャな俺はノーダメージ。リア充ルールの異世界で、腹黒元貴族令嬢とヘタレスパイエルフに助けられ、道を踏み外して独自進化します
福山典雅
第1話 ゆるがない俺は陰キャ!
《友達を作って下さい》
「それは絶対に無理だから!」
システムメッセージが淡々と抑揚なく俺に宣告する。
さて、俺は死んだ。
トラックドンではなく、通り魔グサッでもなく、不運にも電車へGOして死んでしまった。
それは高校からの帰宅中だった。混雑した地下鉄乗り場でぼんやり電車を待っていると、同じ年くらいのひと目でわかるリア充高校男子達が、後ろの方でふざけ合っていた。
「うんうん、楽しそうで何より」とは絶対に思わず、敵愾心を露わに、さりとて臆病にそっと心の中で「爆ぜろ」と呟くと、そいつらがふざけ合っていた勢いで行列にドミノ倒しが起った。そこにこれまた運悪くホームに電車が入って来る。
ここ一番に弱い俺は勿論先頭に並んでいて、引き起こされた問答無用なウェーブにグイグイと押されまくり、とにかく線路に落ちない様に懸命に踏ん張った。
だが虚弱体質なのが幸いして(?)鮮やかに押し負けてしまい、「マジですか!」という最期のセリフと共に、警笛と割れんばかりのブレーキ音を発する電車へGOしてしまった、痛いなんてものじゃない。
こうして、ふざけていたリア充共ではなく、俺自身が爆ぜてしまったのは世の不条理だ。足腰をもっと鍛えて置くべきだった。俺の筋肉はポテチとコーラで出来ている、無念だ。
そんな俺の新しい不幸が、今始まろうとしていた。
《鏑木遠乃様、再構築完了。登録ネーム《トウノ》。レベル1》
暗く無機質な空間に響く音声はどこか冷たく、俺を邪険に扱う圧を秘めていた。
「えっ? 何なんですか!」
《チュートリアルを開始します!》
「いや、あれ? 俺は死んだはず? まさか、異世界転生とかですか!」
《―――そういうリアクションと下りはウザいんで割愛します、あと無駄に長い不幸な自分語りも、邪魔くさいので禁止します。いいから黙って聞いて下さい》
「なぜに、いきなり塩対応!」
呆気にとられつつも不満な俺が「いや、でも……」とグジグジ言うと、システムメッセージはいきなりキレた。
《ブツブツ、てめぇ、うっせいわ! これだから陰キャはうぜぇし、いらねぇし、いいから黙って聞けや!》
「……はい」
罵倒され、いたたまれない気分のまま俺は言葉を失い、大人しく引き下がった。
キレれば何でも自分の意見が通るなんて思うなよ、中坊か。
いや、今時中学生でもキレるよりクールが大事だって知っているからな。勿論高校生の俺はクールだ。無駄な言い争いなんかしないぞ。
例えば、ヤンキーにコンビニのレジで「どけや!」と割り込みをされても、引きつった愛想笑いを浮かべ、「ど、どうぞ」としか言わずに済ませられる度量のあるクールな男だ。
文句? 言い返せ? やめてくれ、それは蛮勇だ。限りある命の使い処を間違えてはいけない、死ぬぞ。
という訳で、口が少々乱暴で、性格は温和からほど遠い横暴なシステムさん(怖いからさん付け)から、俺は死者という尊厳を軽く踏みにじられ、問答無用な従属を強いられた。
転生とは、不条理で非合理で理不尽である。切り替えていこう。
ただ、《陰キャ》という言葉は否定しようもない事実として、俺と言う存在を端的に表す。
高校では幻のクラスメイトと呼ばれるミスディレクションな存在であり、二年間の学校生活ではほぼセリフがなく、青春というかけがえのない時間に、誰からも尺を貰えない孤独な毎日だった。
俺的に高校生活を編集してみると、一切出演シーンがない陰キャディレクターズカット版となり、特典ブルーレイでもカメオ出演扱いです。
ちなみに中学では卒業アルバムに俺の写真が載っていると、クラスのみんなが「誰だよ、こいつ?」とかざわついていたな、安心しろ、転校生じゃないから。
常日頃から、自分は陰キャだと自覚して自重して自爆する。そんな十七年が俺の人生だ。
ラノベやアニメやゲーム、それだけが俺のリアルだ。それ以外はどうでもいい。
死や異世界転生などもどうでもいい。
こいつの言う通り、そんなやり取りは無駄だと認めてやる。
あっ、自分語りは禁止だった、怒られると怖いから口をつむごう。
だが、せめてこれだけは言わせて欲しい。
もう家に帰らせて!
これが転生を迎えた俺の最初の感想となる。
それから、淡々と続くシステムさんの話しをかいつまんで言えば、俺は魔獣ひしめく異世界に、なるはやで適当に放り出され、そんで最低保証の初期装備だけは付けてやるから、冒険者でもなんでもして好きに生きろ、という事らしい。
塩対応な上に扱いが雑だ、思っていたのと違う。
もしかして普通の転生とは別枠で、うっかり転生させちゃった役立たずの陰キャを、ただ不法投棄したいだけじゃないのか?
ゴミだって不法投棄すれば罪になる。知らなかったけど陰キャってゴミ以下ですか? 新しいカーストを教えてくれてありがとう。
さて、そんなシステムさんの説明の中で聞き捨てならない言葉が語られた。
《経験値のステータス反映によるレベルアップの概念は『コミュ力』となります。多くの仲間や友人を作り、お互いの信頼関係を高め、さらに楽しいイベントなどで親睦を深めて下さい。多岐に渡るコミュニケーションの結果、あなたのレベルは上昇します》
「はっ?」
《ちなみにモンスター、いわゆる魔獣は物資をドロップする存在であり、討伐に対しての経験値は一切ございません》
「んっ?」
《この世界は、人間関係における『友情』を起点として、『努力』を重ね、力を合わせて魔獣に『勝利』する。そんな仲間との貴重な経験を積み、その中で育まれる絆が大切なのです》
「……ちょっと何を言ってるかわからないんですけど」
寝耳に水とは、正にこの事だ。
まあ、実際に寝てて耳に水を入れられたら。驚くというより新手のいじめだと思って自殺したくなる。ことわざの意味すら変わるのが陰キャだ。
ところで、コミュ力で経験値? それに友情、努力、勝利、だと?
バグってるな、ここ。
異世界は何時からジャ〇プ方式を正式採用した? 悪いが俺の世代は、『自己中』、『手抜き』、『棚ぼた』が好きだからな。しっかりしてくれ。
さて、ならばここは大事な所だ。
システムメッセージさんのご機嫌を損ねないように、お約束の確認を卑屈かつ低姿勢で聞いてみた。
「あのぅ、ちょっとお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか? 非常に言いにくいのですが、転生特典としてチートスキルなんかは、何があるのでしょうか?」
《ありません》
即答かよ! 判断が早いな、いい鬼狩りになれるぞ。
「だったら、俺にどうしろと?」
《友達を作って下さい》
「それは絶対に無理だから!」
俺にコミュ力? だと?
目が合っただけで「イラつくんだよ、お前!」とヤンキーに絡まれるアイコンタクトスキルは持っているが、それはコミュ力じゃないですよね。
俺は脳内では饒舌無双、だがリアルは無口で役立たず、ヒエラルキー最下層でクソみたいにそっと生きる地味な底辺の存在、そんな陰キャだ。
その俺がコミュ力で経験値を稼ぐ? そんなのメモリ不足のPCで超鬼グラフィックのネトゲを行うよりもストレスだ。あれはカクカクして相当イライラする。
《いいですか、この世界はあなたの前世で言うところのリア充になる事が重要となります。独りよがりな生き方を改め、他人と関わるのです。せっかく転生し、こうして新たな人生を始めるのなら、今までの自分の殻を打ち破るべきです……てっ、ぷっ!》
こいつ、イイ感じの事言いながら、思わず鼻で笑いやがったな、正直だな、見直してやる。
くそっ、俺の陰キャペディアでは、【コミュ力】とは【超常現象】と同義語だからな。
どう考えても、そんな世界で俺は圧倒的な弱キャラ確定だ。だが見損なうなよ、元々弱キャラだぞ。この程度の理不尽設定に心が折れたりはしない。
ただし問題が一つある、それは【生活費】だ。
これから親の庇護を離れ、マジぼっちで異世界転生。
弱キャラの俺が冒険者で稼げるわけがない。
地に足の着いた堅実な陰キャである俺は、転生でふわふわ浮かれたえせ陰キャのやり直しみたいに、これから始まる冒険にワクワクしたりはしない。
生きてゆくには金が必要だ。リアルで必要だ。自活するには炊事・洗濯・掃除の前に金がいる、然らばどうする?
つまり、就職を探さないとなぁ、となる、すごく嫌だけど。
そもそもコミュ障な俺はバイト経験すらなく、働くという事自体に無限の恐怖を感じる。対人関係プラス業務作業など即死コンボである。
仮に働き始めたとしても、「ちょっとぉ! あんた何してんのよぉ!」と職場にいる古株で性格のきついおばさんに激しく罵倒され、俯いて半べそをかいてる自分をいとも容易く想像出来る。
仕事とは、あの無双する陽キャ達でさえ、発狂する程ストレスを抱える拷問みたいな恐ろしい世界だ。
ましてや陰キャの俺が挑むなど、魔獣と戦うリスクと変わらず自殺行為、無謀過ぎる。
本来俺に出来る事と言えば、ピザをデリバリーして、コーラを飲みながらゲームをし、飽きたらベッドでポテチを食べながらラノベを読み、アニメを見て寝落ちする事だけだ。
やっぱ、家に帰りたい!
数多ある作品の中から、この小説を発見し、さらにお読み頂き、誠にありがとうございます。初投稿、カクコン8参加となります。皆様の暖かい応援、よろしくお願い致します。
福山典雅
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