11.


 泣き疲れて寝てしまった紅葉が目を覚ました。外を見ると夕暮れが近づいている。紅葉は傍に英斗がいないことに気付いて不安に駆られた。


「お兄ちゃん・・・?どこ・・・?」


 また、涙が零れそうになる。起き上がり部屋を出て英斗の部屋をノックした。


 こんこんこん・・・。

 

 しばらくすると、英斗が出てきた。

「どうした?大丈夫か?」

 英斗が優しく言う。紅葉は溜めいていた涙を流し、英斗に抱き付いた。

「起きたら、お兄ちゃんがいなかったから何処に行ったの?って、不安になったの・・・」

「そうか・・・。起こさないために部屋を出てったのだけど起きるまで傍にいればよかったな」

 英斗はそう言って、紅葉を部屋に招き入れると、不安がっている紅葉を安心させるように包み込むような姿勢で紅葉を抱きしめながら座った。

 英斗の温もりに安堵感を覚えながら、ゆっくりと目を閉じて身を任せる。英斗が優しく頭を撫でながら、静かに口を開いた。


「紅葉・・・。お前は俺のことはどう思っている?」


「・・・お兄ちゃん?」


 不思議そうに英斗を見つめる。いつもは紅葉の前で「俺」という言葉を使わない。紅葉の前ではいつも自分のことを「お兄ちゃん」と言っていたからだ。

 どこか神妙な英斗の表情に紅葉はなんだか自分でも分からない感情になって顔を下に向ける。一瞬、英斗が「男の人」に見えたのだ。


(・・・って、お兄ちゃんは男なんだよね!)


 考えてみると「兄」とはいえ、「男の人」なのだから異性である。急に紅葉は男に見えた英斗に自分がしていることが大胆な事なんじゃないかと恥ずかしくなってきて英斗から離れようと考えるが、何処か安心感があるので「離れたくない」という気持ちが生じてくる。


 紅葉の顔が赤らめていることに英斗が気付いて、抱き締めている腕をさらに強める。


 そして、静かに言葉を話す。




「俺は、紅葉のことを妹としてではなく、一人の女性として愛しているよ」




 英斗の言葉に驚いて紅葉が顔を上げる。紅葉の顔は真っ赤になっていた。すかさず英斗が言う。


「・・・紅葉、脳みそが沸騰してピーピー鳴いているぞ」


 英斗の言葉に紅葉は更に顔を赤らめる。英斗が紅葉の耳元で言葉を囁く。


「返事は?」


「あ・・・う・・・ニャー!!」


 頭がうまく働かないのか顔を真っ赤にしているのを誤魔化そうとして猫の鳴き声が出る。


「はにゃ・・・にゃう・・・にゃー・・・」


 英斗は紅葉がだいぶ混乱していることを察して、頭を優しく撫でた。それが心地良いのか、紅葉は気持ちが落ち着いていくのを感じる。


「・・・で、返事は?」


 落ち着いてきた辺りで英斗がもう一度聞く。紅葉は自分も大好きだということを伝えようとして口を開きかけた時に、ある事実を思い出した。



 自分と英斗が兄妹だということに・・・・・・。



 自分たちは兄妹だから結ばれるはずがない・・・。その事実は捻じ曲げられない。自分たちはどんなに願っても兄妹であることは変わらない。


 その覆されない事実が紅葉の表情に影を落とす・・・。


 英斗はその表情で紅葉が考えていることが分かったのか、ゆっくりと口を開いた。


「紅葉は多分、俺とお前が血の繋がった兄妹だということに愕然としていると思う。どんなに願っても変えることのできない事実に絶望的な感覚があるかもしれない。紅葉、俺が今から話すことを聞いてくれ・・・」


 そして、英斗は紅葉に真実を話し始める。



「紅葉は・・・紅葉だけは俺たち家族と血が繋がってはいない―――――」



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