第8話

俺は母さんの言葉に驚きを持った。なにかを言い返したかったが、俺は菌の感染の痛みによって力も入らずなにもできなかった。だけど

「お世話になっています。蓬莱くんのお母様。」

「あら、あなたは誰かしら?」

「蓬莱くんと同じクラスの柊です。ここの病院の院長の娘でもあります。」

「あら、そうなのねぇ」

母さんはよく世間体を気にしていて、親が優秀じゃないと子供はあーだのこーだの言う。だけどさすがに院長の娘と言われると一歩引くところがあるらしい。だけど

「あなたのお母様はお亡くなりになられたのでしょ?しかもあなたを産んだのと引き換えに」

「え?」

俺は初めて知った。でもたしかに俺は柊から母さんのことを聞いたこと……ううん聞こうとすると悲しそうな顔をしたから。俺は聞けなかった。

「よくもまぁ、のうのうと生きられていること。可哀想にねぇ」

俺はその言葉が皮肉しか聞こえなかった。俺は反論してそのまま母さんをぶん殴りたかった。今までは我慢してきたけどさすがにこれは許せない。だって、俺にとって柊は……














初恋だから……













しかしそのあと少し黙ったあと柊が

「私は……














母の元に産まれて幸せでした。」

とにっこり笑ってそう言った。俺のあげたピンが日差しによってキラっと光った。

「もちろん、蓬莱くんのお母様の考え方も一理あります。しかし母が私に生命を託してくれた以上私は母の分まで生きます。それが例えイバラの道だとしても。」

俺が知っている中で1番輝いていた柊だった。桜の花びらが舞うと柊は大人ぽい顔を見せて

「私は蓬莱くんみたいに母性を知りません。しかしそれ以上に父が私とどんなときでも一緒にいてくれて、幸せをくれたんです。世界中を探しても私にとっての唯一の家族なんです。父も、母も。そんな幸せな両親から産まれてきた以上私は可哀想だとか、皮肉を言われても動じません。」

さすがに母さんもなにも言えなかった。

「私を蓬莱くんに会わせてくれてありがとうございます。だけどいまあなたの大事な息子さんは病気で死ぬ可能性だってあります。だから私のほうでしばらく預かりますね。」

と言い母さんは小さい声で

「お願いします……」

と言った。俺の母さんは正直言うと自分が言うことが絶対だから折れることがなかったから珍しかった。柊は車椅子を病院の中へと動かした。病室までのエレベーター待ちで俺は柊の顔を見るのが照れくさくて

「柊……ありがとう。俺……お前に助けられてばかりだよ。」

と言った。柊は

「こちらこそだよ。蓬莱くんは私にとってヒーローだよ?なんだか……私たち助け合いしてるみたいだね」

とクスッとお互い笑った。




















そのあと俺は薬での治療がうまくいき、予定よりもはやく退院できた。姉ちゃんと父ちゃんは帰ってきた俺に

「よかった……!!」

と泣きながら抱きついてきた。

「く、くる、しい……」

さすがに2人分の重みには俺は耐えられなかった。母さんのほうを見ると俺の方には目線がなくて、ずっと栄養食品のチラシを見ていた。俺には別にどうでもいいことだった。だけど俺よりそっちかよ……
















学校生活も順調で俺は柊と過ごす時間は授業だけだったけど俺たちは相変わらず仲が良かった。たまに教師に怒られるが、そんなの痛くもかゆくもなかった。だけどあんな悲惨なことが起きるなんてあの頃の俺は気づけなかった。

















「柊ー、先移動教室行ってるからなー」

「わ、わかった!」

柊は教室に忘れ物をしたと教室を出たあとに気づいて戻っていた。俺は1人で廊下を歩き階段を下る。最近俺は柊のことばかり考えてる……いつ告ろう?俺は浮かれていた。

「蓬莱くん!」

そこには2階からひょこっと顔を出した柊。俺はそんな彼女が可愛くて頬がゆるんだ。柊は急いで階段を降りるしかし次の瞬間







ドンっ!!













「きゃあ!!」
















俺の目にはスローモーションにしか視えなくて俺は事態に体が動くのが遅すぎた。

















「柊ー!!」

そこには頭から大量の血が流れて倒れた柊がいた。

「さ……さと……さ、とし……く……ん」

俺は柊の体をぎゅっと抱きしめる。俺は2階にいた柊を押した女を睨んだ。しかし柊が俺の袖をクイッと掴み

「頑張れ!彩葉!!」

俺は意識を失いかける彩葉に声をかけることで必死だった。



「また俺を1人にしないで……」










「お前はまだ死んじゃいけない!!お前がくれたものをまだ返せてない!!」

俺の大事なものを奪わないで……そう願えば願うほど柊の体は冷たくなる一方。彩葉がくれた愛情という優しさ、温かさを俺はまだ返せてない。いま痛いくらいに分かるあの日々の幸せが。

















「あ……たたか……い……ね……さ、と、し……くん……」

彩葉は俺の腕の中で笑う一方だ。俺があげたピンで長い前髪をあげてこめかみにつけていたピンを外し、前髪につけると

「え……へへ……」

と無邪気な顔で笑った。

「だ……いじょ……ぶ……だ……よ……き……と……わた……し……は、さと……し、くん……の、おも……い……で……の、いち……ぶ……だ……た……んだ……よ……」

「思い出なんかで済ますかよ!!お願いだから俺の前から消えないで……!!」



















騒ぎに気づいた教師は救急車を呼んだ。





俺は緊急手術室前に泣きながら願うことしかできなかった。

「蓬莱くん!」


彩葉の父さんは今日は仕事が入っておらず、オペをやらせてもらえなかった。


「彩葉の父さん!!俺……彩葉のこと……」

彩葉の父さんは俺の言葉を遮るようにぎゅっと俺を抱きしめてくれた。

「彩葉の傍にいてくれたのが君でよかった。ありがとう。」

俺は彩葉の父さんを見ると俺以上に泣いていた。俺が今できることは

「大丈夫。彩葉は強いから。絶対大丈夫。」

これは彩葉が俺が入院したときにずっと言ってくれた言葉だった。菌の感染で辛かった俺にずっと子守唄のように言ってくれた。





















8時間後オペ室の扉が開き医者はこう言った













「最善は尽くしたのですが……間に合いませんでした。」
















俺と彩葉の父さんをドン底に突き落とすには最高の言葉だった。

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