第71話

「お遊びはもう飽きた、ここから本気を出すぞ」


「こちらもそうしますか。ウェインの血はおいしくいただきますよ」


 ウェインってさっきまで生きていたあいつだよな。

 まさかほかの奴らもこんなふうに戦っているんじゃないだろうな?

 だったらここで長い時間使うわけにはいかないな、短期決戦だ。


「魔術神の両足を狙う!」


 投げナイフを使うのはこれが初めてだ……使い方も一切わからないが、まあ投げて相手に当たればいいってことだろう。多分。

 相手の足をめがけてっ!


 投げたナイフが風を切って相手に命中した。


 スッッッッ……


「くっ、こんなかすり傷ごとき私には効果はないですよ」


「本当にそうか? 足から血が大量に出ていると思うんだが」


「しまった、私が今まで集めた血が……」


 痛がると思っていたのだが、こんな回答をされるとは夢にも思わなかった。

 やはり人のことを道具としか見ていなかったみたいだな。

 相手が絶望している隙にとどめを刺すか。


「じゃあな魔術神」


「……とでもいうと思ったか魔王よ。私がこの程度のもので騒ぐわけないだろ!」


 魔術神がそういうと、相手に向かっていたナイフが途中で落ちた。

 一発でも結構いい値段するのにもったいないなぁ。

 それにしても相手が物理攻撃を遮断できるとは思わなかった。


「私はあなたのような平凡な人間ではない、神なのです。それも魔術のすべてを知り尽くしてる最高峰の! それがたかが魔王ごときに負けるなんて……」


「物理攻撃を遮断する魔術があるなんて初めて知ったぞ」


「そりゃあ前回はわざと攻撃を受けていただけです」


 魔術神がそういうと、今まで晴れていた空が急に曇りだす。

 これから本気を出すって言いたげだな、こちらには傷一つ負わせられていないっていうのに。


「神に攻撃した罰を受けてもらいましょう」


 魔術神の言葉と同時に、空に巨大な魔法陣が現れる。

 こちらに向かって何十個も。


「これが神の本気か?」


「お前の血を全てもらえるなら本気を出したっていいと思っただけだよ」


「じゃあこれ全部破壊したらお前は負けってことになるのか?」


「そうなるな、これで負けたら何もかも諦めるさ」


「本当か? それじゃあさっさと終わらせるぞ!」


 試しに銃を撃ってみたが当たり前に跳ね返された。

 ナイフも同様に魔法陣の一つを消すことが可能でも増え続けているそれらに対しては間に合わない。

 調子に乗っていたけどこれ結構まずいのでは?


「どうした魔王抵抗しなくなって、今更私の魔術に恐れをなしたなんて言わないよな?」


「そんなわけないだろ、やるならさっさとやってくれ」


「ついに魔王もあきらめたか、いいだろう。その身で私の恐ろしさを味わいなさい」



 ドッカーーーーーーン

 ブァァァァァァ


「ねえブラッド、あっちで大きな音しなかった?」


「僕にも聞こえた、おそらくあそこの魔王がいるはず」


「なんだよあの大爆発は、魔王無事なんだろうな?」


 俺たちがあれに巻き込まれえいたのであれば、ひとたまりもなかっただろう。

 でも魔王ならもしかしたら……。


「二人とも先を急ぐぞ」


「まったく、ブラッドは……」


「あいつらしくていいじゃないかキャム」


 少なくとも私とブラッドは魔王の助けになりたいと思っている。

 ……どうか無事であってくれよ。



「はあ、やっと魔王が死んでくれたみたいですね」


 強い衝撃のせいであたりには土だったり岩だったりがまっている。

 魔王の声が聞こえない以上、この状態であいつが生きていると考えるほうがおかしいだろう。


「残念だったな魔術神、俺がこの程度で負けるとでも思っていたのか?」


「バカな……術者の私でも重度の傷を負ったというのに……。なんで人間が無事でいられているんだ?」


「無事なわけないだろ、右腕の感覚がなくなっちまった」


「その程度の傷でどうやって……」


「簡単さ。最強の攻撃たちがこちらに向かってきているのであれば、最強を最強にぶつければいいだけだ」


「いうのは簡単かもしれないが、その爆風でお前は無事じゃすまないはずだ」


「だから上に飛ばしたんだ。まあちょっとは傷を受けたがな」


「……理論上それを実行することはできる。ただそれをするには上限突破しないと無理なはずだ、レベル99とその上の間には天と地ほどの下がるというのに」


「それを遺言としていいか。ついでにお前が一生懸命育ててきた魔術師たちもうちの国で引き取っておくぞ」


「…………私の負けだ、何でも好きなようにするがいい」


 今眠っているはずのマーシャの声が聞こえていたんだ。

 何でかはわからないけれどそれで力がみなぎってきて……気づけば何とかなっていた。

 まあ魔術神は俺がとどめを刺さなくともかなり弱っている。

 このままほおっておいてもいいだろう。


「俺は弱っているものをいじめるのは好きじゃなくてな、もっと強くなってから出直してきてくれないか?」


「こんな体で出直せるわけないだろう!」


 魔術神の体を見てみると、全身ボロボロになっていた。

 それでも生きていけるのは神だからとでもいうのだろうか。


「諦めるというならそこで誰にも看取られずに死んでろ」


「…………」


 相手からの返事は帰ってこなかった。

 こいつが死んだのかどうかはわからないが、少なくとも魔術神の魂は死んだだろう。


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