第8話 魔法適正試験

    ✳︎


「適正魔法は土、操作精度はCランク」


 試験官であるドリーマーさんが参加者に結果を淡々と伝えていく。ある人は優秀な結果に歓喜しある人は思っていた結果にならずに落ち込んでいる。


 魔法の才能はその人の戦闘の立ち回りに大きく影響する。言い方は悪いがこれも才能のふるいをかけることになっているのだろう。無情なことだ。


 そうしていると僕の番になり試験官の前に立った。


「名前を教えて」

「サミーです」

「では、この紙に書いてある文字を読みながらロールクォーツに触ってみて」

「はい」


 魔法に関しては全く勉強していないがはたしてどうなるか、緊張しながらロールクォーツに触れる。


「"魂よ、我の力を測り賜え"」


 直後、透明だったロールクォーツが青く染まったのだがクォーツが輝くことはなかった。


「適正魔法は水、操作精度はDランクね」

「あはは、そうですか……」

 

 思わず苦笑いが出てしまう。

 どうやら僕は魔法に関してはあまり良い結果ではなかった。少し悲しいが、仕方ないと割り切って切り替えていこう。

 そう思った直後、後ろから湧き上がる声が響いた。


「適正魔法が風と土、操作精度はAランク。すごい結果ね」


 試験官のその言葉と共に周りからざわざわと騒がしくなった。


「ほお、あの銀髪の子は適正が二つ持ちか、しかもAランクと来たか。こりゃあ争奪戦が始まりそうだ」

 

 操作制度がAランク。それに適正魔法が二つ。これはアローグン王国に仕える魔法使いでも存在しないぐらい稀有な結果だ。


 当然そんな結果になったら当事者は喧騒に巻き込まれることになる。


「あれは、シオン?」


 その喧騒の中心にいたのはシオンだった。緑と茶色の光を輝かせたロールクォーツを試験官に返した。


「君、私のパーティーに入らないか!」

「あ……えっと……」


 ロールクォーツを返しその場を去ろうとした時、待っていた試験者の人達に囲まれてしまった。

 というか、明らかに試験に関係のない冒険者が紛れ込んでいるじゃないか。


「えーと、その……」


 ずっと村で過ごしていたシオンはこんな状況を経験したことが無い、早く助けないと。

 僕は人混みをかき分けてシオンの下に近づいた。


「シオン! こっち!」

「え、サミー?」

 

 そう言いながら困惑する彼女の手を掴み人混みを進んでいく。そうして人混みを抜け訓練場から離れると二人してため息を吐いた。


「大変だったね、シオン」

「…………うん、いきなりだったからびっくりしたわ。こういうのも徐々に慣れていかないとね」

「しばらくはここで生活していくからなぁ。それにしてもシオンの魔法はすごかったな!」

「これもパパとママのおかげね」


 シオンは魔法使いの母の下、沢山修行をして頑張っていたのだ。その結果があの優秀な成績なのだろう。友人として鼻が高い。


「……あとはここでライングが来るのを待つ?」

「そうだね、とりあえずライングが終わるのを」

『オォォォー! すげぇぇぇぇ!!』


 突如訓練場から耳をつんざくような大きな歓声が鳴り響いた。


「どうしたの?」

「あ、サミー、あそこ」


 シオンが指差した方向には赤と白の強い光。

 その輝きが訓練場からそれなりに離れているこの場所からでもハッキリと見えていた。

 

「何が起きたんだ?」

「よく見て、あの光の中心」


 シオンに言われて目を凝らし光の中心を見てみる。そこにはロールクォーツの輝きを見て目を丸くしながら驚いているライングの姿があった。




    ✳︎


「すごい騒ぎだったな!」

「なに他人事みたいに言ってるのよ」


 ここは冒険者ギルドにある休憩室。

 あの後、シオンの時より大きな騒ぎになってしまい、僕たちは一旦この場所で休ませてもらっていた。

 こんな状況になってもライングは元気に笑っていた。


「ライングって魔法の才能がすごかったんだね」

「俺自身も驚いたぞ! まさかここまですごかったとはな!」

 

 試験官が言うにはライングの適正魔法は火と光。魔力の操作精度はA++という結果だった。これは冒険者ギルド発足以来初めての結果らしい。

 彼の凄さは散々理解していたが、まさか魔法の才能がここまでとは思わなかった。


「ライングは今まで魔法の修行してなかったのにすごいよね」

「いつもサミーと身体を鍛えたり、剣術の訓練ばっかりやってたからな!」


 そう。生まれてから兄弟のように一緒にいたライングと僕は一度たりとも魔法について修行をしたことが無かった。それだけにこの結果は色々な意味で驚いた。

 ……親友として嬉しいけど、それでも羨ましいな。


「うん? サミー、顔色が悪いがどうした?」

「あ、いやいや、大丈夫だよ。ちょっと疲れてね」

「確かにあの騒ぎは疲れるわね」


 どうやら思ってたことが顔に出てしまったようだ。ダメだな、大事な親友に嫉妬するなんて。

 そうしているとライングが立ち上がった。


「そろそろ行こうか。次の審査は戦闘だ!」


 騒ぎも落ち着き始めたし、そろそろ訓練場に戻っても大丈夫だろう。


「サミー! お互いに頑張ろうな!」

「そうだね、頑張ろう」

「私はいつも通りやるわ」


 戦闘試験のため、僕たち三人は休憩室を後にした。

 

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