ご縁
高校2年の春。いつもの学校帰りに携帯をポケットから出し、母からの着信を見てため息をつく。
改めて私に自由はないのだと、眩しい太陽が顔を出す青空に向かって手を伸ばすと何故か無数の紙が空から降ってきた。
スローモーションに上からヒラヒラと落ちてくるそれに私は手を伸ばすけど取れずに風に飛ばされ地面に落ちる。
拾い上げれば達筆な文字で一言。
「縁」
それだけではないなぜか同じ字でなくつながっているようにも思える。
「求む」
「頼む」
「部員」
怨念のこもっていそうな欲望の塊の紙だった。なんとなく半紙をまとめて落ちてきた部屋へ行くとササッと何かを描く音が耳に入る。
目を閉じれば紙に筆が擦れるような、足で畳をするようなそんな音が部屋に入らずとも廊下に響いてた。
私はまだ言葉を一言も話していないが足音でわかったのかドアの中から声が聞こえてきた。
「縁かな…?君は入部希望者でしょ?」
「はい?」
「いやぁ、俺のあの字を見てスルーできる人なんていないよね」
自慢げで嬉しそうな笑う声に私は言った。
「いや、公共の場に紙が降ってきて邪魔かなと思って」
その場で場が凍りついたように会話が止まる。多分、私が分断した。次の瞬間、ドアが勢いよく開いて私はドアを開けた人物と目が合う。
私より見上げるほどに背が高くて細マッチョと言われるであろうその男子は私の目を見つめる。よく見ればぱっちり二重に大きな瞳と長いまつ毛は彼の凛々しさを引き立たせた。
その顔と雰囲気。なにより、香りはあの人にそっくりで少し驚いてしまう。
もうずっと会えていない。
あの日一回きりだったけど、また会えたらちゃんとお礼を言いたい人。
真顔で私を見ていたが栗色の柔らかな髪を少しかきながら彼は笑った。
「暇なら少し見て行かない?」
いきなり言われ顔を上げる。
「無理やり入部とかは言わないから?」
なぜ疑問系。本当かな。と思ったけどさっきの音がもう一度聞きたくなった。
「じゃあ少しだけ?」
彼は犬の尻尾が生えたようにまんべんの笑みを見せた。
「やった!」
部室に入ると達筆な文字で半紙に書かれた文字がずらりと並ぶ。
「わぁ…。綺麗な文字」
そう言いながら少しずつ歩みを進める。
「あ、自己紹介がまだだったね?」
歩いていた彼は足を止めて私の方に振り返って目線を合わせ中腰になる。
「俺は瀬央向葵3年よろしくね?」
名乗ってもらったのに無視するのは失礼だと思い、私も言う。
「私は咲坂美寿です。2年です」
「じゃあ美寿って呼ぶね!」
私の意見を聞いていそうで聞いてないなこの人。
「瀬央さんは」
会話を分断された。
「向葵でいいよ!変にさん付けとか気持ち悪いしね!」
「瀬央さんは書道部お一人なんですか?」
すると自分の言葉をスルーされたのにショックを受けていた彼はうなづく。
半紙に書いた文字を見ながら言う。
「なんか書道部って影薄いのか、俺のせいなのかわからないけどあんまり入部希望者入ってくれないんだよね?」
そう言いながら自分の書いた文字を見つめながらいう彼に私は言った。
「瀬央さん整った顔立ちだから女子にどう?って言えばすぐ見つかるんじゃないんですか?」
そうつぶやくと彼は首を横に振る。
「そうじゃないんだよ!入部する人は心が綺麗な人にして欲しいんだ。あとはその人の支えに書道がなるようなそんな感じの人がいい!」
不思議っていうか馬鹿なのかな。部員が欲しいって言うわりにはこだわりが強いな。
「美寿はストレスが溜まった時何してる?」
ストレス…その言葉で思い出すのは中学生の時の記憶。
「美寿?」
顔を覗かれて私は驚く。
「すみません!そうですね!美味しそうものを食べるみたいな?」
慌てて答えてから苦笑いする私に彼は筆を持ちいった。
「俺は紙に書くことにしてる。紙に書くと自分の心に思ってることがよくまとまるし、どんなことを考えてるのか自分で整理できる。どう?美寿もやらない?」
本当はわかってる。私のために言ってくれていることも。いろいろ気を遣ってくれていることも。でも今までのことが頭に全部蘇ってきた。いじめられていたこと、私に理解のない母のこと。それを紙に書けば全て解決するのか。いや、そんなわけがない。今の私には受け止められない。理解もできない。そんな綺麗事。
瀬尾先輩から渡される筆を思いきり振り払う。
「全て書いたら解決するんですか?馬鹿なんですか。そんなの書いたところで何も解決したりなんてしない!」
部屋に響くのは私の怒鳴り声と筆が落ちた音だけだった。綺麗な所作で筆を拾う先輩。
勢いで言ったものの彼の顔を見たらひどく切なそうな顔ををしていた。
「ごめん。何も知らないのに。でも俺と美寿は似ているようなそんな気がしたんだ」
「意味がわかりません」
そう言ってから私は苦笑するその顔を見ていずらくなり、鞄を急いで持って書道室を飛び出した。私は振り返らなかった。認めたくなかったから。何も知らないくせに。
別館と本館の校舎をつなぐ渡り廊下。中庭に面し、少しまだ肌寒い。そんな中、陸上部の先輩が私の横を通る。
「なぁ聞いた?瀬尾の奴、書道部に逃げたらしいぞ?」
あざ笑う会話に私は足を止める。
「そうなの?しかし、瀬尾もったいないよな。もともと陸上部で優秀な成績で推薦でこの高校入ってきたのに今じゃ部員1人廃部寸前の書道部だもんな。どうしたらあんなに落ちぶれるんだか」
「何の努力もしてない奴はお気楽でいいよな」
酷い言われようだ。でもなんで陸上部で優秀だったのに辞めたんだろう。何かあったのかな。まだ今日知り合ったばかりの笑顔ばっかりの先輩。その笑顔を思い出して私はスカートの裾を手で握りしめる。
「元仲間のことを、そんな下品に笑いながら言えるあなた方のほうがよっぽどお気楽だと思いますけどね?」
そういうとその男子生徒たちは私に振り替える。
「なんだお前?」
すごまれて胸ぐらをつかまれた私は怖かったけどでもそれよりも許せなかった。
「おい!手…放せよ」
そういって肩をぐっと引き寄せられ、背中にぶつかりその声のほうを見れば息を切らした瀬尾さんがそこにいて私は思わず言った。
「瀬尾…さん」
するとそこにいた陸上部は言った。
「なんだ、負け犬の登場かよ」
そう言われても彼は悲しい顔をする事はなくただ真っ直ぐに陸上部員を見つめた。
「俺のことは何を言ってもいいけど彼女は関係ないだろ」
彼は少し強い口調で少し睨みながら言う。
「あ?こいつが舐めた口きくからだろ?」
先ほどの言葉と今の態度に腹が立って私は言う。
「謝ってください!」
そんな私を瀬尾さんは止める。
「おい、美寿もやめろ!」
それでも私は言葉を止めなかった。
「理由もろくに聞かないで裏で悪口なんて卑怯です!」
その言葉に相手は嘲笑って言った。
「なんだこいつ、なんも知らねーのかよ。こいつはな兄貴亡くなってから逃げるように陸上部辞めたんだよ!大会近くだっつうーのに」
私は鼻で笑ったその男子の頬をおもいっきり叩いていた。
「ってめぇ!」
彼はもう意図ど私の胸ぐらを掴もうとするのを瀬尾さんは必死に止めたいた。
「人の家族の死をなんだと思ってるの!?あなたたちの家族が同じ目にあっても次の日、何食わぬ顔で大会なんて出れるわけ!?人の心もないあんたらなんて応戦する価値もない」
そういったところで遠くから陸上部のジャージを着た人が走ってきた。
そいつらの顔色が変わったところを見るとどうやら先輩らしい。
「はいはーい。そこまで。お前ら無駄口叩く暇あるなら言えよ!メニューもっときつくしてやるんだからさ?」
身長は瀬尾さんと同じくらいでメガネをかけすらっとしているその人はクールそうにも見えるけど喋り方が緩い感じはクールさのかけらもなく、優しくも見せるのだろう。軽く言いながらもでも低い声の彼にその男子生徒たちは少し怯んでいたが頬を叩いた男子生徒は怒鳴り散らす。
「成瀬先輩、俺この女に頬叩かれたんですよ?」
そんな怒鳴っている彼にも動じずに私と彼の間にたった成瀬と呼ばれた人は言った。
「それはお前がなんかそれぐらいのことしたんじゃねーの。今回はお前も悪いんだろう?わかったらさっさと練習戻れ!」
そういわれ私をにらみつけてから舌打ちをして諦めたようにその場から去ってくれた。
「成瀬悪かったな」
そういった瀬尾さんに成瀬先輩は言った。
「いい後輩を持ったな瀬尾。お嬢さんありがとうね。こいつのためにあんなに怒ってくれたこと親友としては嬉しいよ」
私と目線を合わせて優しく微笑む彼に私は言った。
「いえ、私は何も知らない人があれこれ言われるのは許せないだけです。でも大事にしてすみませんでした」
謝ると彼は笑った。
「だとしてもありがとう!それと瀬尾…お前の席はまだ残してるからその気があれば待ってるからな」
その言葉に瀬尾さんはぎこちなく返事をした。
「あぁ…」
そういって成瀬先輩も行ってしまい、残った私たちの間にしばらく沈黙が流れる。
「「あの…」」
すると瀬尾さんは言った。
「先にいいよ」
気まずそうに言われ私は小さい声でしか言えなかった。
「いえ、その、さっきはすみませんでした。大切な筆を…。それに態度もよくなかったですよね」
彼も気まずそうに呟いた。
「いや、俺のほうこそ何も聞かづに図々しくごめん」
そう言えば瀬尾さんはなんでここにいるんだろうと思い聞いてみる。
「いえ、でもなぜここに?」
ポケットから私のハンカチを取り出して私に渡してきた。
「これ、ハンカチ落としていったから届けようと思った時に大きな言い合いが聞こえてもしかしてと思ってきたら…いたんだよね。でももうあんな無茶はしないで。心臓がいくつあっても足りないから…約束してほしい」
差し出された小指に私は小指を絡ませた。
「わかりました」
「じゃあこれで仲直りだね。実は書道の先生に差し入れにケーキもらったから一緒に食べない?」
フフッと笑う彼の雰囲気につられて私も思わず笑ってしまった。
「瀬尾さん、いや、瀬尾先輩行きましょう!」
「さんから先輩に昇格か、まだまだ先は長いなー」
私は先輩に気づかれないように小さく笑った。
「ささ、どうぞー」
そういって空いている机を指した彼は笑う。
「あの、言いたくなかったら別にいいんですけどお兄さんって…」
聞いてはいけないような気がした。でもさっき何も知らないと相手に言われて次は知っている状態で味方になりたいと素直に思った。
「あー、俺の兄貴自分でその道を選んじゃったんだ」
荷物を片付けようとしていた私はそこから一歩も動けなくなってしまった。
「そう…でしたか」
「本当にそういうのからは一番縁遠い人だと思ってたんだけどね」
そういって目の前にケーキを差し出された。
「でもわが兄ながらいい兄貴だったよ。俺と3つしか変わらないのにすごい大人に見えてたんだ」
そう言って思い出すように優しく笑う彼は本当にお兄さんのことが好きだったんだな思う。
「素敵なお兄さんだったんですね、羨ましいです」
そう本音が漏れていた。兄弟のいない私は一人っ子で何か気持ちとかも含めてキュゆう相手がいる事は素直に羨ましかった。
「美寿は?」
「私は一人っ子です」
そう答えると彼は思い出したように私に尋ねる。
「そうなんだってそういえば前に美寿陸上部来たことあったよね?」
私は瀬尾さんを覚えていなかったけど確かに私は陸上部を見たことがあった。
「あー、あれは幼馴染の三國春が陸場やってるんで」
私の幼馴染の春は昔から陸上をやっていい全試合を見にきて欲しいと言われて陸上部の試合を見たことがあった。
「春の幼馴染だったんだ」
「そうです。あ、ケーキいただきますね!」
そう微笑むと瀬尾先輩もうなづいて食べ始めた。
「うまっ!」
そういって目を見開いてこっちを見た先輩に私は笑う。
「本当に美味しいですね」
すると彼は何か考えるようなそぶりをして私の目を見て言った。
「美寿さやっぱり書道部入部してみない?」
「え?」
すると彼は椅子に改めて座り直して言う。
「綺麗ごととかそんなんじゃなくてさなんか趣味程度にっていうかなんかうまく言えないけど気になること初めてもいいと思うんだ」
「気になること?」
私が疑問に思って言うと彼は思い出すように微笑みながら言う。
「半紙を下に飛ばしても今までここに持ってきた人はいなかった。入り口付近で留まっていたの、筆で文字を書く音がよかったからだろう?」
「探偵ですか!」
そう笑うと同じように瀬尾先輩も笑った。
「確かに名探偵になれるかもね」
ちょうどケーキを食べ終わり片付けも終わったところでチャイムが鳴る。
「じゃあ帰るか!」
「ですね!」
私はこの人にだったら話してもいいかもしれないと少し思ってた。
このご縁もきっとあの人が結んでくれたのかもしれないと先輩の面影に似たあの人を私は思い浮かべた、
今頃…何をしているだろうか。もう一度あの人に会いたいな。
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