第28話 食えない生徒会長

「アハッ、アハハハッ!この時の西園寺ったら、傑作だな。お、お腹が痛いっ!」


生徒会長の石狩先輩はテレビの画面に西園寺が他の風紀委員の女子にもみくちゃにされているシーンが映っているのをみて、お腹を抱えて大笑いをしていた。


「会長。その動画何回見てるんですか?」


恭介が呆れたような視線を投げかけていた。


その奥のテーブル席では、髪の長いクールな女生徒と、眼鏡をかけた男子生徒が、パソコンに向かい何か作業をしていた。


ここは生徒会室。


りんごが風紀委員に呼び出しを受ける騒動が解決(?)した後、

一応俺、りんご、宇多川の3人は生徒会長の石狩先輩に話があると今度は生徒会室に呼び出されて応接間のソファの席につかされていた。

(りんごは、恭介以外の生徒会メンバーとは初対面のせいか、借りてきた猫のように緊張ぎみに固まっていた。)


「あ、あの…。生徒会長さん。先程は、私を助ける為に力を貸して下さったとか…。本当にありがとうございました!」


「「石狩先輩。許嫁(親友)の事でご協力下さってありがとうございました!」」


りんごに続き、俺と宇多川がお礼を言うと、石狩会長は手を振った。


「いやいや、お礼を言わせてもらうのはこちらの方だよ。

風紀委員の暴走には以前から手を焼いていたんだ。今回の騒動で、西園寺と他の風紀委員女子の結束は揺らぎ、風紀委員は内部から崩壊の危機に瀕している。恋愛禁止の校則案の話も立ち消えになったよ。西園寺もしばらくは悪巧みを企てる余裕もないだろうさ。


本当にお手柄だよ。里見浩史郎くん、宇多川夢さん、そして、森野林檎さん…。」


石狩先輩は、最後に隣の席のりんごの顔を至近距離で覗き込んできた。

「あ、あの…?」

「君。実物のが可愛いな…。」


??!


そして、石狩先輩はそのまま目を閉じて、りんごの顔に近付けていく…?


「え、あ、あの、あの!」


「ちょ、ちょっと何やってん…!」


俺は立ち上がって止めようとしたが間に合わず、もう少しでキスするかと思われた時、突然誰かの手が唇と唇を遮った。


「石狩先輩、おふざけはそこまでです。りんごは私のなんで、手を出さないでください。」


宇多川がいつの間にか、会長とりんごの間に立ちはだかっていた。


「ほぅ。君のか。そりゃ、残念。」


石狩先輩は面白がっているような笑みを浮かべつつ、謝った。


いや、宇多川、お前のかよ?一応仮にも許嫁なんだから、俺のだろ。


りんごは、ホッと胸を撫で下ろしていた。


「び、びっくりした…。セカンド奪われるかと思ったぁ。」


ん?セカンド?


「会長。大概にしてくださいよ?俺が何ヶ月もかかって口説き落とした人材をみすみす逃がす気ですか?」


恭介が腕組みをして石狩会長を睨んでいた。


「ごめんごめん。冗談が過ぎたね。許嫁の里見くんも心配させちゃって、すまんかったね。」


思わず止めようとして、すぐ側に移動していた俺に片手を立てて謝り、ちっとも悪いと思ってなさそうな顔で、ウインクをした。


「は、はぁ…。」


「文化祭の他校との合同企画の件でも君達には世話になったね。君達に出してもらった候補の中から衣装は決定させてもらったよ。

あの猫耳の動画もとても良かったぞ?文化祭のオープニングで流してもいいくらいだ。」


「や、やめて下さいっ!!」

宇多川は涙目で叫んだ。


「会長……。」


恭介の背後からの圧に、石狩会長はビクッとなった。

いつも柔らかい物腰の恭介だが、会長に対してはかなり当たりがきついらしい。


「分かってるよ。冗談だ、冗談。何だよ、恭介だって、いつもこの面白いメンバーを散々弄り倒してるんだろ?少しくらい私に貸してくれたっていいじゃないか。」


「石狩生徒会長。私達はおもちゃじゃないですし、そろそろ本題に移ってください。私達にただ礼を言う為だけにここへ呼んだわけじゃないでしょう?」


「おや、流石は聡明な宇多川夢さん。そう。ここへ呼んだ理由はもう一つあってね。文化祭の例の合同企画に、給仕役として参加してもらえないかと思ってるんだけど、どうかな?衣装も選んでもらったことだし、どうせなら自分で着て実演してみたくないかい?」


「合同企画は一日だけでしたよね?クラスの出し物の時間とかぶらなきゃ大丈夫ですが、りんごは大丈夫かしら?」


「私も大丈夫だよ。」


「じゃあ、3人参加という事で。」

ん?3人?

「え?俺参加するって言いましたっけ?」


戸惑った俺が問うと、石狩会長は大げさな身振りで驚いて見せた。


「ああ、勝手に君も参加するものと思っていたのだけど、違った?彼女達が可愛いメイド服着て他校でお給仕なんて、変な虫が寄ってきて心配じゃないかと思ったんだけどな。ボディーガードを兼ねてお給仕役をしたいじゃないかと、勝手に邪推してしまったね。

すまなかった。では、代わりの有志のイケメンを募集して…」


「いや、参加しないとは言ってませんけどね!」


「なら、そう言い給えよ。男の子は素直が一番だぞ?」


石狩会長は全てを見透かしたような笑顔でにっこり微笑んだ。


この人のこういうところが苦手なんだよな…。


*あとがき*


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