第6話 導き

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


「ん・・・ここは・・・どこだ?」

目を覚ます。


「あれ? 何も見えない。どうなっているんだ?」

まだ意識が虚ろで、状況が飲み込めていない


「身体は・・・動くな、でもなんだか実感がないな」


 誘拐でもされて、どこかに閉じ込められているんだろうか?それにしては口は封じられず、手足などを縛られているわけでもない。それどころか身体かふわふわと浮いている感じがする。地面というものが、この場所にはないことに気づく。


「これ浮いているのか? 無重力って・・・まさか、宇宙空間ってことはないよな?」


 記憶が曖昧で、なぜ自分がこんな音も視界もなく天も地も把握できない宙を彷徨っているのか?…夢とも思ったが意識が次第に明確になるにつれ、先ほどの出来事が鮮明に思い描かれていった。


「そうだ! たしか暴走した凛に剣で斬りつけられそうになったんだった」


「それで、もうダメだぁと思ったら、いきなり目が開けられなくなるくらいに外が眩しくなって・・・」


「あっ! そのあとすぐだったな。唸るような轟音がして・・・その後の記憶がない!」


「あれはいったい何だったんだ・・・あっ、そういや凛や真由羅先輩はどこだ?」


 あの時、凛と真由羅がそばにいた。というか、凛に殺されかけた。しきりに辺りを見回したが、やはり暗闇で何も見えない。まるで失明でもしてしまった感覚にとらわれたようだ。


「りーん! 真由羅せんぱーい!」


 大きく声を上げて2人を呼んでも、何の返事も帰ってこない。


「くそ! なんだってんだ!」


 自分の置かれている立場を理解できず焦燥感に駆られ、つい悪態をついてしまった。



 この無重力空間?で身を任せ彷徨いながら、暫くしてようやく俺は冷静さを取り戻し、ある1つの結論を導き出した。


「まさか・・・俺、死んだのか? ここはもう現世じゃない、何かの空間・・・」


 そう感じ取った瞬間、なぜか涙が溢れていた。


「なんだよ・・・死んだことすら気づかないまま死ぬって酷くないか」

 

「俺の17年間は何だったんだ・・・思えば凛に振り回されてばっかりだったな」

それしか出てこなかった。


「なんか、あいつのことしかでてこないな。他にもいろいろとあったはずなんだけどな。今、浮かんでくるのは凛のことばかりだ」


 そういやこの間、蒼汰が言ってたな。『お前は、何だかんだ凛ちゃんのことを優先している』って。きっとこういう事なんだろうな。


 兄妹として当たり前のように隣にいて、たとえ不快なことをされても嫌うとこはなく受け止め、凛から離れることなど俺は決してしない。これは凛と血が繋がっているから…だと思っていた。しかし、どうしても反りが合わず嫌悪感で離れてしまう兄妹はいくらでもいる。


 これが兄妹愛なら妹は他の誰かで、血縁関係じゃない異性としての凛が今みたいに俺に懐いてやきもち焼いて暴走して俺を困らせてきたとしても、凛に構うことなくその妹を優先するだろう。でも、俺はそうじゃない。凛じゃない妹がいたとしても凛を優先する。凛じゃないとダメだ。凛以外は考えられない。凛にそばにいてほしい。これはもう兄妹愛じゃなく異性愛。凛にもう会えないと理解して、ようやく俺は気付くとこができた。


「俺は、凛の事は妹として好きなつもりだったけど、いつのまにか・・・いや、最初から凛という1人の異性の女の子として見ていたのかもしれないな」


「もう会うことはでき・・・ないだろうな。きっと凛も生きてはいないだろう」


 凛との思い出を通して、改めて二度と会うことはできないと認識し、溢れ出た涙は止まることはなかった。


 もういいや、今は何も考えたくない。しばらく眠りにつこう。もし、この意識がまた芽生えるなら、その時は慎重に考えよう。と、俺はゆっくりと瞼を閉じた。



________________________________________



「・・・蓮」


「・・・・・」


「蓮よ・・・・聞こえるかの?」


「・・・・・?」


 何か聞こえる…朦朧とした意識の中で聞きなれない声がした気がした。


「蓮・・・・蓮よ、聞こえていたら返事をするのじゃ」


「!?」


 なんだ!?誰かが俺に話しかけて呼んでいる。急激に意識を取り戻した。


「誰だ?」


「おぉ! やっと聞こえたようじゃのぅ」


「全然、まったく、ちぃ~とも起きやせぬから、いい加減物理的に起こそうかと思うたぞ」


 おいおい物騒だな。


「それであなたは、誰ですか?」


「そうじゃな。今ここで話しても要領得にくいじゃろうて、とりあえずこちらに来てもらおうかの」


 そう言った矢先、これまで何も見えなかった空間に小さな光が灯した


「その光を目指して、ワシの所にくるのじゃ」


 謎の声主に不安を覚えだが、このままここに居続けるのは最悪解だと感じ言われるがまま光り輝く場所を目指した。

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