第9話ダンジョン一日目3強ゴブリン戦


「凄く嫌なスキルの効果が書いてあんだけど……」


 スキルとは魔法ではない技能の事で、探索者の才と言い換えてもいい。


 詳細を見てみる事にする。


―――――――――――――――――


【禍転じて福と為す】


障碍しょうがいが与えられる。

 また全てのモンスターの戦闘能力が上昇する。

障碍しょうがいを打ち破った場合、相応の報酬が与えられ早熟する。

・モンスターの落とすアイテムの質が良くなる。

 またステータス幸運を表示する。


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「早熟する」とか「モンスターの落とすアイテムの質が良くなる」だけなら当たりの部類のスキルなんだけど……デメリットがヤバい。

 まず「全てのモンスターの戦闘能力が上昇しする。」これがどの程度かは分からないが、自動発動パッシブ系のスキルは言葉どおりon/offが出来ないので、この場合デメリットが大きい。

 より短時間で成長できるし、稼げる半面難易度が上がる、なんてハードモード前提なのが、リアルだと辛すぐる。

まぁ、相応の報酬・アイテムの質向上・幸運なんて素敵ワードも入ってるし、ポジティブに考えよう!。



 まだ余裕があるうちに、ゴブリンを同じ条件でもう一体倒して、体感で良いから敵の強化率を調べよう。

 一息つく前に先ずは、出血死させたゴブリンの死骸を岩の陰に運ぶ。

この時に緑色の血がポタポタと落ちるようにしておく。

 こうする事で不信に思ったゴブリンは岩陰に来る。

 そこを背後から襲撃すると言う算段だ。


 スキルの表記の解釈にもよるが、反応速度を含めた範囲で超強化されるのなら俺の一撃は読まれて対応されるだろう。

 だが筋力などが上がっているだけの純粋な強化の範疇であれば、次こそは一刀の元に切り伏せる事ができるだろう。


 俺は通路に身を隠し、先ほどと同じように鞘から刀を抜き下段に構えた状態で、顔だけ通路から覗かせた状態で周囲を伺う。


 緊張感からかバクバクと心臓が鳴る音が聞こえる。先ほどの戦闘でかいた汗が冷え、張り付いた肌着が冷たくて気持ち悪い。


 俺は心を落ち着かせるために大きく深呼吸をする。


 俺は疲労感を軽減するために、一本で満足する。キャラメルが入ったチョコバーを食べて、渋い緑茶のペットボトルで口内を洗い流す。


 暫く待つと、警邏中と思われるゴブリンが一匹、俺がゴブリンを倒したルームに入って来た。

 手に持っているのは小型の剣鉈、そこそこ質が良いのか刃が欠けている程度で、先ほどまで見たゴブリンよりも上等なものだ。

 直ぐに血痕に気が付いたのか? ヒクヒクと魔女のような大きなワシ鼻を引くつかせ、まるで獣のように血の跡を追跡していく……


 俺は足音を殺しながら、通路をでてルームに点在する石や草などに身を隠しながら接近し様子を伺う……


 ゴブリンBは仲間の死体を見つけ唖然としたのか動きが鈍る。

モンスターにも同族の死を悲しむだけのがあるのか……と少し感心する。


(今だ!)


 下段から八相に構え直し、数メートルの距離を詰めると、ゴブリンの背後からオニキリカスタムを力いっぱい振り下ろした。


 ビュン。と言う風切り音を立て、オニキリカスタムの刃は首筋目掛け振り抜いたのだが、ゴブリンは待っていたと言わんばかりに反応し、剣鉈で俺の斬撃を受け流す。


「ゴブ!」


 ギィィィィ!


 火花を散らしながら俺の袈裟斬りは、ゴブリンBの剣鉈によって反らされる。


 その隙を見逃さず、即座に身を翻したゴブリンBは、仲間の死骸の側に落ちていた木製の棍棒を拾い、即席の二刀流スタイルを取る。


(これはまずいな……さっきに比べて身体能力も知能も上がってやがる! 絶対にゴブリンの上位種じゃねぇか! 全ての能力が一回り以上強化されてやがる!)


 DQ〇J2で言う所の強スラ〇ムとか、最強スラ〇ムと言ったところだろうか? 俺はゴブリンBと言う識別名を辞め、強ゴブリンと呼ぶことにした。


 強ゴブリンは、左手に木製の棍棒を持って威嚇してくる。


 奴は理解しているのだ。棍棒で俺の剣を絡めとれば自分の勝ちだと……

 

 知性のある敵ってこんなにも厄介なのか……【禍転じて福と為す】が、本当に強化に見合った報酬をくれるのなら、それに越した事はないが……先ずはこいつを倒す事に集中しよう。


 強ゴブリンは、棍棒を威圧するように振り回す。

反対の手では剣鉈を振りかぶって構えている。

 奇しくもそれは、先ほどの俺の戦法である戦いの主導権を奪って相手を疲弊させる戦法だった。


 ならば相手とイーブンの状態に持っていけば、勝ち目は十分にあるという事だ。

 俺の様に強ゴブリンも棍棒で剣を絡めとるために、剣の予測される軌道上に棍棒を持った側を多く入れようと擦り足で回る。

 俺は中段に剣を構え、強ゴブリンの回転に合わせ回る。

距離は先ほどのゴブリンの時と同じ、あと半歩踏み込めれば相手を斬れる程度の距離。

 半歩の距離がもどかしい……


 刹那。


 強ゴブリンの張り詰めた緊張の糸が緩んだ瞬間。

上段に構え、上から下へ垂直に斬り下ろす。


 ザシュ!


 鎖骨、助軟骨をバックリと切り裂いて、肺に届いたお陰か。強ゴブリンが考えていた棍棒で受け流す作戦は、切っ先で強ゴブリンの胴体を真っ向斬りにしたので関係ないと言う訳だ。


 俺はオニキリカスタムに食い込んだ棍棒を足で踏みながら引き抜くと、斬殺したゴブリンと強ゴブリンから、魔石と武器を拾い帰路についた。 

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