第14-15話探索者はお金がかかる3-4

 

 翌日は武器を買った店に向かった。

 ケガの痛みが引くまでは、休養を取るべきだと考えたからだ。



「いらっしゃいませ」



 そう言って挨拶してくれたのは、先日の華やかな見た目の女子だった。



「先日はありがとうございました」



 礼の言葉述べ感謝を示す。



「いえいえ。私も初めて武器が売れてよかったよ。

 こほん。本日はどのようなお品物をお求めでしょうか?」


「わざわざ丁寧な口調にしなくてもいいよ。

 実は、昨日ダンジョンバットの群れに襲われて……結構斬ったので研ぎをお願いしたいなぁと思って……」


「そう言われても、他のお客さんには丁寧な口調じゃないとダメだし……じゃぁ練習ってことで、まだダンジョンに潜って二日目だとおもいますが……モンスターを合計何体ぐらい斬りましたか?」


「大体100体ですかね……」


「ひゃ、100体ですか!?」



 店員さんは店中に響く程、大きな声を出して驚いた。

 やはり、2日で100体と言うのはかなりぶっ飛んだ数のようだ。



「あ、ごめんなさい」



 店員さんは、大きな声を出したことを恥ずかしく思ったのか、赤くなった顔を両の手で覆った。



「別に気にしませんよ。

 研ぎってやっぱりプロに任せた方がいいんですよね?」


「ええ、基本的にはプロの方が削る量が少ないので刀が痩せなくてすみます。ただ研ぎ料が結構かかるので、お金のない学生さんにはお勧めは出来ないです。AI技術の発達で、削るべき部分に塗料を吹きかける可視化技術が開発中らしいですけど、実用はいつになる事やら……」



 聞けば研ぎ料は一振り3万~らしく、錆びや刃毀れでの整形研ぎでも1万円程度はかかるらしい。



「ウチのお店では無料診断をやってますから、良ければどうですか? 

 お時間は少々かかってしまいますが……」



 そう言われたので、スポーツバックごとオニキリカスタムを預け、店の中をうろつきながら商品を物色する。

 


「そろそろ防具が欲しいんだよなぁ~~」



 昨日の戦闘で俺の弱点が分かった。


一つめは、攻撃範囲の短さ。

二つめは、防御力の低さ。

三つめは、技術の無さである。


 攻撃範囲の短さは槍などを購入するしかない。

 技術は時間をかけて学ぶしかない。

 ならば、防御力の低さを補う事にした。



「何かお探しですか?」



 そう言ったのは、さっきまで対応してくれた女の子とは違う店員だった。



「ええ、プロテクターを買おうかなと思って」


「なるほど! それだとこの辺がお勧めですね」



 店員さんが指さしたのは、初心者向けセール対象商品の防具セットだった。

 


「こちらの商品は最低限、モンスターの爪や牙、斬撃などによって切り裂かれない事を目的とした装備ですので、お求めやすい価格になっています」



 そう言うとスマホの電卓で総額が表示される。


 税込み約25万円。


 見た目ほぼバイク用品なのだが、安価な品よりも一回り以上値段が高い。



「防具メーカーの多くが、バイクやレース用品を取り扱っていた所で、軍需企業の多くがその後を追っているのが業界の動向です。

 ウチのお店では、YAMADAヤマダLEDレッドDAYTONIGHTデイトナイトstrike-airストライクエアーあとは、欧米の軍需企業の防具を販売してます。

 素材も様々で、カーボン、金属、ゴム、強化プラスチック、レザー、ダンジョン由来の素材など多種多様ですが、安全には替えられません」

 


 名前が挙がったメーカーの多くがバイクのプロテクターを作っているメーカーだ。


「なるほど!、じゃぁバイクのプロテクターはある程度流用出来るんですね」



「はい。ですがあまり古い物ですと、JSUSAジェイスーサ(日本特殊地下構造体協会)が定める。規格に適合していない場合がありますので、確認させて頂いてもいいかな?」


「ええもちろん」



 俺はプロテクターを店員に渡す。



「この品だとコレが流用できますね。

 全身分のお値段が、端数切って税込み21万円で如何でしょうか?」


「じゃぁ、お願いします」



 4万下がったことに喜びつつ俺は金を払う。



「ありがとうございます。ビニール袋はサービスさせて頂きます。

 ありがとうございました。」


「無料診断終わりましたよ」



 派手な髪色の店員さんが奥から出て来た。



鈴鹿すずかちゃん、びっくりするからインカム付けながら喋らないで……」


「あ、ごめんなさい」



 昨日の綺麗な店員さん改め鈴鹿さんは、先輩? と思われるスタッフに頭を下げた。



「別にいいよ。じゃぁお客様案内して……」


「はい。ではこちらへお願いします」


「お預かりしたオニキリカスタムですが、刃毀れが酷くお客様の研ぎでは恐らく、回復が難しいレベルの破損状況との事です。

研ぎ工賃が4万円です。お預かりさせて頂ければ、明日の朝10時までには仕上がります。どうされますか?」



 まぁプロがやった方が良いと言っているのだ。


でも今日だけで25万の出費かぁ痛いなぁ。


 通算二日で50万超の出費! で、稼げたのは3万円程度。

 バイト代と、お年玉貯金がなければ耐えられなかった。



「あう、お願いします」



 俺はそう言って全額の支払いを終え、数字の減ったオンライン銀行の預金残高の数字を見て悲しくなった。


 俺は家に帰ると、刀剣店に置いてあった本『探索者向け! 刀剣の研ぎ方入門から基本編』を片手に、祖母の包丁や鎌、収穫用のはさみで使って研ぎの練習をすることにした。


毎回毎回プロには任せられる程、探索者として稼ぎがある訳じゃないからな……


 お陰で料理をしてくれている祖母や、庭の作物を収穫している祖父から、『切れ味が良くなった』と好評をいただき、砥石を買って貰えた。

包丁でも使える日本刀では中間の砥石と粗目、細目の三種類だ。


 そして、二日間で100体以上モンスターを倒した結果がコレだ。



――――――――――――――――――


加藤光太郎

Lv.1

 力:I → F

耐久:I → G

技巧:I → F

敏捷:I → G

魔力:I → I

幸運:I → I

《魔法》

《スキル》 

【禍転じて福と為す】

・障碍を打ち破った場合相応の報酬が与えられ、獲得する経験が上昇する。

・障碍が与えられる。また全てのモンスターの戦闘能力が上昇する。

・モンスターの落とすアイテムの質が良くなる。またステータス幸運を表示する。


――――――――――――――――――



 最初のゴブリン以外が全て、【禍転じて福と為す】の効果で戦闘能力が上昇しているお陰か、基礎5種のステータスの伸びが異常なほど良い。

 まぁ魔力は魔法を手に入れないと伸びないと言われているので、事実上全てのステータスが伸びたという事に成る。


 『力』の上昇は、0.7〜1.4キロはある日本刀を片手や両手で振り回したお陰だろう。

 『耐久』は、ダンジョンバットの群れに襲われた時に鋭い犬歯に噛みつかれ吸血されり、ゴブリンに蹴られたりしたお陰だろうか。

 『技巧』は、ダンジョンバット先生が文字通り『身を持って』教えてくれた的斬り大会で、刀と体捌きを理解出来た事で、上昇したのだろうと辺りを付ける。


 しかしその理屈だと、『敏捷』が上がっている事が説明できないのだが……まぁ長距離を移動したり、暗殺している時に走っているので、そのお陰と今は考えて置こう……


 豊川の祖父母の家から愛車GASGASパンペーラ250を走らせ、9時55分に地下駐輪場に愛車を止めて、オニキリカスタムを預けた店に向かう。 


 店に付くと、開店ラッシュは成りを潜め、少し落ち着いた雰囲気が店にはあった。

開店ラッシュは結構キツイ、今までバイトをしていた店で、嫌と言う程経験していたからな……



「あ、コウタロー君だ! 刀出来上がってるよ!」



 自動ドアを抜け、入店したばかりの俺を見つけ声を掛けて来たのは、華やかなで明るい髪型の笑顔が眩しい少女だった。

 武具店の制服なのだろう。顔に似合わない。やや地味な服装をしている。しかし容姿と雰囲気のせいで埋没しておらず、きっとオタクの俺には理解できない。着こなしやセンスというものがあるのだろう。

 華やかな見た目とは、裏腹に不思議とけばけばしい印象はない。とにかく目立つ容姿の若い女子である。



「ありがとう。でも名前は流石に恥ずかしいよ」


「じゃぁ私の事名前で呼んでいいから……」


「えっと……」



 正直昨日名前を一度聞いた限りで、苗字すら知らないのに名前で良いと言われても正直困る。



「あ、ひっどーい。私の名前忘れてるでしょ? 春先に一度。名乗ってるんだけどなぁ~~」



 ハリセンボンのように頬をぷっくりと膨らませ。非難の意思を示す。


 うん。あざと可愛い。


 俺がおっさんなら援助してしまうかもしれない。魔性と言うには幼く、小悪魔と言うには可愛らしい。命名するならぷちデビルと言ったところだろうか?



「どこであったっけ……」



 少なくとも俺には心当たりがまるでなかった。

 ダンタリ〇ンの書架で見た「三人の知人が居れば、間接的に全人類と知り合いである」と言う理論が脳裏を過った。

 これはアメリカの心理学者。スタンレー・ミルグラムが提唱した。『六次の隔たり』と言うものが元ネタであり、このネット社会ではその隔たりはより小さくなり、2011のミラノ大学と大手SNSの調査によると任意の二人を隔てる人数は、平均4.74人であると言う。

 SNSがこれだけ普及した現在では2,3人の隔たりと言った所かもしれない。


 ―――――と言う訳で、まさかクラスメイトの友人と言われたところで、俺が顔を覚えて居るハズはない。



「クラスメイトだよ? 私は一発で分かったのに……ひっどーい」



 あーなるほど、クラスメイトだったのか。だがしかし、こんなに派手なギャルを覚えていないハズがないに……



「もしかしてイメチェンした?」


「だいせーかい。ピンポン! ピンポン! イエーイ 私が藍沢あいざわ鈴鹿すずかでーす」



 そう言って喜んでいる。

 

分かるハズねぇーー!


 女は化粧で文字通り顔面が変るのに、メイクとヘアカラーで雰囲気まで変えられたら、骨格と身長、体重、カップ数で判断するしかないじゃん!


 俺は心の中で叫んだ。



「おとーさん……店長曰く『朽ち込みが出始めていたので、早く持って来て貰えてよかったです。刃毀れも酷かったので、太刀筋を整える事をオススメします』だそうです。

 えっと……朽ち込みって言うのは、錆びの事で血液には鉄分や脂が付いているので、血汚れは研がないと取れないそうです」



 アルコールで拭えば汚れは取れると思っていたけど、応急処置程度って事か、幸い本も砥石も買ってあるから今度やって見よう。



「店長が探索者向けに、研ぎ方を説明する講座をこの夏季はやっているので良かったら参加してください。参加費通常2000円の所をという事でタダにしたのに、どっかのだれかさんは、知らないって言うんだもんなぁ~~」

  


 俺はひたすら謝って褒めて、機嫌を良くしてもらうのに10分ですんだ。妹で慣れているお陰だろう。


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