十三話 『これでモブは嘘でしょ』
城ヶ崎家はこれ以上ないぐらいの忙しさに見舞われた。お兄様の誕生日パーティーは予想以上に人が多かった。本来、お兄様のクラスメートと親しい友人しか招待することはないと言っていたが……お兄様を狙っている他のクラスの子達からは当然不満は出た。出たけど、それは最初だけだった。急にみんな口を閉ざしたのだ。
噂では脅されたとか、香織様のご加護とかよく分からない噂もあったが結局真相は分からずじまいだった。因みに私は脅されたからだと思っている。
だってーー、
「おい。香織にそれ以上近づくな」
ギロリと睨む1人の男。そう!王子がやってきたのだ。昨日『誕生日パーティー俺も行く。お前の兄貴に伝えておけ』とみんなの前で堂々と言ったのだ。まぁ、耳元で囁かれてみんなに誤解されるという最悪な展開は無くて良かったけど。
それをお兄様に伝えたらお兄様はすごく苦笑いしてたけども。まぁ、分かる。だってこんなに敵意剥き出しで突っかかられても困るよね……
「ごめんね?悠真くん……」
「いや、大丈夫だよ……」
そうは言いつつも、二人とも疲れてそうな表情してる……とこれだけでも充分カオス空間なのに……
「まぁまぁ、落ち着きなよー。冬馬」
西園寺までいるのだから……まぁ、西園寺がいないと王子を止める人が香織様だけになるので別にいいけど。そう思っていると、『うわわーー!』という声が聞こえてきた。
「……こんな大きな会場でするのか……妹よ……」
「お、お兄ちゃ……様!そんな大きな声あげないで!みんな見てるから!」
カオスがさらに広がった。顔を赤くし、美月さんは慌てているけど美月さんのお兄さんはそんなことお構いなしのように慌てている。気持ちはわかる。私もこんな大きな会場でするとは思ってなかったし。
「美月さん。こんばんは」
「透華様!?お、お見苦しいところをお見せしてしまい大変申し訳ございません……!」
「いいえ、大丈夫ですわよ。私もこんな大きなパーティー会場で盛大にお祝いするだなんて思ってなかったので」
これは本心だ。お父様が見栄を張ったからここになったんだよねぇ。私はホームパーティー的なのを想像してたんだけども。
「あ、裕翔、来たのか」
「悠真!お前こんなところでするなんて聞いてないぞー!?何処が小さい会場だ!めちゃくちゃ大きいじゃねーか!」
「俺もここまでするとは思ってなくて……」
美月さんのお兄さんとわたしのお兄様が友人関係だった、と知ったのはパーティーの前日だ。そのときは大いに困惑したし、びっくりしたが、野球関連で仲良くなった、とお兄様から聞かされ納得した。美月さんも最初は驚いていたけども私と同じで野球関連だ、と分かると納得していた。そしてお兄様の粋な計らいで美月さんも招待することにした、ということだ。
「やっぱり私場違いじゃないでしょうか……?お兄ちゃ……お兄様はともかく……私は悠真様と全然親しくありませんし」
「そんなことありません。美月さんは場違いなんかじゃありませんよ!それにお兄様の招待客は私と近い年の女の子がいなかったので来てくれて嬉しかったです。だからそんなこと言わないでくださいな」
「透華様……」
これは全部本心だ。だって美月さんがいなかったら同じ年の子西園寺と王子だけで癒し枠がなかったし。本当に美月さんが来てくれて良かった、とそう思っていると、会場が重苦しい雰囲気を放った。…先までのカオスな空気は一気に消え去り、みんな扉の前にいる女の子に全員の視線が集中した。
サラサラな髪にぱっちりな目に人形のように美しい顔立ちだ。スラッと長い足はモデルさんかと勘違いしてしまうほどに長かった。非の打ち所がない完璧さとは正にこのことだ、とそう思うほどに。一体どこの令嬢なのだろう……と思った矢先、彼女が口を開いた。
「お誘いありがとう。悠真お兄様」
身に覚えのある声がした。一瞬嫌な予感がした。だけど聞き間違いであって欲しい、とそんなことを胸に思いながら振り返った。……振り返ったけど……
「華鈴ちゃん。来てくれたんだね。嬉しいよ」
「ええ……」
私は一人困惑することしか出来なかった。お兄様って本当にモブ?これがモブとか無理があるでしょ。主要キャラと仲良しすぎでしょ!?絶対お兄様って本編とかじゃなくて短編とかスピンオフで出てくるパターンの奴では……
「……白鷺さん?」
そんな西園寺の声が聞こえてきた。
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