第28話 VS炎の魔王4 防衛編 紅血の戦猫
「ありえねえ……」
ビートは、目の前に現れた新たな迷路に、しばし呆然と佇むしか無かった。
「4つ目だと……?」
『ビートさん! どうします!?』
「ぐ……破壊だ! 何個あろうが破壊してやる!!」
ビートはあくまで力押しで時間を短縮するといい、自らも魔法を放つ。
「……“
ビートがそういうと、その瞬間。
ビートの頭上に炎でできた金棒が現れた。それは優に5Mを超える。
「ウラアアアア!!!!」
それはビートの雄叫びによって振り下ろされ……迷路の半分以上を一撃で吹き飛ばした。
「どうだあ!! いくら迷路作ったって時間稼ぎにもなんねえんだよ!」
ビートが得意げにそういった────刹那。
「──ッ!? あぶっ……なんだ!?」
咄嗟に逸らした顔の横を、何かが飛来していき、後方にいたDランクの魔物数体をまとめてやき焦がした。
「なっ……あいつらはDランク……!?」
ビートはGランクしか作れず、全てが×付きであるが故にGランクダンジョンのままである王の魔王に、こんなことができるはずがないと、飛んできた方向に顔を向け……息を呑んだ。
「──ふしゃあ!」
そこにいたのは、赤いジャケットに身を包む、紅の猫仮面をした────人間だった。
(人間……!? ……そうだ、おかしいとは思っていた。たった1ヶ月で2人もの人間を仲間にするなんて……)
きっとあの剣士の横に居た女だろうとビートは推測し、もう一つおかしい点を脳内で挙げた。
(あの魔法……見えなかった。何が起きた? 人間にそんなことができたやつはいたか?)
焼け焦げていることから、火系統の魔法だと推測するが……火系統の魔法には高い弾速の魔法が存在しないと
それは、炎魔法においても同じらしい。
「なら……何だ? ……何者だ!!」
「……」
ビートは目の前の紅い猫仮面に向かってついそう叫んだ。
こんな強い魔法があるわけない……人間がこんなに強いはずがない……
そう言った偏見が、ビートにそう叫ばせた。
「……ふしゃあ!」
「答える気はなし、か!」
それに対して、紅猫は“ファイアボール”を撃つことで答えた。
ビートは炎である自分の体を使ってそれをかき消す。
(チッ……軽減じゃなく無効だったらな……)
ビートは心の中で愚痴をこぼす。紅猫の魔法は、火に耐性のあるビートに、僅かとはいえ確かに、ダメージを与えたのだ。
それによってビートはプライドを傷つけられ、紅猫を殺しにかかる。
「くそ! くたばれっ! “
再び、5M超の、炎でできた金棒が頭上に現れる。
「ハハハッ! 死ねっ!」
ビートはそれを思いっきり振り下ろす。
ドゴオオオオン!!!!
凄まじい爆音と共に、再び辺りに土埃が舞う。
「くく……我輩を怒らせた罰だ! 雑魚がッ──!?」
ビートは勝ちを確信してそう笑い……突然煙を突き破って出てきた“ファイアボール”をモロに食らう。
(チッ……最後の悪あがきか?)
ビートがそう思って一歩を踏み出したその時。
今日何度目か分からない驚愕が彼を襲った。
「その技……縦にしか攻撃できないでしょ?」
「なっ……なにっ!?」
土埃の中から、特に怪我も見当たらない紅猫が出てきたのだ。
「いや〜よかったよかった。もし斜めに振り下ろせたりしてたら……喰らってたかも☆」
紅猫はなんでもないかのように言う。
(バカな……初見でこの技を見切っただと!?)
いや……もし初見じゃないのだとしたら……?
ビートは最悪な想像をして、歯を食いしばる。
(本物の魔王はこっちに残っていたのか!! それとも、こいつが魔王……!)
ビートは瞬時にそう判断する。
『何……!? こっちの魔王は“収納”を使っているぞ! 本物だろう!』
ビートの思考に接続したらしい炎の魔王が、今の状況を見て驚愕の声を上げる。
「なんですって!? でも、こいつが魔王かもしれませんよ! それなら、そもそもなぜ魔王が顔を
ビートは初めて王の魔王たちに会った時のこと──この戦いの火蓋になった日のことを思い出す。
『知るか! ちっと忙しかったから今見たところだ、そいつの実力も分からんし!』
「だって……だってあいつは!」
ビートは何もしてこない紅猫に配下の魔法を撃たせ、足止めしつつ告げる。
「初見で我輩の“鬼槌”の弱点を看破しやがりました!!」
『何!?』
炎の魔王はきっと、それで理解したのだろう。
魔王の
水晶で見ていないと分からないだろうに、その水晶を操れる王の魔王は、今自分のダンジョンに攻め込んできている。
『どういうことだ……!?』
どちらかが、偽物なのか? と炎の魔王は困惑する。
『……どちらにせよ、×ランクの“王”ごときがこんなに強いわけがない! 配下もな! さっさと攻略しろ!』
「はい……ですが、ご主人が魔王を倒してくれれば……!」
『いいからさっさと行け! ……っ!』
炎の魔王の通信は、そこで急に途切れた。
「クソが……」
ビートはプルプルと震えると……魔法の詠唱を開始した。
魔法は、基本的に
ただ、高度な魔法になると、それに加え発動前に特定の詠唱がいるのだ。
ビートは勢いよく詠唱をし始める。
「熱よ! 火よ! 太陽よ! 我輩たちの熱き意志に答え、炎となりて我輩に力を与えん!」
ビートが詠唱を進めるたびに、どんどんと足下の魔法陣が大きくなっていき、輝きを増す。
紅猫は、それを見て、同じ魔法使いとしてヤバさを理解したのだろう。
避けるだけだった紅猫は急激にビートの方に手をむけ、“ファイアボール”を放つ。
(ふん……やはりか。)
ビートはその様子を見て、やはり先程の魔法は使えないのだと理解した。
(魔力が減ってくると立つことすら困難になるはずだが……そうじゃないってことは“スクロール”か)
スクロールとは、一度のみ込められた魔法を使える高級道具だ。
(ふん……カスの割にいい品揃えじゃないか。でも……俺の仲間を奪った代価は支払ってもらおうか!!)
ビートは、“ファイアボール”を腕を振り払って掻き消そうとする。
そして、それを消せばこの魔法で終わりだ……と、炎の軍勢の誰もが思ったその時。
炎の魔王軍にとって、誰もが予想できなかったことが起きた。
ドオオン!
「……なにっ!?」
ビートが振った腕は急に軌道を変えた“ファイアボール”に空振りした。
そして、その“ファイアボール”は……ビートの手前の地面に着弾した。
もうもうと土埃が舞う。
「……まさかっ! ──逃げる気か!!」
ビートの予想は当たっていた。ビートの部下たちが一斉に“ファイアボール”や“ファイアスピア”(ボールの1つ上の魔法)で土埃を晴らすが……
「クソっ!! あの野郎……!!」
そこにはもう、紅猫の姿はなかった。
被害としては、Dランクのゴブリンたちが7、8体とEランクの
それが、後に全ての魔法使いを震え上がらせた“紅血の
=====
「ふー……あぁぁ! 危なあぁ! 怖かったよユージー!」
「おぉ、よく頑張った、流石結奈。あいつは、俺に任せろ。よーしよし」
「……もういいわ、聞かないんだもの」
コアルームに戻った紅猫……結奈は仮面を外していつも通りの夫婦漫才を繰り広げる。
「……そろそろ、最後の部屋まで辿り着かれるでしょう。結奈さんは“マナポーション”で回復を。雄二さんと真希さんは仮面をお願いしますね。」
「おう。……ったく魔王の野郎、仮面好きすぎだろ。絶対楽しんでやがる。」
「ふん……。アイト様に仕えたのにあんたの命令に従わなきゃいけないなんてね。」
「……現在、ダンジョンと配下に関することは、全権私に任されています。」
「分かってるわよ。で、仮面出して?」
真希にそう言われて、ガイドは水晶体から白い狐の仮面を取り出した。
「……おい、俺のは?」
真希が仮面を装着し、結奈がそれを笑って追いかけ合いが始まる。
それを横目に、仮面が渡されなかった雄二がガイドに問う。
「……雄二さんにはこれを、と」
「え……これって、ヘルム?」
そう言ってガイドが吐き出したのは……漆黒の隆起が激しいヘルムだった。
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