第20話 心の檻
「……で、肉と魚どっちがいい?」
「あんた……本気で言ってんの? てか、パン以外に食べ物あんの?」
今までパンを1日1枚ほどしか出してなかったため、知らないだろうが、凄まじく燃費が悪いものの肉や魚も購入することが可能だ。
ちなみに、パンが6枚入り1DPなのに対してステーキ100gで5DPという燃費の悪さだ。
だが、俺は真希との距離を詰めるため、真希から得られたDPだと割り切って使うことにした。
「俺は魔王だぞ? ダンジョンにあるものは全て魔王が作り出している。で、早く決めてくれ。」
その時、目覚めたばかりの真希のお腹からキュ〜、と音がなった。
「ちょ、ちょっと待って、決めるから……」
真希は顔を赤らめて……向かい合ってないからわからないけど、考えだした。
「えっと……じゃあ、魚で……」
「はいよ。」
俺は鮭(4DP)とご飯(1DP)、味噌汁(2DP)を出してやった。箸は嬉しいことにご飯についている。
「えっと……いただきます。」
ずっと寝ていたため、お腹が空いているのだろう。ガツガツと食べる音が聞こえてくる。
「……ごちそうさま」
真希は乱暴にそういうと、痛みに顔を顰めながらも食器を持って来てくれた。
「ん……安静にしといていいのに。言ったら片付けてやるぞ?」
「……何よ。いい人ぶってんの?」
「いやだってお前大怪我してんだろ。」
俺の言葉に棘をつけて返す真希。
だが、いつもよりもその声色は優しい……ように思った。
30分ほど、沈黙が訪れる。
そろそろ何か仕掛けるか……と俺が口を開こうとしたところで、先に真希が沈黙を破った。
「……ねえ、あんた、さっき私に気使ったの?」
「……はは、さーなんのことだか」
的確に的を射ている真希の言葉に、なんとか平静を装って返す。
「……フフ」
「……!」
そんな俺の様子に、真希は小さく笑った。
初めて笑った真希を俺は肩越しに振り返って見る。
「……何?」
「いや、なんでも? ……てか、なんでわかったんだ?」
ジトっとした目をした真希が、棘を含んで何か聞いてきた。
「あんた……本気? あんなバレバレの嘘……誰だってわかるわよ」
「え……マジ?」
「マジ」
俺は意外と喋り出した真希の言葉に何気なく返す。
「……俺の周りは皆エスパーなのか?」
「だから、あんた分かりやすすぎるんだって。魔王なんだから……!?」
真希はそこまで言って、驚いたように口を閉じた。
「……」
「……」
再び沈黙が訪れる。これはどれほど待っても向こうから沈黙を破ったりはしないだろうな、と感じて次は俺が話しかけてみる。
「……真希。お前、笑えんじゃねぇか。」
「……何よ。人間なんだから当然でしょ。」
一拍置いて、真希から返事があった。
「なら笑っとけよ。笑ってたら綺麗に見えんだからよ。」
「っ……なに? あなたも馬鹿にするわけ? 私はどうせ────」
「俺は馬鹿になんかしていない」
「──!!」
俺は真希に向き直って、真っ直ぐ真希の瞳を見つめる。
真希の顔は確かに結奈に比べると劣るかもしれないが、ブスと吐き捨てられる訳は無いほどに、整っている。
だが、そう言う真希に、この魔王──王の魔王は、ひどく真面目に真希の瞳を見つめていた。
「人間が笑う時ってのはな、2種類あるんだ。」
「っ……?」
「1つは他者のために笑う時。他者に合わせたり、他者を嘲る時に使う笑顔だ。」
「…………嫌なこと思い出させるね」
須藤の歪んだ笑いを実際に見て、さらに向けられた真希は嫌なものを思い出してしまったというように被りを振った。
それを無視して、俺は続ける。
「もう1つは、自分のために笑う時。楽しかったり……嬉しかったり……面白いことを聞いたり……そんな時に使う笑顔だ。この笑顔は、その人間を純粋に表している曇りのない笑顔だ。人間ってのはな、この笑顔を見せた時、一番輝いてるように見えるんだって俺は思っている。その笑顔は、誰しもが綺麗に見えるもんだ。」
「……だから何? 魔王に何が分かるわけよ。」
「思い出せ。最初、日本人は全員、神に召喚された。その時、魔王なんて種族はいたか?」
「あっ……」
真希はいつのまにか考えないようにしていた……いや、考えられないようになっていた事実に気づく。そうだ、魔王も元々…………
「俺は自分に関する記憶がない。神に盗られた。だが、雄二や結奈を見ていれば、それが間違いじゃないと思う。」
「…………」
「俺かって、人間だ。」
黙りこくった真希に、俺は微笑みながら告げる。
「だからさ、お前も笑えよ。」
真希は、視線をあちこちに飛ばして困惑しているようだった。
何が正しいのか……
(もう……本当に分かんなくなっちゃったよ……)
真希の心の整理がつくまで、俺は黙って見ていた。
「……それで、どうしたい訳よ?」
「そうだな、なら俺たちの仲間にならないか?」
俺はそういえばそうだったと、単刀直入に聞く。
真希は即答しなかった。
(……どうしたの私……信じちゃダメ……これは魔王の戯言よ。信じても……また、裏切られる……!)
「……嫌、よ」
結果、真希は拒否した──が。
その声は、今までで一番弱い声だった。
「……嫌、嫌! また、あんたも私を裏切るつもりでしょっ! 今回の魔王の戦争に行ったとして、危険になったら……私を見捨てて逃げるんでしょっ!!」
真希は涙を浮かべながら嫌、嫌と頭を振る。
その様子には先程までの魔王を拒絶する、強い意思は感じられなかった。
嫌と言いながら暴れる真希の手を、俺は両手で包み込む。
「!!」
「俺は見捨てない。」
そして、俺は真っ直ぐ真希の目を見て言った。
「――――!? わ、私をっこんな牢獄に閉じ込めてっ……何が仲間にならないか、よっ! こんな
真希はこの世界を牢獄に見たて、子供のように帰ると叫びだした。
「……違う!!」
「ひっ……!?」
俺は泣き叫ぶ真希に向かって、大声で叫ぶ。
「お前がぶっ壊すべき牢獄は、お前の心の中にあるんだ」
「私のここ、ろ?」
真希は泣くのをやめ、俺の目を見つめる。
「ああ、そうだ。お前は過去の牢獄に、閉じ込められている。神が作ったこの世界で、仲間に裏切られ、居場所を失った。……だが、やられっぱなしでいいのか? お前を見捨てた
「わた、しは……」
「言い訳が無いだろう!? お前は神の作った牢獄に、須藤によって閉じ込められている! だがお前にはそれを乗り越えられる力があるんだ! なら、そんな檻ぶち壊せっ!」
「私……私……!」
真希がハッと目を覚ます。
「ただ待っているだけじゃ何も始まらない! 本当の悪は魔王か? 人間か!? 違う、神だ! 恐れることなんてない、自分のために、立ち上がれ! これ以上、奴らの好きにさせるな!」
「……ええっ、そうよ! これ以上……これ以上こんな惨めな思いをしてたまるかっての!!」
真希の目には、もう弱さなど感じられなかった。
「そうだ! この手を取れ! お前も俺たちの、仲間だ!」
俺は、先程とは打って変わって強い意志を感じさせる真希の目を見て、手を差し伸べる。
真希はその手を取り、俺に向かって問いかける。
「……ほんとに……後悔させないんでしょうね?」
その真希の問いかけに、俺は自信を持って答える。
「当然だ。俺は逃げたりなんかしない。諦めたりなんかしないッ! 俺がお前に、力を、笑顔を、くれてやる!」
俺のその言葉を聞いた真希は、どう考えただろうか。
その上で、もう一度俺は真希に問う。
「俺たちの仲間に、ならないか?」
俺がそう言うと、真希は照れからか薄っすらと頬を染めつつ、力強く答えた。
「……ええ! 私をこんな気持ちにさせた責任、取ってよね、魔王様!」
そう言うと、真希は俺に向かって笑って見せた。
その笑顔は紛れもなく純粋で、彼女の心からの最高の笑顔だった。
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