第16話 戦後処理
「お、おい……魔王、これって……」
雄二が指を震わせながら水晶を指さす。
「……ああ、成功だ!」
『転送が完了しました。』
俺がそう言った直後、目の前がカッと明るく輝いて人間が現れる。
「ん……ここは、?」
その人間は、紛れもなく結奈、その人だった。
「……結奈っ!!」
雄二が我慢出来ないというように結奈に抱きつく。
「わっ……! ゆ、雄二……」
結奈は涙を流しながら抱きつく雄二に優しく、
「……ありがとう、ただいま」
と、告げた。
……何故だろう。計画が上手くいき、雄二も結奈も嬉しそうなのにムカムカする。
「……まさか嫉妬か?」
俺は魔王になってから初めて意識したその言葉を、無いなと否定する。
俺かって記憶を失う前は彼女くらいいた……はずだ。
「マスター、嫉妬してるんですか?」
ガイドが煽るように言ってくるが、色々と事情を説明する必要がある。さっきから結奈が雄二に抱きつきつつこちらを見つめているのだ。その目は説明しろよと言いたげだ。
「俺はお前がいるから間に合ってるよ」
「……んなっ」
適当にガイドをあしらって俺は2人に話しかける。
ああ……面倒なことになりそうだな……
俺は気を失っていた治癒士とかいう真希ってやつをベッドに寝かせながら説明するのだった。
=====
「……つまり雄二は魔王に逆らえない奴隷にされちゃったの!?」
「いや、だから名目上そうなだけで最も大事な配下として扱ってるって! 最大戦力だし当たり前だろ!」
「いや、結奈。落ち着けって……」
……一回一回突っかかってくる結奈が想像以上に面倒くさかった。
雄二が宥めても、なかなか落ち着かず、結局2時間もかかってしまったのだ。
「……で、理解したな?」
「うん……。……雄二は、私を助けるために……他の人を切り捨てたんだね……」
「……ああ。幻滅したか? でも……須藤のあの顔を見る限りは…………俺は後悔していない。」
結奈が雄二に問う。それに対し、雄二は真剣な表情で後悔していないと言う。
少しの沈黙が訪れた。
……あれ、これもしかしてまずい……?
せっかく助けたのに雄二と結奈が喧嘩しては本末転倒だ。
……えっと、なんとかしなければ……
「あ、あのっお前ら──」
「……最低」
「「!!」」
しかし、俺が何かいう前に結奈が口を開いた。
「……ああ。俺も、後悔はしていないが……ひどい話だとは思──」
まずい。このままだと……
「…………なーんて、いうと思った?」
「「えっ……?」」
「私にとっては、雄二が一番! いきなり出てきた神様なんかよりよっぽど信頼できるね!」
「結奈……」
……え? どういうことだ? えっと……よくわからないが……仲直りできそう、ってことでいいの、か……?
俺の困惑をよそに、2人は会話を進める。
「私のために、他の人を見捨ててまで助けてくれた雄二は、最高だよっ!!」
「……!」
結奈はまだ雄二が人を殺したことに、整理がついてない。でも、愛する人が自分を犠牲にしてまで守ってくれたのだから、それ以上言うことはないのだ。
2人が手を取り合う。
これは……仲直りできたってことでいいのか? 仲間に……なってくれるんだよな?
「……あ。魔王。さっき何か言いかけてなかったか?」
「確かに! あ……もしかして、私たちに気使いしようとかしてくれたり?」
結奈がニヤニヤとしながら俺に言う。
……こいつっ最初来たときはもっと気弱な感じだったのに!
「──っ、外に出てくる! コアに手出すなら容赦なく殺すからなっ!」
俺は恥ずかしくなってコアルームから飛び出した。
「あはは、ダンジョンの外には出れないのにね? 雄二っ」
「ああ……まあ、そうだな。でも……やっぱ魔王が俺たちを気遣うなんて馴れないもんだ。」
雄二と結奈は笑い合って、魔王の帰りを待った。
その後ろで、笑う2人をじっと見つめる視線に気づかずに。
=====
「はあ……あ、コア持ってくれば安全だった。やらかした……」
俺はコアルームを出てすぐの、墓地にある墓石の上に腰を下ろす。
あ……罰当たりかな……?
一瞬そう考えたが、魔王だしいい……よね? と考えてステータスを開く。
〜〜〜〜〜
王の魔王 Lv14
体力 F力 G 魔力 F 防御 G 器用 F
レベルポイント13
固有スキル:【王威】【威圧】【隷属】
スキル:【ダンジョンマスター】
〜〜〜〜〜
お……レベルがかなり上がってる。まあ勇者組の、レベル10オーバーどもを殺したからな。しっかし……×付きが倒した経験値だけが半減でよかった。
もう×付きしかできないし、Gランクしか作れないからあんま考えることないのかな……と思ったりもするのだが。
「俺の弱点は、自前で戦力を補充できないってとこか。人間も……仲間にするのは、一筋縄ではいかないだろうし。」
今回は、たまたまいい感じに状況が整って雄二と結奈という強力な配下がゲットできたが、この先そんなに都合の良いことが続くとは思えない。
俺はレベルポイント……ステータスに振ると能力が上がるらしいポイントをどこに振ろうか考えながら、ほとぼりが冷めた頃にコアルームへと戻っていった。
だが、まだ事後処理は終わってなかったみたいで……
「……」
部屋に帰ると、2人が扉(ドアがあるわけじゃないんだが)を向いて待ってたのが視線でわかった。
でも、その後ろからも視線を感じる。
2人の背後を覗き込むと、長髪の女がベッドの上で薄っすら目を開けているのがわかる。
「……起きたのか」
「……まお、う?」
「「!!」」
俺が話しかけると、女──真希は体を起こそうとする。
そして、その際うっ、と呻き声を上げながら太腿を押さえる。
「大丈夫……じゃないよな。悪いが、その穴を埋めるほどの薬は持ち合わせていない。応急措置はしたが、寝といた方が身のためだ。」
それでも立ち上がろうとする真希を、近づいて寝かせようとする……が。
「触れないでっ! このクズッ!!」
「!!」
俺の手が触れる前に真希は俺の腕を振り払い、布団に潜ってしまった。
「あらぁ、振られたね、魔王さん」
「あ? ……まあ、いきなり魔王が近づけば警戒するわな。……やっちまった。」
なんか最近やらかしすぎな気がする。
だってしなきゃいけないことが多いんだよ! 仕方ないだろ!
……あと、結奈。お前なんでいきなりそんなウザいキャラになったわけ? マジに腹立つんだけどお前、センスあるわ。
「はぁ……」
安全を保証してやるって言ったからか? 俺がそこまで100%の保証できる強い魔王に見えるか??
結奈の煽りは信用の証だと思うことにして、俺はどう真希を仲間に引き入れるかを模索するのだった。
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