第9話 人間の配下GET!


「どうする?」


 俺は急かすように問う。


 雄二の返事は……


「……った」


「え?」


「わかったっつったんだよ! その代わり結奈を絶対に救い出すために協力しろ!」


 雄二は意を決したかのように叫ぶ。

 即断だった。

 それを聞いて、俺は口元を歪めて手を差し出す。


「当然だ。それも条件の一つだろう?」


 俺の差し出した手を雄二が乱暴に取る。


 ここに、世界変貌1週間にして魔王と勇者が手を取り合うこととなった。


「……マスター! こんなものが!」


 不意に、ガイドが俺の名を呼ぶ。

 だが、その声は喜ばしそうだ。

 

「どれどれ……お!?」


 俺はダンジョンコアを覗き込む。コアにはメッセージが届いていた。


『人類の配下を取得する:を達成しました。ダンジョンレベルが上昇しました。ミッション人間を【隷属】する。:が追加されました。』


 ダンジョンレベルが2になった。……ん?いや、3になった。

 ミッション……そんな項目はなかったはずだが……?


「ん……恐らくこちらからは確認できないようになっているのでしょう。私も今初めて確認しました。」


 ガイドも知らないシステムか……

 

 まあ、思いもよらぬところで経験値が取得できたのは大きいな。

 誰も殺してないのにレベルが上がってラッキーだ。


「ん? どうした、魔王」


 雄二が後ろから水晶を覗き込む。


「うおっ!? すげえな、なんか……難しそうだ。経営してるってのはこう言うことだったのか……」


「はい。魔王様はどちらかと言えば防衛と言うよりも経営をされております。なので魔王様はあなたを正確に配下とせず、エネルギーを産ませているのです。」


「うお!? 水晶が喋った!」


「ああ……それはコアガイド。魔王をサポートする役割を持つ。」


「へぇ……でも、何でだろうな? スライムの魔王のは機械みたいな……喋るとはかけ離れたような声だったけどな……」


「……は?」


 ガイドにあったことがあるのか?

 俺の疑問に応えるように雄二は教えてくれた。


「え? 俺たち2日前にスライムしかいないダンジョン解放したぞ?」


 ……えっ!?もう解放された魔王がいるのか!?

 俺は急いで地図アプリを開く。

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……? あ、ほんとだ! 俺の2ドット下にあったダンジョンが人類の領域になってる!


「おいおいまじかよ……てか、レベル上げ用のダンジョンくらい残さないのか?」


「え? いや、ここがスケルトンとゴブリンしかいないダンジョンだからここで十分って決めたんだけど」


 は!? こんなに簡単なダンジョンなのに普通に消されるかもしれねぇのか!?


「このダンジョンの方が魔物弱いぞ? このダンジョンは保護してくれんのか?」


「ここだけでいいってもう決められちまってんだよなぁ」


 まじか……


(……だが、そもそも俺は魔王だぞ)


 俺は魔王になって、少なくとも魔王らしくは生きようって決意したんだ。人間に保護を頼むなんてらしくないことするかよ。


 雄二はこの地域の一番下の段の左にあるマークを指した。

 ここに攻めて魔王を倒し、何か戦える能力を身につけるか?


 いや。×しか作れない俺はガルーダと雄二しか戦える仲間がいない。それでEランクがいるダンジョンに行くのは無謀だ。


「んー……とりあえず、もう朝3:00を回ってる。さっきまで寝てたんだから睡眠は大丈夫だとは思うが、早く帰ったほうがいいんじゃないか?」


 こいつがどうやって拠点を抜け出してるのかは分からないが、そろそろ戻らないといけない頃だろう。

 俺は雄二に声をかける。


「もうそんな時間なのか? わかった。急いで帰る。」


 さっと立ち上がる雄二に、俺はブロンズソードを渡す。


「武器はいるだろ。先にくれてやる。」


 話し合った結果、俺は武器と魔物を、雄二は外の情報を交換して渡すことにした。

 人間の有利な情報が得られれば御の字だし、どうでもいい情報でもいい。とにかく、俺は情報を集めたいのだ。

 力で不利な俺は情報で勝負しようと思っている。

 知っていることが多いほど、それは戦略の多さにつながるからだ。


 嘘が分かり次第、結奈ごと殺すと言っているので嘘はつかないだろう。

 雄二はとてつもなく彼女思いなのだ。

 

 今回俺はそこにつけ入ったわけだが……


「ん?……おい、これ」


「ああ。俺が使ってたやつだ。お前とかち合ったから少し脆くなってるかもしれないが、我慢しろ。」


「……こんなのもらっちまっていいのか? 恐らく近隣の市町村で一番強い武器だぞ、これ。」


 雄二によると、食料などが宝箱に入ってる時は多いが武器はほぼないらしい。


 そりゃそうだ。誰も自分を倒すための武器なんて渡したくないだろう。皆次に重要な食料を入れるはずだ。俺もパンとか入れてたら2人に食べられた。


(人を呼ばなきゃDPが手に入らない。武器を配って自分を殺されるのは嫌だから、普通は二番手の餌……食糧出すよな。めちゃくちゃ安いし。)


 食糧は尋常でないほど安い。これを配れと言っているかのようにすら思える。

 だが、俺はそんなんじゃいけねぇんだよな。


 ハイリスクとってハイリターン狙うしかねぇんだよ。


 人間を仲間にするようにな。


「それくらい問題ない。Eランクの武器だが、俺はまだある。」

  

 俺はもう一本ブロンズソードを作ってみせる。


「まあその代わり……できる限りダンジョンで寝たりしてくれ。お前は襲わせない。」


 雄二は正式には配下になっていない。

 

 雄二が裏切ってコアを壊したら俺は死ぬ。


 当然、そんなことは意地でもさせないが、他の勇者を連れてくるかもしれない。だが、雄二もそれを理解していて、それでもいいと俺が誠意をみせたことで信頼につながった……と思う。


 DPがもらえるから、というのは建前だ。


「まあ、これでDPが大量に得られるようになったんだからシンプルに嬉しいし、ブロンズソードくらいやるか。」


 俺は雄二が帰った後、そう呟いて今日の集計をする。


 入手……430DP

 損失……556DP


 結果。126DPの赤字。


「うああああああ」


 かなりのDPを失ってしまい、俺は床を転げ回った。


☆☆☆


「……これが、ダンジョンの前に落ちてありました。名はブロンズソード、Eランクです。」


 俺、佐々木雄二は市長にブロンズソードを献上する。持っていても怪しまれるだけだから、市長に渡しておく。多分あの忌々しい……須藤智彦に渡るんだろうが。


 この衰廃した世界で、身分が違うから会えないなんてことがなくなってよかったと思う。


「ほう……で、これは、ダンジョンでとってきたんじゃないかね?」


「……違います。入り口に立て掛けられてましたね。」


 俺は必死に入手経路を誤魔化す。


「ほう……? 確かに、最近まるで誘うかのように食料がダンジョン前に置かれていることがあるな。」


 これは……あの魔王が言っていた、DP……経営ポイント的なものを集めるためか?確かに、俺たちは順番にしかダンジョンを攻略してないから、収入が0に等しいんだろう。


「だがこれほどまでの武器……まるでこないでくれと言ってるようにも捉えられんかね?」


「っ!?」


「これで見逃してくれ、と命乞いをしているようにも思える。それに、このような武器があるならぜひいきたいところだ。……場所はここだな?」


「あ、ああ……はい。」


 まずいぞ。次に攻めるダンジョンがあそこになってしまった。もし魔王が死んでしまえば……結奈の救出に必要な武器と経験値がなくなれば──救助は絶望的になる。


 もうすでに選抜された結奈とは接触すらできない。いつ襲われるかわからないのだ。


「くく……良いダンジョンが見つかったのお、佐々木」


「そ、そうですね……ですが、最近足が痛いので今回限りは辞退させてもらいます。」


 いけるか……? 魔王に裏切りと捉えられるわけにはいかない。辞退して、何とかあいつらを止めないと……


「ん? いいぞ。体調は重要だ。お前はそこそこ強い、行きたいかと思ったが無理して死なれても困るしな。」


「ありがとうございます。」


 そう言って俺はテントから出た。


=====


 その日の夜。

 俺はいつも通り裏道から、安全地帯・・・・を抜け出す。


「おいっ魔王! いるか!」


 俺は天井に向かって叫んだ。すると、それに応えるように俺は奥へと転移させられた。


「どうした? 雄二」


 そしてそこには、全く危機感のない、ベッドに寝転がる魔王がいた。

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