〜松笠 薊(3)〜

「あぁ・・・。またやっちゃった・・・」

「あれは流石に無理ありましたよ。」

「だって!なんて声掛けたらいいのか分からなかったんだもん!」

「だからっていくら何でも、初めましてで何か悩みありませんか?っていうのは流石に警戒されますよ。」

「分かってるよ!僕だってぇ・・・」

 気合いを入れ直した結果。変な方向にスイッチが入り、会ってすぐに悩みはありませんかとど直球ストレートの質問を投げた結果全てボール。ファーボールで逃げられてしまった。

 コミュニケーション能力が無い方だと自覚をしていたが、まさかここまでとは自分でも思っていなかった。帰ってきてからずっとテーブルに突っ伏しっぱなしだ。因みにテーブルは白君が出した。四人掛けの黒のダイニングテーブルだ。この空間とのコントラストが素晴らしい。


「まぁ、そんなすぐにうまくいくと思っていませんでしたからいいですがね。」

「・・・・。」

「何です?」

「いや?僕じゃうまくいかないのは当然ですよっ!そんなこと分かってますぅっ!」

「何を言っているんです?怒っているんですか?」

「別にっ!そんなじゃないですよ!」

「彼は分かりずらいんですよ。」

「彼?」

「松笠薊の事です。」

「分かりずらい?何が?」

「今までの経歴や生い立ち、人間関係から魂が不安定になる原因が推察出来ないんです。」

「え?」

「経歴も全て彼自身が決めて進んで来たようですし、今の大学も彼自身が志望して入学したもの。家族関係や、友人関係にも特にそれとなりそうなものが無く彼自身の性格からか好かれやすい方なようで亀裂のありそうな人物もいない。不自由のない生活を送ってきてるようですし。」

「・・・これから起きるという可能性は?桜和さんの時みたいに」

「これから起きる事もあるでしょうが、魂が不安定になるのはすでに不満や悩みがあるからです。心が満たせれている時に不安定さは見られないものです。」

「じゃあ、何が・・・」

「おそらくとても内向的なもの・・・。彼自身のとても内側にあるものが原因なのかも知れません。しかもそれを表に出さないようにしている。」

「それって触れられたくないものって事?じゃあ、不用意に入り込めないんじゃ

 ・・・」

「そうでしょうね・・・。だから、分かりずらいんですよ。そして難しい。それでも、__________」

「とにかく話してみるしかない。でしょ?」

「はい。お願いします。」

「はぁ、・・・。頑張ります」


 もう今更だから、拒否する気力も起きないがどう接触したものかと頭を抱えてため息が漏れた。




「はぁぁぁぁ」

「おいおいおいぃ!どしたよ?朝っぱらからどでかい溜息ついて」

「いや、何というかな・・・」

「ん?」

「いや、特に何も無い。ただ眠いんだよ。昨日のバイトが忙しくてな」

「そっか。体調崩すなよぉ」

「崩さないよ」

 ゲンは心配してくれたが、実際は眠くも疲れてもいない。ただずっと気掛かりな事があった。昨日会った知らない奴の事、あいつの言った言葉。


『あの悩みとか、・・・ありませんかね?』


 あの言葉のせいで、家に帰ってもバイト先でもふとした瞬間に思い出す。胸の途中に小骨がつっかえたような感覚がする。引っ掛かっている。

 悩み。__________あいつに聞かれて真っ先に浮いてきたものがあった。ここ数年ずっと見ないように、沈めるように押し込んできたもの。でも、それが姿を露わにすることはない。一生。墓場まで持って行くと、誰にも見せないとそう決めたから。____________



「はぁぁ。やっと終わったぁ」

「今日は真面目に受けてたな」

 講義が終わり、ゲンと一緒に食堂に向かっていた。ユウはすでに着いているとさっき連絡があった。

「流石にな。ユウにもお前にもそろそろやばいぞって言われたし、お前らと一緒に卒業したいしな!」

「・・・そうか」

「あれ?照れてる?ケイ照れてるぅ??」

「・・・うざっ」

「あぁ。ごめんてぇ」

「嘘だよ・・・。早く行くぞ」

「はぁい!」




「ケイ、お前どうした?」

「へ?」

 食堂で昼食をとっていると突然ユウに問い掛けられた。

「どうしたって何?」

「なんか元気なくね最近」

「俺も思った!さっきも溜息ついてたし!」

「だぁかぁら!寝不足ったろ!」

「いや確かに聞いたけど・・・。昨日も不機嫌だったし・・・」

「何かあったのか?」


 何か・・・。あったにはあったが変な奴に会ったなんてわざわざ言う事でもないし、まず内容が俺も意味不明な事だったし・・・。


「天気悪い上に雨で湿度高くて機嫌悪かっただけだよ!嫌いなんだよ雨!髪きまらねぇし・・・」

「何だそんなことかぁ」

「そんな事ってお前なぁ。直すのだけでもストレス溜まるんだぞ!」

「へぇ、そうなんかぁ」

「お前はちょっと気にしろよ。俺と同じで跳ねやすいんだから」

「・・・・。」

「?ユウ、どした?」

「いや、なんでも。確かに雨の日の湿気は凄いよねぇ」

「お前は直毛だろがっ!」

「えぇ?俺もセット大変だよ?」

「何分掛かるよ?」

「三十分」

「クソ直毛が!」



 午後の眠くなる講義を終え三人揃って正門に向かっていた。

「この後どうする?」

「遊び行く?」

「いいね!」

「俺も行けるよ」

「どこ行く?」

「カラオケ?」

 結構な頻度で遊んでいるからパターンが決まってきてしまっている。これが毎回悩むところだ。

「まぁ無難よな」

「他なにあるよ?」

「うぅん・・・」

 何をして過ごすか頭を悩ませていると。

「あれ?松笠君?」

「あっ、雪」


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