推し姫
タヌキング
第0話 とある少年の人生設計
唐突だが、俺こと佐伯 正(さえき ただし)には幼馴染が居る。ウチの家は商店街で八百屋をやっているんだが、その向かいのパン屋【マロン】の娘の栗山 美鈴(くりやま みすず)が同い年で、小さい頃からの幼馴染なのである。
美鈴は昔から引っ込み思案で大人しく、親から仲良くしてあげろと言われていたのもあり、俺がいつも美鈴の手を引っ張って、町の至る所に遊びに出かけていた。
そんなことをしていたせいか、小学生の高学年ぐらいから、俺はコイツと流れで結婚するんだろうなと考えていた。幼馴染が居ると嫁探ししなくて楽だなぁと本気で思っていたわけである。
時は過ぎ、俺と美鈴は高校生徒になった。小学生の頃のように一緒に遊ぶことは無くなったものの、毎朝あいさつは交わすし、世間話もするので、昔と変わらぬ良好な関係を保っていた。
そんなある日の夜、俺が実家の二階の自室で休んでいると、美鈴から電話が来た。
「あの、今から話せない?近所の公園で待ってる。」
そう一方的に約束を取り付けて美鈴は電話を切ってしまった。
改まって何の話だろう?八百屋に来てくれれば話なんていくらでも出来るのに・・・もしかして告白!?
そうだ、そうに決まってる。いよいよ持って俺も念願の彼女持ちか。放課後に寄り道したり、休みの日はデートしたり、あんなことや、こんなことまで出来るんだ。あー、何か楽しくなってきた♪
俺はウキウキ気分で家を飛び出して、公園まで走って行った。
公園に着くと、ベンチにちょこんと座っている美鈴の姿が見えた。俺は走って乱れた息を整えながら、ゆっくりとした落ち着いた足取りで美鈴に近づいて行く。告白されるんだから紳士的な態度を見せておくのが礼儀ってもんだ。
「よ、よぉ、ばんわ。」
「あっ、正くん。こんばんは。」
何処となく緊張した面持ちの美鈴。これから愛の告白をしようというのだから、それも仕方ないか。うんうん、可愛い♪可愛い♪
とりあえず隣りに座って、ゆっくりと告白を待とうじゃないか。
「あのね、正くんに聞いてほしい話があるの。」
「うん、なんだい♪」
さて、どうやってオッケーしようか。「喜んで♪」か「こちらこそ宜しく♪」・・・うーん、とりあえず告白を聞いてから考えることにしよう。
「正くん、あのね・・・」
よし、どんと来い。
「私、好きな人が出来たの。」
「ん?」
あれ?これって告白?好きな人が俺って、回りくどい感じの告白なんだよな?
「その好きな人は俺?」
「えっ?違うよ。」
・・・青天の霹靂とはこのことか、ガラガラと自分の人生設計が崩れて行く音が聞こえてきた。
こうして俺の恋・・・いや結婚までのアテが無くなり、安心感と余裕が無くなったので、他の一般の冴えない男子高校生と変わらない奈落の底へと落ちて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます