第6話坂の上
「その坂の上に行っちゃだめだよ」とおばあちゃんは言ってた。
「なんでなの?」と小学生の僕は聞いた。
おばあちゃんはうつろな目をする。
「あそこはセーシンだから……」
「セーシンって何?」
「まだ知らなくていいことだから」
おばあちゃんはそれ以上教えてくれない。
子供だから興味は尽きない。
坂の上を少し覗くと緑が多く神秘的だった。
中学に上がってから分かったことはそこが精神病院だったということ。
中学生の僕も子供で精神病イコールキチガイだと思っていた。
坂の入り口に立つが誰も降りてくる気配はない。
高校を出て、大学も出て、職に就いて20年ぶりに坂を見上げた。
おばあちゃんは亡くなる前に「坊主もセーシンの坂を登ってもいい大人になったな」と布団の中から淡々とした笑顔を浮かべていた。
僕は意を決して坂を登った。
坂を上がっていくと街灯が徐々に点いていった。
まるでディズニーランドに来たように錯覚する。
緑の森林を抜けると映画のような大きく白い洋館が建ってる。
まだ夕方だが辺りは暗くなり始めてる。
おばあちゃんが来ちゃいけないと言ってた場所は静寂が漂っていた。
ふとピアノの音が聞こえる。
おばあちゃんの好きで弾いていたモーツァルトの曲だ。
洋館の窓の電灯が曲に合わせて点滅する。
夕暮れの空は青とピンクの混ざった綺麗なオーロラの色をしてる。
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「お父さんどうしたの?」
5歳の娘が自分についてきたようだ。
娘は僕の右足に絡み空を見上げる。
「ねえ、お父さんどうしたの?」
「おばあちゃんが天国からピアノを弾いてるんだ」
僕は娘を抱き上げ坂を降りる。
「ねえ電灯が消えていくよ」
街灯が坂を降りるごとに消えていく。
「おばあちゃんにバイバイしなさい」
娘はキョトンとしてるが、洋館に向かって手を振る。
冬なのに風が暖かく清々しかった。
2023(R5)1/20(金)
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