第21話

 一心は事務所で家族と食事をしながら事件の話をしていた。問題は室内で起きた足跡の変化をどう説明するか、だった。

当時家には娘と妻がいて体重は、娘46キロ、妻50キロ、一方、行方不明だった夫は75キロだ。

警察から聞いた足跡と体重の関係は、跡の薄い方は45から55キロで濃い方は60から70キロと結論付けられた。だから、妻が犯行を行い夫が途中で妻の靴を履いて逃げた、と考えると足跡の説明が付かなくなったし、そもそも何故そんなことをしたのかの説明もつかないのだ。

 色々な意見はでたが、どれもどんぐりの背比べ、結論への道のりはかなり遠いようだ。

 そこへ甥の一助と彼女が山登りから帰って来た、二人そろってリュックを降ろし「あ~重かったぁ」と言ってソファに腰を下ろした。

 それを見て「あ~それだぁ!」と叫んだのは娘の美紗だった。

皆が驚いて美紗の顔をみていると「だから、犯行計画は妻が立てた。娘が犯行前にそれを知り、犯行を行ったが実際に血を見て怖くなり固まったところへ妻が来る。そもそも妻が庭に大きな足跡を残そうとしたのは体重を意識させたかったから。つまり妻が50キロだとして10キロのリュックを背負えば、足跡は60キロのものとなり容疑者から外れる、と計算してたんだ。ところが先に犯行が行われたため妻はリュックを背負ったまま、娘の犯行を目の当たりにする。で、凶器やその他を捨てるため、娘の履いていた靴を脱がせて自分が履いて外へ出たんだ。あとは親父の言うように夫にそれが渡って、自首に繋がるって訳だ。どうだ、これで事件決着だろ」男言葉は治らない美紗だが、推理は正鵠を射ている。

「一助、ありがとう。お前のおかげで難事件が解決する」一心が言っても一助は訳が分からず、「ふぁ~、それは良かった」そう気の抜けた返事をし、お茶を啜ってため息をついている。

 

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