第21話 専用の魔武器


 その後、私達は森の中を歩いていく。

 高い魔力反応がする方向へ歩いていくと、すぐに光る葉……精霊樹の葉が見つかった。


「やはりこの先にあるみたいですね!」

「ふっ、そうだな」


 私が興奮して葉っぱの側で喋ると、カリスト様は微笑ましそうに見てきた。

 少しはしゃぎすぎたかしら? だけど精霊樹を見つけたら、もっとはしゃいじゃうと思うけど……。


「おそらくここから約五キロ圏内に精霊樹がある。一時間ほど歩けば着くかもしれないな」

「そうですね、精霊樹の葉は半径五キロ以上にはほとんどないですから」


 精霊樹の葉は光っていて大きいけど、そこそこ軽いので風で飛ぶ。


 だけどなぜか精霊樹から一定以上の距離飛んでいくと、消えてしまうらしい。

 でも人が拾ってどこかへ持っていっても消えない……よくわからない葉っぱだ。


 この先にあるというのは隠していたので、とても楽しみね。


 そんなことを考えていたら、私が持っている魔道具が「ビービー」と音を鳴らし始めた。


「お二人とも、魔物です。方角は四時方向です」


 私が指差した先を全員で見ると、そこには狼型の魔物が数匹いた。

 約百メートル先に何匹いるかは目視ではわからないけど、私が持っている魔物感知の魔道具ではわかる。


「五匹いるようです。ご注意を」

「ああ、わかっている。それとやはり、百メートル圏内に魔物が入ったらすぐにわかるというのは、なかなか反則だな」

「そうですね、これだけで不意を突かれないで済むとなると、多くの人達の命を救うことになるでしょう」


 まだ魔物が遠くにいるので、二人は警戒しながらも話している。


 確かにこの魔道具はとても便利なのだけど、これを常時展開するのはとても魔力が必要になる。

 だけど一瞬だけ展開することも出来るので、これはもしかしたら商品化出来るかもしれない魔道具だ。


 一瞬だけでも、さらにもう少し範囲を狭めても、魔物を発見する魔道具はかなり使えるだろう。


 でも、私専用のもう一つの魔道具……いや、魔武器は――。


「っ、来たぞ!」


 カリスト様の言葉の通り、狼の魔物が一斉にこちらに向かってきている。


 どう見ても私達を狙っているようだ。

 私達を狙わずにどこかへ行ってくれるなら、見逃してあげたんだけど……。


「お二人とも、お下がりください」


 私が一歩前に出て、腰に付けていた魔武器を手に持つ。


 銃のような形をしているが、引き金を引いて撃つのは鉛玉ではない。

 五匹の魔物の方に向けるけど、特に狙いをつける必要もない。


 これは、そういう魔武器だから。


「『解放、捕捉、照準、固定――錬成、照射』」


 魔武器の機能で魔物の魔力を感知し、照準を合わせて、魔物を確実に仕留めるほどの魔力の塊を錬成し、撃つ。


 光の球が五つ、一気に照射されて数十メートル先にいる狼の魔物に向けて放たれた。

 全ての球が頭に命中、避けようとしたようだがそれすら追跡している。


 五匹、頭が吹き飛び、絶命……よし。


「終わりました」

「エグいな」


 魔武器を腰に掛けて、振り返り倒したことを報告した瞬間、カリスト様にそう言われた。


「まずはお疲れ様でした、でしょう、カリスト様」

「いや、そうなんだがな……こんな遠くから確実に魔物を仕留めあれる魔武器なんて、見たことがない」

「そうですね、緻密な魔力操作と、とてつもない魔力量が必要でしょう」


 褒められている、のかしら?

 そうだといいけど、一つだけ訂正しておこう。


「キールさん、緻密な魔力操作と言いましたが、この魔武器にはそれがあまり必要ないです」

「そうなのですか?」

「はい、魔武器に魔力を流せば勝手に操作してくれます。そのように作りました」


 別に緻密な操作が出来ないわけじゃないけど、いきなり魔物が襲ってきた時に緻密な操作が必要だったら危険すぎる。


「ただ莫大な魔力が必要です。おそらく普通の人の魔力量だったら、一発撃つだけで枯渇します」

「そ、そうなのですか」

「ああ、俺も試してみたが、三発が限度だった」


 カリスト様でも三発、それでも常人の三倍以上の魔力量ってことだけど。


 私はこれを百発以上は撃てる。

 おそらく限度はあるだろうけど、百発撃っても全く疲れなかった。


「だからこれは私専用の魔武器、というわけです」

「なるほど……今のは五匹で五発でしたが、何匹まで捕捉可能なのですか? そして同時に何発撃てるのですか?」

「前に三十匹の魔物に囲まれて、一気に殲滅出来ました。おそらくそれ以上もいけますが、やったことはないですね」

「……凄まじいですね」


 キールさんは冷や汗を流しながら息を呑んだ。


「しかしこれは本当に危険ですね」

「はい、ですが私以外はほとんど使えないので、大丈夫かと思います」

「いえ、魔武器の存在もそうですが、それを扱えるアマンダ様の存在がです」

「私がですか?」

「王国の騎士団がアマンダ様とその魔武器の存在を知れば、確実に手に入れたいと思うでしょう。アマンダ様一人とその魔武器で一千人分の武力になります」

「……」


 確かにその通りかもしれない。

 私も最初にこれを開発した時は、正直やりすぎたかもしれないと思った。


 絶対に人の魔力には反応しないように作ったけど、これを人に向けたら……想像するのが怖い。


「大丈夫だ、バレることなんてない。心配するな、アマンダ」

「カリスト様……」

「その存在を知るのは俺とキール、それに開発部部長のオスカルだけだ。俺達はもちろん誰にも言わないし、オスカルもああ見えて節度は守る男だ」

「……そうなのですね」


 製造部部長のニルスさんの部屋にいきなり突撃しているオスカルさんを思い出して、少し不安に思ってしまった。


「ニルスとオスカルは仲が良いからな、あれくらいはじゃれ合いに近い」

「な、なるほど」


 私が考えていたことが見抜かれたようで、カリスト様は笑いながらそう言った。

 確かにあの二人は本当に仲良いわね。


「だから騎士団にバレることはないだろう。それにバレても大丈夫だ」


 カリスト様が近づいてきて、魔武器を持っていた私の右手を取った。


「俺が守ってやる。侯爵家の権力、商会の財力、全てを使ってでもな」

「っ……」


 手を握りながらそんな言葉を言われて、思わず言葉が出なくなる。

 カリスト様の不敵に笑う顔が今まで以上に魅力的に見えてしまい、頬が熱くなって顔を逸らした。


「俺の大事な……従業員だ。騎士団なんかに取られるわけにはいかないだろ」

「あ、ありがとう、ございます」


 私はときめいてしまったが、しっかり勘違いしないようにする。


 これは私の能力を認めてくださっていて、従業員として大切にしていただいていて……決してそういう、女性として見られているわけではないわ。


「お二人とも、いい雰囲気のところ悪いですが、先を急ぎましょう。魔物の死体の臭いなどで他の魔物も集まってしまうかもしれませんので」

「そ、そうですね。行きましょう、カリスト様」

「ああ、そうだな」


 カリスト様は私の手を離して、隣を歩く。


 さっきよりも少し近い距離にドキドキしながらも、私は深呼吸をして落ち着く。


 そして私達はそのまま森の中を歩いていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る