第14話 勘違い?
その後、私とカリスト様は一度会場を離れて、バルコニーに向かった。
貴族が開くダンスパーティーの会場になるほどの場所なので、バルコニーも広くてテーブルや椅子もある。
下を覗くと花が咲き誇る庭もあり、とても綺麗ね。
私は椅子に座って一息つく。
いろんな貴族の方々に話しかけられて、ずっと笑みを保ったまま話すのはやはり疲れるわ……。
カリスト様が逃げ出したくなる気持ちもわかる。
「疲れただろう、ここで一休みしよう」
「お気遣いありがとうございます」
「ダンスの音楽が流れるのはもう少し後のはずだ。その時までここで休憩していても問題ないだろう」
カリスト様はそう言って私の前にある椅子に座った。
「そうですね、少し疲れたので……特に愛想笑いをしていたので、頬の筋肉が」
「久しぶりの社交界で侯爵である俺の相手だ、疲れるのは当たり前だろう」
「子爵家の令嬢と侯爵家のお相手だと、話しかけられる人数が違いますね……」
私が学院で社交界に出ても、こんなに忙しかった覚えはない。
会場にあるお菓子などを食べられるくらいの暇があった。
「カリスト様は大変ですね……」
「そうだな、やはり社交界には出たくないものだ」
「それにカリスト様はファルロ商会の会長です。普通の貴族の方よりも忙しいでしょう」
「ふむ、確かにそうかもしれないが、商会に関してはやりたくてやっていることだからな。そちらに関しては大変だが、面倒だと思ったことはない」
カリスト様は笑みを浮かべながらそう言った。
私も錬金術は大変だと思う部分があるけど、自分のやりたいことで楽しんでいるから、面倒だと感じたことは一度もない。
カリスト様もそんな感じなのかしら。
「しかし驚いた、アマンダは社交界の立ち回りも上手いな」
「そうですか? ありがとうございます」
「本当に数年ぶりの社交界だったのか?」
「学院に通っていた頃は何度か出たことはありますがそれ以来です」
「そうか、だがあの立ち回り方は一朝一夕で身に着くようなものではないだろう?」
「まあ、学院生の頃は頑張っていました」
慣れるために誘われたお茶会などは全部出ていた時期があった。
「前に調べたが、君は学院を首席で卒業したようだな。錬金術だけじゃなく、他の成績も軒並みいいと。なぜそんなに頑張っていたのだ?」
「母の教えです。私が錬金術を好きになった時に、母に『錬金術以外のことも頑張りなさい。それらが錬金術に役に立つから』と言われたのです」
「母……というと、パメラ子爵夫人のことではないだろう?」
「はい、私の実母です」
すでに亡くなっていることはカリスト様も知っているようで、彼は一つ頷いた。
「そうか……それを忘れずに実行に移せるのが、アマンダの尊敬すべきところだな」
「ふふっ、ありがとうございます。母の教えには感謝しています。学院生の頃に社交界やダンスのことを学んでいなかったら、こうしてカリスト様とご一緒出来なかったので」
私は笑みを浮かべて、カリスト様と視線を合わせる。
「っ……アマンダ、まさか……」
カリスト様は驚いたように目を見開いてから、なぜか目を逸らした。
「アマンダ、君は素敵な女性で好感を覚えているが、まだ俺は――」
「こうしてカリスト様とご一緒出来なかったら、報酬として貴重な素材をいただけませんから」
「……えっ?」
「あ、すみません、話を遮ってしまいましたか?」
どんな貴重な素材をもらえるのか、と思って喋ってしまったから、カリスト様と会話が重なってしまった。
なぜか気まずそうな顔をしていたカリスト様だけど、今は目を丸くして呆けている。
「……あ、ああ、いや、なんでもない」
「そうですか? 何か言いたいことがあったのでは?」
「その、俺の勘違いだ。これは酷い勘違いだ、ああ、本当に恥ずかしい勘違いだ……」
カリスト様はそう言って頬を少し赤くして、頭に手を当ててため息をついた。
「はぁ、俺は自意識過剰だったようだな」
「その、何か私が失礼なことを言ったでしょうか?」
「いや、全くそれはない。大丈夫だ」
なぜか少し落ち込んでいる様子のカリスト様。
はっ、もしかして私が報酬目当てで浅ましい女だ、と思われたのかしら?
だけどその場合、私を見下すだけでカリスト様が落ち込む必要はないわね。
よくわからないわ……。
その後、カリスト様が「飲み物を取ってくる、ここで待っててくれ」と言ってバルコニーを離れた。
侯爵のカリスト様に取って来てもらうわけにはいかないと思ったのだが、彼は私と離れて頭を冷やしたいようなので、お言葉に甘えることにした。
一人になって、一目がないので椅子に深く腰を掛けて一息つく。
今まで経験してこなかった疲れね、錬金術を一晩中やっている時よりも疲れた。
だけどカリスト様に誘われないと出来ない貴重な経験だから、来てよかったと思う。
そんなことを考えながらしばらく待っていると、バルコニーに人が来た。
カリスト様が来たのかと思って椅子から立ち上がりながら振り返ると、違う人が立っていて、私は目を見開いた。
「っ、サーラ……」
「アマンダお姉様……」
ナルバレテ男爵家のサーラ、私の妹だった。
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