第40話 アーサーは逃さない
その後。
グランドリー・フォンテーヌは王家に対する反逆罪を問われ、処断された。フォンテーヌ家の領地及び財産は差し押さえられ、力を持った家は一気に没落した。
リズリー・フォンテーヌもその余波を受ける事となったが、これまでの行動を調査された上でリズリーの関与は無いとされ、グランドリーに連なる処断をされる事は免れた。
フォンテーヌ家の後ろ盾が無くなり、人脈や仕事の多くを失う事になった。だが彼女自身の挙げたこれまでの成果を評価する声、嘆願の声も多く上がった。受け入れられ、王宮住まいは許される事となった。
「――ミーシャ・アルストロイアはずるいと思います」
事件の後始末が済み、人々が落ち着きを取り戻したある日のこと。
リズリーは王宮の隅でハイネに耳打ちした。
ハイネは首を傾げて考える。
リズリーはミーシャが王宮に住み続ける事になったのを言っているのだろうか。
ハイネにとって、アーサーがミーシャを王宮に留めようとするのは不思議な事ではない。何せミーシャには対災魔法が備わっているのだから。
アーサーがミーシャを猫の代わりにすると言い出した時は彼が正気かどうかを疑ったが、災厄のカウンターとなる力を持っているなら話は別だ。当初王宮に連れてきた時はそのような狙いは無かったが、ミーシャがアーサーと共に災厄を払っていけるのならば、国を挙げてミーシャを歓迎しようと考えている。ミーシャは罪に問われているが、長い時間をかけて功績を挙げられればいつか贖罪も終わり、もとの生活を取り戻す事が出来るだろう。
だが、アーサーの考えは自分とは違っているようだった。
――ミーシャが対災魔法を持っている事は今は公言しないで欲しい。
――今はまだ、公には自分ひとりで今回の災厄を払ったという風に言ってある。他に知っているのはハイネのみのようだ。だから、ハイネもそれに合わせて欲しい。
ハイネはアーサーの言葉を守っている。だからリズリーの疑問に対しても、それらの事情は話さないままに返した。
「はて。何をもってずるいと申すのか。あれはもはや普通の生活は出来なくなったと言って当然ですぞ。払いきれないだけの金額の負債を抱えて、王宮の外に戻る事は許されなくなって……」
「そこですわよ。……アーサー様が最初にミーシャ様をここに招いた時、期間限定で王宮を去ってもいいという契約だったのですよね?ですけど、払いきれない額の賠償金のために王宮にいさせるというのは……、つまり一生一緒にいろと命じるのも同義では無いですか……」
リズリーは歯噛みして呟いた。
アーサーとリズリーは幼い頃からの知己だ。だが、彼はいつだって王子として相応しい振る舞いをして、同時にどこか一線を引いたようで、決して自分をテリトリーの中に入れようとはしなかった。
ミーシャ・アルストロイアはその線をするりと越えて、アーサーの懐に入ってしまった。――いや、アーサーを懐に入れてしまった、と言うべきか?
自分の父親、グランドリーは悪事を暴かれて処断された。今は遠くで罪を償っている。グランドリーは自身にとっては尊敬すべき父親だが、罰は受け入れなければいけないと理解している。
そして、自分自身が連名で処断される事なくこうして日々を過ごせているのは、きっとミーシャの影響もあるのだ。
得体の知れない平民であり、かつ王宮で暴れまわった彼女。
そんな彼女を王宮に置くと断言したアーサー。
どちらかといえばリズリーよりもミーシャの存在の方が物議を醸しているのだ。その事もあって、貴族たちの目は自分からは少々外れたところにあった。
かつてはミーシャの事を、王宮には相応しくないと断じたけれど……。
ある種、それは正しかったけれど……。
でも、そのおかげで自分は救われた。
父親グランドリーもこれ以上罪を重ねる事なく、アーサーも辛い立場から解放された。
ミーシャ自身は何も意識していないのだろうが、リズリーはミーシャに様々な恩恵を受けているのだ。
そして――リズリーは借りっぱなしでいるのは気が済まない質であった。
「……ねえ、ハイネ様。今回の一件で一部王宮の改修をしなければいけなくなりましたよね?」
「ああ、そうですな。滅茶苦茶にされた国宝たちを集めて、直せるものは直して、修復不可能なものは別のものと取り替えて……。全く、ミーシャ様は厄介な事をしたものですな……」
「それなら……、わたくしに案があるんですの」
「……?」
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