少年と青年。

「ヒトシ!また女を連れこんだのか?まったく、結婚前だぞ?」

「結婚?俺はそんなものする気はないよ。俺は十八歳で死ぬから」


 ベットでけだるそうにしている少年は薄茶色の柔らかそうな髪をかきあげる。

 少年はまだ成長過程なのか顔に子供らしさが目立つが、可愛らしい顔だった。そして対する青年は黒縁メガネにさらさらとした黒髪で、落ち着いた感じの美青年だった。


「まったく。死ぬ前に病気になっても知らんぞ」


 青年は眉をひそめると少年に白いシャツを投げつけた。


「大丈夫だって。そんなの事前にわかるから」


 ヒトシと呼ばれた少年は放り投げられた白いシャツを羽織りながら笑った。


「……そんなことまでわかるのか?」

「ああ、キスすればわかる。今度、ヨウスケの相手も調べてやるよ」

「……遠慮しておく」


 ヨウスケと呼ばれた青年は幼馴染の言葉に大きな溜息をつく。

 ヨウスケ――北守ヨウスケは花村ヒトシの幼馴染であり、彼の学校の先生でもあった。


 通称花の島と呼ばれるこの島でヨウスケとヒトシは暮らしていた。

 人口は少ないが小学校から高校まで備えている島で、なぜか年がら年じゅう花が咲き乱れ、島の人はその花々を本土に出荷して生計を立てていた。また島には花を見物に来る観光客もいて、島は小さいながら繁栄していた。


「マサシさん、おはようございます!」


 二階から階段を勢いよく降りながら、ヨウスケは食卓のヒトシの父マサシに挨拶した。


「ああ、ヨウスケくん。おはよう。朝食食べて行くかい?」

「あ、いいんですか?」


 マサシの言葉にヨウスケは笑顔を向けた。ヒトシの父マサシは三十五歳の若い父親でハンサムなのに再婚しようとせず、ヒトシと二人で暮らしていた。


「うまい。やっぱりマサシさんのご飯はうまいですね。俺の母さんより料理うまい」

「そう?マコさんの料理おいしかったけどなあ」


 マサシはヨウスケのためにご飯を茶碗に盛り彼に差し出す。

 ヒトシの父のマサシは赤子の時に両親を亡くし、マコの実家の東守家に預けられた。マコのことは姉のように慕っている。


「ヨウスケ、そう言うと父さんがつけ上がるぞ。毎日食わされるから」


 ヒトシはそう言いながら食卓に並ぶ卵焼きを箸で掴み、おいしそうに口にいれた。


「俺は毎日でもいいけどな。げ、こんな時間だ!学校行くぞ」


 腕時計を見たヨウスケが顔色変えて席を立った。


「え?俺まだ食べ終わってない」

「自業自得だ。すみません、マサシさん。ヒトシを連れていきます!」


 卵焼きをもぐもぐさせているヒトシの腕を掴むとヨウスケは慌てて家を出て行った。


 マコが嫁いだ先の北守家と花村家は隣同士だった。親同志が仲のいいこともあり、二人は少し年の離れた兄弟のように育ってきた。


「今日、いよいよ来るんだっけ?」


 車の助手席で背伸びをしながらヒトシは聞いた。


「ああ、今日からだ。期待はしないほうがいいぞ。お前好みじゃないと思う」

「期待なんかしてないよ。俺は元から結婚する気ないから」


 ヒトシはヨウスケの言葉にそう答えながら窓の外に向けた。こころなしか沈んでいるように見えた。


「俺はお前に生き続けてほしいけどな」


 ヨウスケはヒトシの頭をくしゃくしゃにするとハンドルを切った。



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