第四語 クラスメイトにも五分の魂

虎井狐次郎の襲撃により、生徒共々やられてしまったこのクラス。

錬馬は職員室から先生を呼び、生徒全員の応急手当が始まった。

とはいっても皆一撃でやられており、傷はそこまで深くなかったため、二時間目からは普通に授業を始めることができた。


ここの学園では、普通の授業に加えて国語と体育が特別授業になっている。

そしてクラスが多い都合上、技能教科は仮想空間で行われ、特別教室に行けるのはまれであった。

国語の授業はことわざの知識を深める授業が主……なのだが錬馬れんまには簡単すぎて少し退屈たいくつに感じてしまった。


体育では、クラスメイトとの模擬戦が教室で行われた。

腕輪プロヴァーバングルを使えば体育館に行かずとも体を動かせるからである。


腕輪の模擬戦モードは、普段戦いに制限がつく黒星でもどの相手とも戦えるモードであり、勝敗で星の変動が起きないシステムであった。

安全面もある程度考慮されているらしく、普通に戦うより早めに決着判定が付くのがこのシステムであった。


そして体育、模擬戦の授業が始まった。

錬馬は、適当なクラスメイトに声をかけ、申し込む。


「お前は転入生か。俺の名前は熱田ねった鉄雄てつお。お互い、熱いバトルにしようぜ!」


腕輪は虎井にやられていたため黒くなっている。

錬馬は、その虎井を倒した自分なら簡単に勝てると、高をくくった。


「和をもってとうとしと為す。転入したばかりの俺に丁寧に話してくれるのはありがたい。早速戦おうぉっ」


錬馬が話しかけている間にも、熱田は既に近づいており、拳が身体をかすらせてきた。


「もう勝負は始まっている、油断は厳禁さ。としても、不意打ちが一番決まりやすいからな」


熱田の腕輪が光り、拳が燃え上がっていく。

そして、次に錬馬に繰り出したパンチは、さっきよりも速くなっていた。


「あっぶな」


錬馬は、虎井と戦った時に鍛えられた動体視力で、攻撃を何とか避ける。


「俺のパンチをこんな早い段階で見切るとは、ということは第一ブーストで終わりかー。ま、このままあの虎を倒した実力を見せてもらおうか!」


(そうだ、ここにいる生徒は全員、こと技を持っているんだ。大敵と見て恐れず小敵と見て侮らず。俺も本気で彼のこと技を見極めなければ)


熱田の攻撃を避けていく錬馬は、戦っている間に一つのことに気付いた。

最初こそ加速が速かったものの、それ以降はそれほど強くなっていないことに。


(攻撃を当てると強くなること技……いや? 攻撃を当てると強くなること技だ。そして拳の炎――熱くなっているということか!)


「『鉄は熱いうちに打て』!」


錬馬の腕輪が光り、熱田にこと技名が表示される。

錬馬はそのまま、拳を握っている熱田にカウンターをいれる。

この学園に来て初の模擬戦は無事、勝利を収めることが出来た。


「一年の計は元旦にあり。俺はここから始めていく」


勝ちの余韻に浸っていたのも束の間、すぐ次の生徒と戦う時間になった。

二戦目は羅切らぎり ゆう

錬馬に担任を呼ぶように言ってきた、眼鏡をかけた人物であり、彼の腕輪はなぜか白のままであった。


「正々堂々と戦わせてもらおう」


「やぶから棒に聞きたいことがあるんだがお前、何で腕輪が白いままなんだ? あの場にいたはずだよな?」


遺憾いかん千万せんばんではあるが、僕は気絶していて、今朝のことをよく覚えていないんだ。それよりも今は模擬戦に一意専心しよう。さあ、かかってくるがいい」


「先んずれば人を制す、俺が先手をとる!」


錬馬は、羅切に向かって殴りかかる。

それを彼は綺麗に受け流していく。


「どうした? 猪突ちょとつ猛進もうしんでは僕に勝てないぞ」


「だけどこれで、こと技の候補はできた。当たって砕けろ! 『柔よく剛を制す』!」


『こと技が違います。百闘 錬馬のこと技を一分間ロックします』


「待ってくれ、なんだよその仕様。ちくしょう、うんともすんとも言わなくなった」


「朝令暮改でも見たような反応だな。まだ自分のこと技を理解していないのか? ならば次は僕が行かせてもらう」


羅切は、錬馬の腕を軽く掴むと、錬馬を投げ飛ばした。


「君は錬馬さんと言ったっけか。覚えておくがいい錬馬さん、この学園において、常勝無敗は存在しないことを」


錬馬は負けてしまった。

模擬戦とはいえ、こと技バトルを始めて、初めて敗北を味わったのであった。


それからも模擬戦は続いたが、錬馬は全勝するに至れなかった。


「七転び八起きだ、ここから頑張っていこう」


錬馬は更に力と知識をつけることを強く決めた。

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