第三語 前門の鬼、後門の虎

「私の名前は鬼持おにもちかな。この学園の生徒会長だ」


 両手で佇むように、金棒を持った女子高生はそう告げる。

 顔の横には鬼のお面をつけており、長い黒髪をたなびかせ、顔立ちも美しかった。


「やっと見つけた。私が探し続けたあのこと技使い」


 錬馬れんまは、まだ状況が掴めてなかった。

 彼女自身が噂の生徒会長だと、自ら話したのだ。


「ああ、観戦モードで君の戦いは見せてもらったよ。素晴らしい戦いぶりだった。故に私は確信したんだ」


 彼女は金色の腕輪プロヴァーバングルを操作し、ホログラムを錬馬に見せるように『1VS1 観戦モード』を開き、広げる。


「私はずっと探していたんだ。相手のこと技を暴き、その動きを止めてしまう、そんな能力を持つこと技使いを。さぁ私の下に来てくれ」


 彼女の付けていた金色の腕輪が光った。


「何勝手に進めてんだてめぇ」


 後ろにいた女子高生が口を開く。


 金髪で、今にもキレてきそうな雰囲気。

 服の着こなしも崩れていて、誰が見てもすぐに不良であると分かる風貌ふうぼう

 そして翼が生え、虎井を思い出すかのような虎の腕が目立っていた。


「見た感じの能力は似ているけどこの威圧感、さっき戦った虎井なんてこの人と比べると月とすっぽんだ……」


「鬼持、そろそろあたしと戦ってもらおうか」


「だから何度も言っているだろう、私につきまとうなと」


「俺が蚊帳の外になっているんですが、まず名前を教えてくれませんか?」


「あたしは虎増とらましつばさ!! 部下の虎井がやられたからここに来たんだ。あいつ好き勝手やりやがって」


「虎増翼、君も観戦モードで彼の活躍を見たんだろう。あれこそ最強のこと技だ」


「鬼持てめー何いってんだ? あたしは観戦モードなんか使ってねーよ」


「虎増さん、さっきの虎井って生徒とはどんな関係なんですか?」


 もし錬馬の前方にいる人物が、本当に『鬼に金棒』ということ技の生徒会長ならば、後ろにいる翼の生えた喧嘩腰の人物も、例の『虎に翼』のこと技の不良である可能性が高いと、錬馬は判断した。


「虎井か? あいつはあたしが利用させてもらってるってだけの存在だ。それに、あいつとは契約を結んでんだ、やられたかは見なくともわかる。ほらな」


 そう言うと彼女は、さっき鬼持がやってみせたように、金色の腕輪のホログラムを広げた。

 それには『虎井とらい 狐次郎こじろう 敗北』の文字がかかれてあった。


「鬼持!! お前がこいつと契約するなら側にいることが多くなるはずだ。ならあたしも契約してお前に近づいてやる」


 虎の威圧感に、増して翼が生えている女子高生、虎増の金色の腕輪が光った。


「虎増翼、お前はいつまで私につきまとうんだ」


「あたしがお前に勝つまで」


(どうやら、二人は犬猿の仲のようだ……)


 錬馬が戸惑とまどうまま二人の話が続いていく。

 なにか行動を起こさなければずっと二人のペースであろう。


 幸い、錬馬自身、こと技の発動条件についてある程度の仮説ができていた。

 それは、相手のこと技を言うこと。

 そしてこの二人のこと技名は既に知っている。


 それならば、自分がこと技を発動させることが出来たのならば、相手が例えどれだけ格上であっても、なにかしらの状況は変わるだろうと、錬馬は二人のこと技を口にする。


「ええい当たって砕けろ!! 『鬼に金棒』と『虎に翼』!」


 ……何も起きなかった。


「君が私に反抗的だった場合、すぐにでも攻撃をしてくるだろう。そうでなくても転校してすぐこんな話、いきなり言われて混乱しないほうがおかしい。だから私は早めに契約を結んでおいた」


 契約には、こと技を相手に使えなくなる効果があるのだろうか。

 錬馬にはもう、なすすべがなくなってしまった。


「君はまだ混乱していることだろう。だから、後で私が来た理由と君がやるべきことを教えてあげよう。放課後生徒会室に来るように。まあ、もし拒否したとしても、君は絶対に来ることになるけれど」


「待ちやがれ鬼持!!今日こそお前を倒してやる」


 鬼持かなは場を離れ、虎増翼はそれを追いかけていった。

 錬馬はクラスメイトから担任を呼ぶよう言われていたのを思い出し、職員室に向かった。

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