第二語 最強の正体見たりこと技戦

 扱いにくそうな虎の手で拍手をしながら男は続ける。

 見た目からして同級生くらいだろうか。


「俺は虎井とらい。こと技は見てわかる通り『虎に翼』だ。転入生であるてめーを早めに潰しに来た」


 最初の拍手はパフォーマンスだったのということが、言葉のいかつさから見て取れる。


「てめーを黒星にしちまえば当分は戻ってこれねぇからな!! おっと、助けを呼ぶのは無しだぜ。ちゃんとプロヴァーバングルで一対一サシで戦ってやるからなぁ!!」


 虎井は、そう言うと腕輪を突き出した。

 すると、錬馬れんまの腕輪に『1VS1、承認しますか?』と表示された。


 これは、逃げるのが正解だろうと錬馬の頭の中では分かっていた。

 しかし、気付くと錬馬の指は『はい』を押していた。


 これは、錬馬にとって初めてのこと技バトル。

『虎に翼』とは戦うなと、情子に忠告されていたにもかかわらず、内心ワクワクしていたのだ。


 いきなり錬馬の視界が移り変わる。

 錬馬の足元は瓦礫がれきでおぼつかなくなっていた。


「お、廃墟ステージか、やりぃ」


 虎井は楽しそうにつぶやく。

 そして、腕輪がカウントダウンを刻み、戦闘が始まった。


「先手必勝だぜ!!」


 虎井が高く飛び、虎になった爪を錬馬に向けてくる。

 その攻撃を、錬馬は恐れながらも、寸前でうまくかわすことができた。


「ちっかわしたか。だが上に飛んでおけば反撃は食らわないぜ!!」


 虎井は、持ち前の翼で、上に高く飛んでいってしまった。


(どうにか反撃しなければ)


 反撃の手段を模索もさくした練馬は、とりあえず近くにあった瓦礫を投げてみた。


「当たるかよそんなん」


 虎井は、そんな大きな態度にして小さめの体をひょいと動かし、簡単に避けてしまった。

 虎井の二度目の滑空、そして攻撃。


 錬馬は走った。

 この攻撃に当たったらすぐに負けてしまうだろう。

 しかし、錬馬の走る速度より、虎井の滑空の方が遥かに速い。


「くっ万事休すか」


 その時、錬馬は足元の瓦礫につまづき転び、虎井の攻撃は錬馬の頭上をかすらせていった。


(俺は今、棚からぼた餅を貰えたようだ。だけど今の状況、俺は転んでしまって立ち直るのに時間がかかり、相手はまた攻めてくる。まな板の鯉か……初陣ういじんにしてはよくやったほうだよな……あれ?俺初陣だよな?)


 虎井の攻撃を受け続け、錬馬は何か違和感を感じ取っていた。


「お前、虎井って言ったか?お前のクラスはどこだ?」


「あ?『2-と』の虎井だ!」


 ――錬馬は考えていた。

 いくら『虎に翼』が知れ渡ってるとはいえ、すぐに自分のこと技の名前を口にするのは不自然ではないかと。


 錬馬は考えていた。

 運が良かったとはいえ、そんな大金星の不良グループのボスの攻撃を、自分がかわせるのだろうかと。


 錬馬は考えていた。

 確か有名な大金星、『鬼』と『虎』どちらもではなかったかと。


「点と点が繋がった……!」


 そして、ある一つの仮説を思いついた。


「お前もしかして、こと技名『虎に翼』は真っ赤な嘘でほんとは『虎の威を借る狐』とかじゃねーのか?」


「けっ、そんな苦し紛れの言葉しか吐けねぇのかよ」


 その瞬間、錬馬の腕輪が光り、余裕そうな虎井の腕輪にでかでかと、『虎の威を借る狐』という文字が映し出された。


「それがてめぇのこと技か。それがどうした!!俺様のこと技がわかったところで、仕留めちまえば終わりだ!!」


 虎井が突っ込んでくる。

 錬馬は、それに合わせるように、さっき当たらなかった瓦礫を、また苦し紛れに投げてみた。


「何度やっても同じだぜ!!」


 虎井が、前に瓦礫を避けた時と同じように避ける。

 しかし、瓦礫がまるで虎井の方に吸い付くかのように曲がっていき、なんと、あの虎井を墜落させた。


「マグレだろこんなん!!」


 また近づいてくる虎井。

 今度は周りの瓦礫を手当たり次第全て投げてみることにした。

 なんとビックリ全弾命中。


「グハッ……」


 虎井は倒れ、仮想空間が終了し、二人は教室に帰ってきた。

 錬馬の腕輪には『銀星獲得』の文字が刻まれ、虎井の腕輪は黒くなっていった。


 錬馬は情子の言葉を思い出す。

 銀星というのは大金星に次ぐ序列であると。


 虎井は銀星であった。

 大金星とまではいかなくても虎井は相当な実力者だったのだろう。

 錬馬は、黒くなっていった虎井の腕輪を見ながら思う。

 今度からは相手の腕輪の色も確認しなければいけない、と。


 錬馬は次に自分のこと技を考えていく。


(一事が万事だが、もしかして俺のこと技は、相手のこと技を言い当てると必ず相手に勝てる、みたいなこと技なのか?)


 錬馬は、落ち着いたところで辺りを見渡す。


「いきなり転入生に対して申し訳ないが、担任を呼んできてはくれないか? パーティーは台無しになってしまったけど、生徒だけで企画してたから担任に何も話してないんだ。腕輪の地図を見ながら職員室に行き、『1-ての担任』って呼べば来てくれるはずだ」


 突然、倒れてるクラスメイトの一人が錬馬に向かってそう呟いた。


 そして、それを聞いた錬馬は、ドアを開けて職員室へと向かった。

 そんなドアを抜けた先の廊下には、金棒を持った女子高生と、翼の生えたいかにもな不良の女子高生が向かい合わせで立っていた。

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