プロヴァーバングラー 〜能力『???』のこと技使いの成り上がり〜

火炎焔

第一章 下位より始めよ

第一語 虎穴に入らずんば居場所を得ず

 今日は、記念すべき日になるはずだった。

 無惨に壊された歓迎の飾りと、地に伏せられたクラスメイト達を見るまでは。


◇◇◇


慣用かんよう学園入学・転入のすゝめ

入学特典、君だけのこと技能力で勝利を掴め! 本校オリジナル、自分のことわざ知識で勝負だ、こと技バトル! 成績上位者には老後まで暮らしをサポート! 全寮制、ホテルを思わせるかのような部屋達! 幅広い種類から選べる学食! 勉学を応援、放課後もマンツーマンの講師達! 手続きはこちらから』


「よし、善は急げだ」


 高校一年の夏、チラシで慣用学園の存在を知った百闘ひゃくとう錬馬れんまは、そこへの転入手続きをしていた。

 錬馬はことわざの知識には自信があった。


 国語はいつも満点を取っており、ことわざ辞典はすみからすみまで暗記していた。

 通っていた学校では『歩くことわざ辞典』と呼ばれていた程である。


 もし、ことわざで全てが決まるなどという学校があったら、自分が天下を取るだろうと高をくくっており、すぐさま転入試験会場まで足を運び、試験を開始した。


 試験では、ことわざの問題が多く出題されていたが、錬馬はそれを満点合格。

 無事、慣用学園へと転入することとなった。


 後日、手続きを終え、門をくぐろうとしたところ、腕時計のような腕輪をつけられた。

 綺麗な白色であり、プロヴァーバングルという名であった。


 プロヴァーバングルという名前は、こと技を意味する英単語proverb(プロヴァーブ)と、手首に付ける腕輪を意味するバングルを合わせたところから来ているらしい。


 錬馬は、この腕輪について、カリキュラム一覧を読んで知っていたので、色々試してみることにした。

 腕輪を触るとその上にホログラムが表示された。

 ホログラムを触って動かす形式のようだ。


 時計機能、ノート兼メモ帳機能、獲得した星の数――これは倒した敵の数だろう。

 目的地誘導付きマップ機能、対戦形式選びと対戦機能、そして一番大切な自分のこと技の説明……なのだがそこには『???』とだけ書かれてあった。


「どういうことだ?」


 謎なことはあるが、錬馬の学園生活の幕が開いた。


 早速、40以上ある一年クラスの中で、腕輪に示された『1-て』に向かっていると、とある少女が向かってきた。


「君、転入生だよね。転入試験はどうだったの?」


「満点で通過できたな。この学園もこの調子なら、向かうところ敵なしだ」


「あの試験に点数はあまり関係ないよ……」


 小声で彼女が呟いた。


「この学園は君が思っている以上に危険だよ。これから生活していくんだったら、ここの最低限のルールと危険人物は知っておいたほうが良いよ」


「カリキュラム一覧は一通り読んだしこの腕輪のこともある程度分かった。こと技バトルってのがあるんだろ?ただ俺の腕輪、こと技の項目が読めないんだ」


 錬馬は腕輪の機能を使って『???』とだけ書かれてあること技の項目をホログラムに映した。


「人にこと技を見せるのは危険だよ。それは相手に情報を渡す行為になるからね。だけどそんなこと技の情報が、周りに知れ渡ってる危険人物が二人いるんだよ。『鬼』と『虎』の大金星。と、その前に星の河原システムって知ってる?」


「そんなのカリキュラムに書いてなかったな。もしかして見落としたのか? 熟読じゅくどくはしたが灯台下暗しってこともあるし。しっかし天の川みたいで綺麗だな」


「実情は特待制度で釣った新入生や転入生を騙す汚い制度だよ。この腕輪は色で分けられていて、強さ順に大金星だいきんぼし銀星ぎんぼし、白星、黒星の序列にわけられているよ。これが厄介で、待遇の差が酷いんだ。

チラシに書いてある待遇はほとんど銀星以上のもので、学食が使えるのは銀星から、それより下は配給制。白星が銀星に上がるには、相手を倒して白星30個か銀星10個の勝ち星を獲得しなければいけないんだ。

そして、一度でも負けると銀星だろうが即黒星。黒星は黒星同士としか戦えなくなって白星に戻るには今度は50個の黒星を勝ち取らなきゃいけない。そこで一度でも負けたら、どれだけ黒星稼いでてもまた50個取るとこからやり直し。そこから、さいの河原を文字って星の河原システム。

で、最上位の大金星。十人しかいないんだけどそのうちの二人が『鬼』と『虎』。両方三年生で、一人は大金星一位の生徒会長で『鬼に金棒』のこと技を使って、数多くの生徒を粛清しゅくせいして回っている。もう一人は大金星二位の不良グループのボスで『虎に翼』の能力で暴れまわってるんだ」


「肝にめいじておく。西も東もわからない俺に至れり尽くせりで色々とありがとう。そういえば君の名前は?」


情子じょうこ。君の近くのクラスで、みんなからは情報屋情子って呼ばれてるよ。それと転入生が来るって校内で騒ぎになってて君のクラスでは歓迎パーティーが準備されているらしいね」


 それを聞いた錬馬は嬉しくなった。


「しっかし、渡りに船だ」


 錬馬は、情子に別れを言った後、ワクワクしながら教室へと向かった。

 しかしそこには、無惨に壊された飾りと、地に伏せたクラスメイト。

 そして、虎の腕が目立つ、豪華な翼を広げた一人の男が立っていた。


「入学おめでとう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る