第8話・着の身着のまま




「ピェッ!!」


「はいはい、急かすな。ホラ、魚取ってきたぞ。」



魚を食べやすい大きさの切り身にし、モコモコの前に差し出す。

勢いよく食べ始め、ものの数秒で完食。満足気に喉を鳴らす『ソイツ』は、この前俺が保護した魔物だ。


魔物、と言えば物騒なイメージがあるが、コイツは違う。

例えるなら小鳥のように鳴く綿あめ、である。⋯あぁ〜可愛い⋯⋯



⋯って、そうじゃない。

正直、愛着は湧いている。かなり。俺はコイツを可愛がり、コイツは俺を親だと勘違いしている。⋯このままでは、完全に離れられなくなる。

出来るだけ早く親を見つけてやらねば。



「ピィ〜〜⋯」


「ん?なんだ?食べ足りないか?」



こちら⋯⋯いや目の位置が分からないので正確には分からないが、多分見上げているだろう。何かモノ欲しげにこちらを見て鳴く。


どうやら食べ物では無いらしい。

目の前に切り身を置いてももう食べようとしない。⋯フム、困ったな。



俺が悩んでいると、モコモコは俺の懐に潜り込んでモゾモゾしだした。

柔らかい羽毛が腹をくすぐって俺は今すぐにでも飛び上がりたいが、驚かせてはいけないし、何かの拍子に傷付けてはいけない。


それに、一々俺の元へ来たのは理由があるのだろう。




暫くの間くすぐったさに耐えながら観察していると、急にピタリと動きが止まった。何事かと覗き込むと⋯⋯



「zzz⋯⋯zzz⋯⋯」



わお。寝てる。

なんで?わざわざ俺の所で?


⋯アレか?ペンギンの子供みたいな⋯⋯アレか?



「(可愛いな⋯⋯⋯くそぅ。)」



小声で呟く。

食べてしまいたい、という表現があるが正にそれだ。思いっ切り抱き締めたい。まぁ本当にやったら鳥肉のミンチになってしまうので絶対にやらないが。







⋯にしても、なぁ。

いつまで経っても『コイツ』とか『モコモコ』とかは面倒だな⋯。

名前⋯⋯名前か⋯⋯⋯



モコ、ピヨ、オオグイ、白⋯⋯



取り敢えず特徴を頭の中に並べていく。



「白⋯⋯白か、悪くないな⋯」



白⋯⋯雪⋯⋯⋯冬⋯⋯⋯⋯コタツ⋯⋯






「⋯⋯⋯よし、決めた。」



俺の懐でぐっすりのモコモコに寄り添う様に床に寝そべる。

白から連想し、決めた名前。























────コテツ。虎徹だ。


フッ、何故かって?コタツ→コテツって訳さ。響きがカッコイイだろ?





⋯⋯何?無理矢理過ぎる?異論は認めん。これは決定事項だ(威圧)



「さて、俺も寝るかね。⋯ん。」



身体を丸くし、虎徹を包む様な体勢になる。

コイツの身体、暖かいんだよな⋯ぬくぬくって感じで。



大きな欠伸をして、ゆっくりと目を瞑る。



⋯そう言えば、最近、幾らか気持ちが楽になった気がする。

鬱状態だった俺を救ったのはまさかの小鳥か。笑えるな。








⋯⋯この前は⋯色々考え過ぎだったのかな⋯

血、肉、骨⋯⋯断末魔⋯⋯俺は、人間の心を持った魔物。



⋯昔『男の精神が入った女は女子トイレに入るべきか男子トイレに入るべきか』というしょーもない妄想をした事がある。(何方にせよ公然わいせつ罪になるというマジック)


ちょっと違う気もするが、多分似ているシチュエーションだろう。



今の俺は魔物として、本能のまま生きるべきか。それとも、人間として本能に抗って生きていくか。楽なのは⋯⋯まぁ、前者だろうな。



本能に抗う=不眠、断食、禁欲⋯etc⋯

ずっとは続けられない。絶対に。きっと、魔物の中の戦闘本能も同じなんだろう。生存本能とぶつかり合いにならないのか、とは思ったが多分、ならない。


戦いを避ける=生存本能では無い。生存本能=戦い。

戦う事こそ生きる意味で、生きる意味とは戦う事。これが答えだ。




そりゃあ、自身の実力では敵わない様な相手にはお手上げだろうが、『敵』として認識できる相手には『逃げ』という判断は絶対にしないだろうがな。



自分、という生き物が『生きてそこに在る』。

これこそが本能であり、魔物にとって生存である。

戦わない⋯自分として在ろうとしない⋯自己を主張しない様な魔物は、魔物として『死んでいる』のだから。





だからこそ、俺はあの時『生きよう』とした。

そう、実に魔物らしく本能に従い、実に人間らしく生きようと判断した。


これが⋯俺にとっての自分らしさ、かも知れない。









「⋯⋯⋯⋯⋯⋯明日から、また鍛錬を始めるかな。」



確かに自分の手で何かを殺める、という事には抵抗を感じる。無論恐怖も。

でも、そうじゃない。俺が1番恐れているのは本能に抗おうとする自分自身だ。


そうだ。俺は人間の心を持っている。

だから、俺は選択ができる。人として生き、魔物として死ぬか。人として死に、魔物として生きるか。⋯⋯そして、



『人として生き、魔物としても生きるか!!』



魔物と人間。俺はどっちでもあり、その逆でもある。

そんな俺であるからこそ、両方取る、という我儘が通る。







さぁ寝よう。

明日から忙しくなりそうだ。生きる為に、人間でも魔物でも⋯⋯自分として在る為に──⋯






NOW LOADING⋯






























時は経ち────⋯



『4月23日』


今日は此方の世界に転生してから、初めての身体測定を行う。(最初のは無基準だった為、ノーカン)


頭〜首の付け根まで1m、胴体1.3、尻尾1.3⋯⋯

と、こんな感じだ。大体はおおよそだが、転生時よりは一回り大きくなっている。


兎に角、〜は、ー──ー、ー〜〜、─〜─〜



「あぁコラ、邪魔するな。今忙しいんだ。」


「ピャァッ!!」



全く、折角の紙が台無しだぜ。

途中から文字がグチャグチャになってるし⋯訂正はきかなそうだな。



「ピッ??」



ぬぐっ⋯⋯なんだその顔は⋯『何か?』みたいに首傾げやがって⋯

可愛いじゃねーかよ⋯( ´ω`)ノ゛





⋯⋯⋯おっと、違う違う⋯仕切り直しだ。



さて、修行の再開から約3ヶ月強。

身体能力は勿論、俺の身体も一回り程大きくなった。まぁ大体は手帳にメモしたものとして、問題は3ヶ月間の成長幅だ。


俺はかなり急速に成長が進んでいると見ている。

一回り、だ。一回り。


人間の赤ん坊だって3ヶ月で頭一個分程度だろう。

普通に、速い。この調子だと成体になったらとんでもない大きさになるのでは無いのか⋯?



いや、魔物はこの頃が成長期かもしれないな。

シャルフ・ガムナマールは通常個体よりそんな何十倍も大きい、というレベルでは無かったし。





⋯あ、そうそう、あの後の幼女からの手紙で判明したのだが、あの個体はガムナマールの成体、その中でも戦闘経験が豊富な個体であり、実力のある魔物だそうだ。


そして、通常個体より強力な個体は人間が区別しやす様に名前が変化するらしい。


なんでも『全てのシャルフ・ガムナマールが群れの長となる訳では無く、中には成長し実力を付けた後に群れから抜け、1匹で自然界を生きる個体もいる』らしい。


何故そんな行動を取るのかは不明だが、ハッキリしているのは、此奴らは通常のシャルフ・ガムナマールより更に強力な個体になる。と言った事だ。


⋯⋯出来れば出会したくないな。


まぁこういったケースは極端に珍しく、滅多に現れる事は無い。

そして元より知性の高いガムナマール種。前に戦った奴ですら、少なくとも『会話』と『魔法』をおこなっていた。


そして、更にその上の個体。知略もかなり高い。

『話せば分かる』ってやつで此方が何もし無ければ、大丈夫らしい。


ま、ここについてはまた時間がある時に対応策とかを練ろう。

今は基礎知識の再確認でいいな。



基本、群れの中でボスが決まる様で、より強い個体が頂点になる、といった感じだった。まぁこれは現世でも同じだな。



ただ『基本』としたのには幾つか訳がある。

1つは、強ければ雌の個体でも長になる、と言う点だ。そうすれば逆ハーレムってやつだな。雌の長がいる群れは殆どが雄の個体が閉めている。雄は雌より身体能力が高いので、ボスが生きている内はその群れは強い。⋯⋯ただ、欠点として生殖能力が低い、というのと、第一『性交渉』という行動中は睡眠に続き、生物が油断しやすい瞬間。隙あらば底を突く、それが自然界の掟の一つだ。⋯⋯⋯⋯つまり、言いたいことは⋯⋯分かるよな?



んで、2つ目。ガムナマール、というか魔物というのは日本の戦国部将の様な習性を持っている。それぞれのシャルフ・ガムナマールに群れ(国)があり、2つの群れが出会した場合、ボス同士が『決闘』を行い、勝った方のボスに負けた方の群れに合流して、より大きな群れになっていく⋯⋯といった流れだ。









⋯⋯よし、しっかり覚えているな。じゃあここで閑話休題。

取り敢えず、色々な面で成長した。身体は一回り程度。で、身体能力の上昇について。



そうだな⋯⋯1番、出来て自分で感動したのは『水面走り』だ。

これは凄い。脚力の上昇は勿論の事、身体の筋肉を動かす速度自体が速くなっている。今の所な30秒が限界でそれ以上は徐々沈んでいく感じだ。


まぁ小刻みに脚を動かすので1歩で進めるのは0.5mだとして(通常は1m強)

1秒間に10歩ぐらい。それだと⋯⋯


0.5(m)×1(秒)=5m、1秒で5m進む。


で、30(秒)×5(m)=150mの走行が可能⋯⋯⋯って事であってるか?



ま、まぁ⋯大体はどうでもいいとして、

兎に角『水面を走る』といった、生物として馬鹿げた行動が可能になった。地球上にも出来ないことは無い生物はいるが⋯それは体重とか色々あるし、身体に掛かる重力<脚を動かす速度+軽さ、的なのがあるんだろう。

(詳しい事は分かりません。自分で調べましょう。By筆者)



だが、俺の場合は違う。

身体に掛かる重力<脚を動かす速さ、だけ。

水面に放っておけば俺の身体はズブズブ沈む。分かるか?どれくらい水面を走る、という行動が凄い事か。



それだけじゃない。

本来、脚力はメインじゃない。



じゃあ何かって?

グフフ⋯⋯『攻撃力』だ、こうげきりょく。



先ずは打撃、初期段階で獲物の頭に命中すれば雑魚で頭蓋粉砕。ある程度の奴でも強烈な脳震盪を引き起こす代物だったのだが⋯⋯毎日巖殴りの修行をしていた成果か、太さ1m程の木を粉砕出来るようになり、地面にはクレーターを創り上げ、無空間に殴れば『ヴォッ』という音と共に拳の周りに一瞬で圧縮された空気が白くなって見える様になった。



尻尾での打撃は更に凄い。

身体を捻って思いっ切り振ると、突風が発生して岩だったら太刀筋(尻尾筋?)に沿って岩が削れ、跡になる。『岩が風で削れる』。意味がわからないだろ?だが、できた。木の場合だったら薙ぎ倒すくらいだ。



これは十分、遠距離武器として使える。

が、本来は打撃技だ。直撃すれば強力。拳の場合は腕の振りと脚の踏み込みだけだか、尻尾は全身を使う。



片手を軸にし、両脚(回転方向と逆の脚により力を強く込める)で地面を蹴る→身体を横に捻る。この時、尻尾には力を込めない→直撃の瞬間に尻尾にも力を入れる→直撃後、片手を地面に着き、技の勢いで起こる回転を停止、そして一連の動きが完成。


その他、尻尾でのサマーソルト・ムーンサルトも技として使えるレベルにまで強化した。ついでに頭突きも。






「⋯⋯⋯ィ⋯⋯ピィ⋯⋯⋯⋯⋯⋯ピィィッ!!!!」


「のぁッ!?⋯⋯何だ、驚かせやがって⋯」



⋯⋯この様子⋯ソワソワ加減⋯空腹か。

長考し過ぎたな、これは。悪い悪い⋯



俺が頭を撫でてやるとぴょんぴょんしながら喜びを全身で表した。

鼻血もんですわ、ハイ。



「さて⋯⋯今日の昼飯はどうするか。なぁ虎徹〜?」



朝はムングレーのボイルだったしなぁ⋯。(修行の再開と同時に乱獲も復活したんだお( ^ω^)あと、ボイルって言っても底が深い鍋は用意出来きないから、フライパンで熱湯を作ってしゃぶしゃぶ風だお)







「魚⋯⋯は飽きたよなぁ⋯?」



⋯⋯⋯⋯。





⋯⋯うっし、それじゃあ久し振りに『狩り』に行くか⋯

お前は危険だからウチで留守番頼むぞ〜虎徹〜?



もう一度頭を撫でてから家を出る。

寂しそうに扉の前までくっついて来た虎徹。もう好き。すんごい好き。




⋯ん?狩りってなんだって?(先程から誰を相手にしてるかは分からない)

言っただろ?『色々な面で成長した』って。


知識の事さ、この世界の。



この3ヶ月間で新たな魔物を3種類程、発見した。



1体目は虫型の魔物。

見た目は大きな蜂、色はピンクと緑のシマシマって感じだったな。大きな針を持っていて、致死性の毒がある。ただ、極端に熱に弱く日光に当てれば皮膚の上からでも治療可能。


俺の実力的には雑魚に分類される。


生息場所は洞窟や鬱蒼とした林の中など、暗くて比較的気温が低い場所を好む。(幼女からの手紙から抜粋)



名前は『ギェフト』(正確にはギェーフト、と伸ばすらしい)。





2体目は獣型。正確には猫。

ガムナマールより小さく、素早く動く。青白っぽい毛並みを持っている。現在、此方の世界は夏なので焦げ茶色の毛並みに変化している。


基本的にこの季節は夏眠中。

元々は氷系の魔法を扱う為、冷系魔力が強くなる冬に活発になるが、夏でも使おうと思えば魔法はつかえる。但し弱い。


直接的な攻撃はほぼゼロダメージ。強くない。(同じく抜粋)



名前は『ハーゲル』。





3体目。草食恐竜型の魔物。

そこそこ大きい。色はボヤけた茶色と黒。ザラザラとして堅い皮膚に覆われている。季節に合わせ、植物のある場所を目指して移動する。だが基本は冬以外はここらの地域一帯にいる。


遅く、武器となるものは持ち合わせては無いが、突進や体当たりなど巨体を生かした攻撃は若干痛い。死にはしないが。


あと大きいので一撃での仕留めミスをする事が時々ある。

悶える姿を見ると精神的に辛いので、少し苦手。



名前は『プラルトロス』。





今から狩るのはこのプラルトロス。

ぶっちゃけ、食用としてかみていない。美味しいからね。仕方ないね。





⋯あと蛇足だが、さっきのハーゲルの時の話で冬に冷系魔法が強くなる、っていうのは、手紙に『この世界の中心には大きな魔力の核があって、地域、季節、時によって変化する』とまぁ⋯⋯難しそうな話が綴ってあったが、取り敢えず『そうらしい』としかできない。


詳しい話は⋯⋯⋯あと4か月後には街に行く。そん時にでも聞くさ。




「さぁて⋯行きますか、ね。」



黒刀を携えて。俺は歩き出す。

黒刀はシャルフ・ガムナマールの鉤爪と交換して強度、切れ味を強化してある。ちょっと長くて扱いづらいのがキズだが、それを含めても、前者の2つが素晴らしいものだったのであまり気にしていない。



今日は⋯唐辛塩でガッツリだな。

虎徹も喜ぶだろうな。なんせ大食いだし。ハハッ⋯






奴らの群れは修行場から2km程奥に行った所に留まっている。

ちょっと帰り道が面倒だか⋯美味いご飯の為だ。


ぁ、レッツラゴゥ。






軽いノリとは真逆に、スタートダッシュで軽く地形を破壊した事は無視。


迷惑行為はなんのその。


ご飯に向けて一直線に走り出した銀灰竜であった──⋯






NOW LOADING⋯






「「「⋯⋯⋯⋯⋯。」」」



所変わってヴィルジール宅、大広間。

現在、彼の自宅の中には十数人ほどが上がっている。勿論、全員冒険者だ。


先に言っておくが、ヴィルジールは金持ちである。

家もでかい。


そして何故、そんな大人数がここに集結しているのかというと⋯⋯



「すまない、待たせた。⋯これより、対魔群殲滅戦における作戦会議を開始する。」



静寂を破り、集まっていた冒険者たちに号令をかけたのはそう、この家の主ヴィルジールだ。


以前、彼がギルマスの家に凸って情報を聞き出したのを覚えているのだろうか?


その時聞き出した情報、そしてこの数ヶ月間でまとまった作戦案の発表を今からこの場所で行う。


本来はギルド内の会議室や集会所などで行うのだが、なんせでかいヴィルジールの家。彼自ら名乗り出でここで行うことになった。なんやかんや理由は並べたが、正直彼は家から出たくないだけである。理由はもうご存知だろう。



「まぁ座ってくれ。」



用意してあった人数分後座席にそれぞれ座る。

そして、全員が座り終えたタイミングを見計らってグレイスが魔法で浮かした珈琲が入ったカップを配る。



無論、遠隔からの操作である。

この会議が決まってからの数日間、特定の場所に珈琲を移動させる動作を滅茶苦茶練習した。顔を見合わせなくてもいい様、特定の場所から場所まで移動させることだけを集中して行った。



あくまでグレイスは自らを下僕、として扱っているので客人のもてなしも1つの仕事である。私情を持ち込むことは絶対にしてはならない。



だが、彼女の性格上、1人でさえ厳しい所なのに10人を超える大人数。

彼女なりに考えて行き着いたもてなし方である。



ヴィジールには『来た客を特定の位置に固定して欲しい』という事を頼んで現在の珈琲配りに行き着いた。



一通り珈琲を口にしたら会議開始である。



「⋯さて、今回の大規模な魔物の群れ。『魔王は関係ない』事『雑魚の集まり』という事を頭に入れて聞いて欲しい。」



そう言ってから俺は天井に丸めて吊るしてあった大きな布を引き下ろした。

書いてあるのは、その群れが現在停滞している場所の大まかな地形など。



例えるなら布に1滴、黒いインクを垂らした感じだろうか。

黒の斑点が伸びてゆき、元の地図の所々に大小様々な円を描いた。これはグレイスが操作している魔法である。



「この円が大きさが、群れの中の大体の内訳だ。1番でかい中心の円がワイバーンの上位種、その他はゴブリン、スケルトン⋯⋯まぁ雑魚共だ。」



ふむふむ、といった様に聞いている冒険者達が話を聞く。



「恐らくこの群れは、元々あった別の魔物群れが合流していって完成したものだろう。目的は恐らく王都への進行。」



俺がそう言うと、地図が縮小して左下を指す矢印が出現し『王都』と書かれた場所が滲み出る様に現れた。



──王都⋯?──進行⋯?──どうして⋯?



その場の冒険者達から様々な疑問が上がり始める。



「あぁ、問題はそこだ。基本、魔物は理由もなく国町村を襲撃する事は滅多にない。⋯魔王の号令でも無い限りな。」



では、何故?と、俺に視線が集まる。



「⋯⋯ここに関しては、上の連中から情報を得ている。⋯⋯⋯⋯先に言っておくが、かなり俺たち冒険者にとって不快な内容になる。⋯⋯怒りで俺の家を破壊してくれるなよ。」



一つ息を吸って、呼吸を整える。



全員、彼がどんな発言をするのかという緊張感で無言になった。



⋯⋯⋯本当は⋯⋯俺の口からこんな事ぁ言いたくなかったなぁ⋯



「⋯魔王と無関係、なのにどうして王都へ進行するか──⋯」
























「⋯───王都魔術兵器研究所の」



俺がそこまで言った所で、この場の全冒険者たちが立ち上がりブチ切れた。



「巫山戯るなッ!」「俺達は王国の尻拭いじゃねえッ!」「国王なんぞ辞めさせろッ!」「あんな思いはもう御免だわッ!!」「冒険者の命を何だと思っているッ!」



怒りの声は収まりそうにない。

それも当然だ。あれは⋯⋯そう、3年前の事だった。







王都魔術兵器研究所という文字通り、王都が立てた魔術と科学技術を組み合わせた兵器を考案し作成、実戦に移す研究所があった。



ある時、そこの研究者達が『魔龍』と名付けた強力な対魔王兵器を生み出した。シュミレーションは順調、そしていざ実戦、とした時の事。



突然、魔龍が暴走。

運が良かったのは近くに街なのが無かったことだった。それ以外は最悪。


研究者達は全員死亡、周囲の警備をしていた冒険者は立ち向かったが歯が立たず、40人近くいた冒険者の半数以上が死亡。


ここで生き残ったのが『ゼクス』と呼ばれるギルドランカー達である。

元々、警備はこのゼクス達に任されていた。ゼクスは10あるギルドランクの6番目の実力者の集まりだ。



当時の冒険者達はは全て撤退。



魔龍は万が一の為に仕込まれてあった自爆装置によって消え去った。


⋯⋯⋯筈だった。







だが、魔龍は生きていた。

魔物達の『力』として。



自爆した魔龍は、爆発と同時に自らの活動エネルギーの源であった魔力石を霧散させ、辺り一帯にぶちまけた。


それを吸った魔物は強力、凶暴化した。

そして、不思議だったのが魔龍の力を吸収した魔物は王都へと進行を開始した事だった。


諸説あるが、魔龍のエネルギー源だった力が魔物へと移行した事により、魔龍の『記憶』が魔物に伝達され、王都の場所、警備、人間の数、様々な情報を魔物が知り、進行したと言われている。



この時に対応にあったのが奇しくもゼクスのメンバーだった。



彼らと魔物との戦いはここ数十年で最も熾烈なものとなった。

死者は100人近く、魔龍の暴走よって死亡した人数を含めると120人近くにもなった。



結局、数ヶ月に渡る地獄のような戦いは『ゼクス』の2つ上の階級『フィーア』達の参戦により呆気なく人類の勝利という形で幕を閉じた。



そして今、俺の家に集まっている冒険者達こそ、その時の生き残りである。勿論、俺を含めて。



国家ぐるみで事実は隠蔽され、あの地獄の数ヶ月は『魔物の暴動』として扱われ、死亡した冒険者の家族には理由も知らされずに、ただ大金だけ渡されてそれ以上は無かった。



裁判を起こした者は『事実無根』として、敗訴。



魔龍暴走事件は闇に葬られ、二度と国の連中が口にする事はなかった。







「お前らが怒るのも分かる。俺もこの話を聞いた時、殴り掛かろうかと思った。⋯⋯だが、今回は違う。」



再び、俺に視線が集中した。

全員の瞳に燃える焔の様な怒りが宿っている。



「魔龍は関係ない。ただ、またあの連中がやらかした事には変わりない。しかし、俺たちの私情によって都のなんの罪もない人間が大勢死ぬのはどうだ?」


「「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」」」



皆、拳を握り締め、歯を食い縛り、グッと目を瞑り、それでも尚考えてから冒険者の1人が口を開いた。



「恨んでも⋯⋯仕方ない。元凶の科学者たちは全員死んだ。」



その言葉に釣られるようにメンバーたちは次々口を開いた。



「俺たちは人間を守る為に冒険者をやっている⋯⋯。」


「魔龍は消え去り、あの戦争は終わった⋯⋯⋯。」



それぞれが口にする言葉は全てが言い聞かせるような言い方で、怒りで震えていた。



「⋯⋯⋯続けるぞ。」



俺がそう言うと、広げられた図に模様が浮かび上がった。

王都から2本の矢印が伸び、魔物の群れを両サイドから突く様な形で停止した。



「作戦はこうだ。先ず、今回は『ツエン』の奴らと合同で作戦を展開する。各々、万全の準備を済ませた後に王都で合流、俺たちは2チームにわかれて策を展開する。


ツエンは中央から進行し、真正面からぶつかり奴らの動きを止める。


停止した所で俺たちで両方向から叩く。そして、ゴブリン、スケルトン、ガーゴイルの群れを殲滅後、前線に向かいツエン達と魔物を挟み撃ちにする。


その後、撤退。あとは俺たちの仕事じゃない。」



ある程度、数を減らせばただの魔物の集まりだ。

俺たちが出る幕でもない。フリーの冒険者達にはちょどいい経験値上げになるだろうな。



「⋯で、だが。先程の王都魔術兵器研究所、の続きだが⋯⋯これに関しては、そこの奴らが王都近くで実験を行っていた際、失敗。その時に爆発を起こした。」



それを聞いて冒険者たちは『成程』と頷く。

王都は、常時結界に守られていて魔物からの感知は愚か、目視する事も出来ない。ただ、これがかなり繊細な魔法式のもので今回の様に内側からの大きな衝撃があった場合崩れてしまうのだ。



魔物は人造物を壊そうとする傾向がある。

理由は知らない。⋯恐らくだが、古くから対峙し続けている人間と魔物。本能的に壊そうとするのでは無いのか、と、俺はみている。



「チッ、それで?王都の連中は『助けて〜』ってか?」


「全くだ、自分の身も自分で守れないのか。」





⋯⋯⋯⋯⋯。



まぁ、な。

彼処にも王都騎士団ってのがいるんたが⋯⋯

態度がデカい割に弱いし、前線に出ない。んでもって俺達が戦闘を終えるとあたかも自分たちの手柄のように都の人間にアピールする。



「⋯⋯(ハァ)⋯。⋯もう1つある。その爆発で地形が乱れ、科学者達が王都へ戻れなくなった。警備にあたっている冒険者からの連絡では、『実力者は3人で階級はツエン。今の所は問題ない』だそうだ。それと『食料は問題ないが、科学者ってのは寝床に煩い。早く助けてくれ』⋯⋯と。」



先程から重い雰囲気が抜けていなかったこの場に、僅かだか笑いが起きる。

ありがとうツエンの名も知らぬ冒険者。



「俺達は戦闘、撤退後にコイツらの救出を行う。念の為、回復魔法が使えるヤツを先に行かせたい。誰か、居るか?」


「アタシ、できるよ。」



名乗りを挙げたのは女性の冒険者。

俺は頷き「頼んだ。」と伝えてから話を続けた。



「さて、ここらで昼休憩にしよう。お前らも疲れただろ。」



俺がそう言うと、各々立ち上がり伸びを始めたりストレッチをしだした。



「休憩後、ここへ再集合。じゃあ、解散。」



ゾロゾロと家を出ていく冒険者たち。



あ゛〜疲れた〜⋯。確かに研究者の一連の事は許せないが、俺に悪口を言われてもな〜⋯



「っ的なことを思ってますね?ヴィルジール様。」


「⋯ちげーし。腹減ったなーだし。」


「そうですか。」



いつの間にか戻って来ていたグレイス。

なんで俺の心が読めるんだか⋯怖えよ。まじで。


だが。珈琲運びは中々見事だったな。⋯⋯よしよし。





⋯あっ、手ぇ弾くのね⋯嫌なのね、ヨシヨシされるの(´;ω;`)うぅッ⋯



「あのぅ⋯⋯」


「ん?あぁ、サンクイラか。どうした?」



サンクイラ・ロレタード⋯⋯以前、酒場で散々からかった挙句、痛いビンタをお見舞された、女性冒険者である。集会に来ていたのか。



彼女は広間の出入口からひょっこり頭を出している。





グレイスは言うまでもなく俺の後ろ。

正確には、装備の中。背中に密着している。カタカタとして動かない。



「いやその⋯⋯」


「⋯⋯なんだ。」



彼女は無言でモゾモゾと動いている。

なにかして欲しいのか、それとも悩んでいるのか⋯⋯ただ、チラチラとこっちを見ている。



「お、ぉ⋯⋯ぃ⋯⋯」


「あん?聞こえねぇよ。こっち来ればいいじゃねえか。」



サンクイラは少し驚いた反応をして、俯く。



「⋯⋯⋯⋯ぁ、の⋯」


「おう。」


「ぉ⋯ぁ⋯⋯⋯ぃ⋯」


「???」



ギュッと目を瞑って、数秒後、何か決心したように此方をみて彼女は叫んだ。



「お手洗い!!何処ですかッ!?」



叫んだ後の暫くの静寂。

聞いていたのか、グレイスの震えが止まる。



「⋯⋯⋯⋯え、それだけを言うためにあれだけ言い淀んだのか?」


「ッ!!男性には⋯⋯ッ⋯分からないでしょ⋯⋯⋯ぅッ!?」



途中まで言いかけて、動きが止まる。

ヤバいのか、ヤバそうだな。珈琲のせいか?いや、そんな量は⋯⋯



「ぁぅ〜──⋯ヴィルジールさん⋯⋯⋯⋯」


「まて、ちょっと待て。耐えろ。右に行って、もっかい右に曲がって直ぐだ。急げ。」



彼女は猛スピードで駆け出した。



⋯⋯⋯なんというか⋯⋯な。



「なぁ、グレイス?お前は(殴」


「レディに失礼です。以後、この様な事が無いように。」




う⋯ぐ⋯中々効くパンチじゃねえかよ⋯⋯⋯ぁ、鼻血⋯




「知りません。自業自得です。」


「なんも言ってねぇよ⋯⋯(泣)」



数分後、満足そうな顔で広間へ戻ってきたサンクイラ。

「ありがとうございました。」と俺に言ってそのまま出て行こうとする彼女を俺は引き止めた。



「何か?」


「⋯いやほら、前にさ、身長の事で⋯⋯その⋯」


「ゑ!?ヴィルジールさんが⋯ッ⋯そんな事ッ⋯⋯クフフッww」



⋯⋯え?なんか俺おかしい事したか⋯?

グレイスも背中で笑い堪えてるし⋯⋯え⋯?



「俺なんか変な事⋯⋯⋯」


「いえ⋯⋯ンッフww⋯⋯何でも、ないです。⋯ッw」












「⋯⋯まぁいい。そのだな、その事で詫びたいと思ってだな⋯。昼飯、一緒にどうだ?奢らせてくれ。」


「⋯⋯⋯ww⋯⋯⋯はい。但し、私は見た目と違って沢山食べますよ?」



任せろ、と胸を叩く。

⋯何故、ここまで笑われるのかは分からないが⋯兎に角、彼女は対してあの時の事を気にしてないみたいだし、解決って事でいいか。





グレイスが小声で「彼女とは仲良くできるかもしれません」と言ったのを、俺は後になってその発言の重大性に気が付いた──⋯







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