ありがとうを何度でも9

「えっ?何それ?聞いてないんだけど」たえが、ゆえ姉さんの結婚話が上手くいって無いのを聞いて、少し怒り気味にビックリもしていた。


「当たり前だ、口止めされてたからな」アカギ兄さんがさも当然と言った風に手に持ったお酒を一気に飲み干した。


「今、体調が悪いって言って、二階で休んでる」シマズ兄さんが「まぁ、しょうがねぇ」そう言って、肩をすくめる。


「何で教えてくれないの!?私はのけ者!?」お姉さんとの事を内緒にされたのが悔しかったのか、たえは大声を上げてアカギ兄さんを睨み付ける。


「何を言ってる、お前だって、まこととの事を一年も黙っていただろう?」フンッと鼻息一つアカギ兄さんは、あっさりとたえの言葉をはね除ける。

「それは、そうだけど……」痛い所を突かれた、たえは悔しそうに俺の方を見て、「ムーッ」と奇声を上げながら俺の袖を掴む。


 しょうがないなと、たえの頭を撫でながら、「あんまり、たえをいじめないで下さい」と苦笑いをしながら、アカギ兄さんに笑いかけると、

「五月蝿ぞまこと、大体なんで、たえは何でまこととの事を俺達に隠してたんだ?俺は、それの方が納得いかない」たえの隠してた理由を知っている俺は何とも言えない顔をして、たえを見る。


「だって、絶対からかうし面倒臭いじゃない」ムッとした顔のままのたえの一言に思わず吹き出す友人達とシマズ兄さんの奥さん。


 そして、機嫌を悪くするアカギさんとシマズさんの両お兄さん。まぁこうなるね、知ってた。


「俺達がそんな事すると思うか!?」アカギ兄さんの声に、シーンとなる。


「なんで、シーンとなるんだよ!!」


「お兄さんやシマズ君は、絶対に面倒臭いですよ」シマズ兄さんの奥さんの声にハハハと乾いた笑いを見せる友人達。


「面倒臭いって……」

 アカギ兄さんが何か、もの申そうとした時だった。


「何よ、騒がしい。たえ、帰って来たの?」ラフな赤いジャージを着たゆえ姉さんが、茶髪のロングヘアにノーメイクで頭をボリボリ掻きながらポテポテと歩いてくる。


「あっ、お姉ちゃん!!」たえは、ゆえ姉さんに飛び付いていった。

「たえ、ちょっと落ち着きな?」たえの勢いに、ゆえ姉さんは苦笑いしながら、ゆっくりと、たえの頭を撫でる。

「ゆえ、皆がいるんだぞ?何だその格好は?」アカギ兄さんがたしなめると、

「全く、グチグチ五月蝿いな?そんなんだから彼女の一人も出来ないんだよ?」アカギ兄さんを睨み付けるゆえ姉さん。


「余計なお世話だ!!」怒鳴りながら、片ヒザをついて立ち上がろうとするアカギ兄さんに、ゆえ姉さんは笑いながら、


「図星だから、怒ってるんでしょ~?たえ、ちょっと待っててね?」たえを放して陽気に二階に上がって行った。


 しばらく待つと、緩めのパンツに大きめのTシャツをラフに着こなした、ゆえ姉さんが現れた。ナチュラルメイクもして来ると、やっぱり美人姉妹だ。ゆえ姉さんもキレイだなと 、改めて思う。


「たえは、可愛いなぁ」「お姉ちゃんも相変わらずキレイ」美人姉妹二人でベタベタし始めると、友人達が「写真良いですか?」「こっち、目線お願いします!!」「良いですね、その笑顔!!」たちまち撮影会が始まってしまった。


 二人とも「しょうがないなぁ」と言いながらもまんざらでも無い顔をしてピースとかしている。


 しばらく盛り上がった後に、少し落ち着いた頃、たえはゆえ姉さんと二人話し始める。


「まさか、たえとまことが上手くいくのを、この目で見る事が出来るとは思わなかったわ」何度も友人や親類達に言われますがセリフを聞いて、苦笑いをしつつ。

「そのセリフ、何度も聞きました」たえと目を合わせる。皆から言われ過ぎて学生時代の俺達の不甲斐なさに、「お姉ちゃんにまで言われたー!!」俺の腕にすがって泣いた振りをしておどけるたえの頭を俺は、「よしよし」と撫でる。


「あっ、そうよ。お姉ちゃん、結婚の話うまくいって無いんだって?」急にガバッと起き上がった、たえの言葉に、ゆえ姉さんは兄さん達二人を睨んで、

「アカギ兄、言わないでって言ったでしょ!?」そう言って、近くにあったクッションを投げつけるとボフッと音を立ててアカギ兄さんの顔に直撃した。


「何をする、ゆえ」手に持ったお酒がクッションの直撃を受けて思い切りお酒を浴びてしまったアカギ兄さん。


 慌てて俺は、おしぼりやタオルを持ってアカギ兄さんを拭こうとすると、アカギ兄さんは俺からタオルを受け取り「自分で拭くから良い」と真顔で顔にかかったお酒を拭った。


「大丈夫ですか?」


「こんなもん、沖で浴びた塩吹雪に比べればなんて事は無いからな」ため息一つ。


「約束を破った俺らが悪い」潔いと言うかばか正直と言うか……。


「ゆえ姉さん、いくらなんでもやりすぎですよ」責める様な俺の言葉に、「悪かったわよ」バツの悪そうな顔をする、ゆえ姉さん。


「なら、分かってますよね?」


「ウッ……もう、まことには敵わないな」昔から、ゆえ姉さんは何故か俺を弟の様にと言うか猫可愛がりと言うか、昔から可愛がられていて俺の言う事にはあまり逆らわない。


「アカギ兄、その……ゴメン」

「言わされてる感が半端無いな」笑い出すシマズ兄さんに向けて、またクッションを投げようとするゆえ姉さんを必死に止める。


「もう、あんまり煽らないで下さいよ!!」慌てる俺を見て大笑いするシマズ兄さん。


「本当に昔からゆえは、まことには甘いよな?」

「だって、まことは私の可愛い弟君、見たいなものじゃない?本当に可愛くて……もう、優しいなまことは?」何故か、ゆえ姉さんに頭を撫でられる俺。

「お姉ちゃん!!まことは私の!!」腕に抱きついてプンスカ怒りながら自己主張するたえ。


 うん、可愛い。そんな俺のたえを見る視線に気付いたのか、ゆえ姉さんが意地悪そうな顔をして、

「相変わらず仲が良いわね?二人とも一年も付き合ってたなら、流石にキス位したよね?」その言葉に真っ赤な顔をする俺達。


「そうだ、そうだ、どこまで言ったんだよ?」「東京までとか、ボケたら、承知しないぞ!!」「でもなー、奥手の『あおしの』だからな?」「ねぇ、柊さん、なんか聞いてる?」「ノーコメント」畜生、皆、好き勝手言いやがって。


「そんな事恥ずかしくて言えないよぅ」妙にクネクネして恥ずかしがっている、たえをヒヤヒヤしながら見ているけど、あれって進展がありましたって言っているのと同じじゃない?


「ちょっと……もしかして、あんた達?」ゆえ姉さんが信じられない物を見るように一言。

「キス……しちゃった?」この言葉を境に悪友、友人達は「おーーー!!」「キャーーー!!」と変に盛り上がり、たえは女友達におめでとうと抱き締められ、俺は悪友達にやったな!!と背中をバシバシ叩かれて手荒い祝福を受ける。


 ヤバいな、本当の事なんて言いづらい。


 どうしよう?と、たえの方を見るとアカギ兄さんが一言ボソリと、強烈な爆撃をしてくれた。


「まことが言うには、そいつら行く所まで行ってるらしいぞ?」


 ……辺りに静寂が訪れてしまった。

















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